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●デザインもメカニズムも攻めた
2月1日に発表されたスズキの新型「ワゴンR」。24年の歴史を持つ同社の看板車種だが、今回のモデルチェンジはデザインを刷新し、マイルドハイブリッドを搭載するなど激変とも呼べる内容だ。しかし中身をつぶさに見ていくと、その方向性は変化というよりも、むしろ原点回帰であることを発見するのである。

○攻めた内容のモデルチェンジ

攻めてるなあ。2月1日に開催された、通算6代目となる新型ワゴンRの発表会を一言でまとめれば、こうなる。

過去5世代はスクエアだったボディは、トヨタ自動車の高級ミニバン「アルファード/ヴェルファイア」を思わせるダイナミックなラインを取り入れ、フロントマスクは3種類も用意された。これまでもワゴンRとカスタム版「ワゴンRスティングレー」の2種類があったが、新型は上級グレードにもうひとつ独自の顔を与えていたのだ。

○初採用の装備も豊富に

インテリアは1993年にスタートしたワゴンRの歴史で初めてセンターメーターを取り入れ、ドライバーの前には軽自動車で初のヘッドアップディスプレイを用意した。使いやすさで定評のある室内は、リアドア内側に傘を立てて置けるなど、さらに進化している。

スズキは日本車で初めてアップルの「CarPlay」を我が国で展開した先進的なブランドでもある。もちろんワゴンRもこの流れに乗っていて、CarPlayだけでなくグーグルの「Android Auto」にも対応した。

軽量化も最近のスズキの得意技。ワゴンRも例外ではなく、「HEARTECT(ハーテクト)」と名付けた新プラットフォームの採用で、ボディ剛性を高めながら20キログラムの軽量化を実現している。「S-エネチャージ」と呼ばれていたパワーユニットも高性能化が図られ、10秒以内ならクリープ走行ができるマイルドハイブリットに進化。1リッターあたり33.4キロメートルのカタログ燃費を実現した。

さらに安全面では、単眼カメラと赤外線レーザーを併用したデュアルセンサーブレーキサポートをスズキの軽自動車で初採用。衝突被害軽減ブレーキのほか、ペダル踏み間違い事故を防ぐ誤発進抑制機能などを持つ。ヘッドランプのハイ/ロー自動切り替えもやはり、スズキの軽自動車で初採用し、ESP(横滑り防止装置)は全車に標準装備した。

●初代を思わせる2つのスペースの融合
○浮かび上がる初代との類似点

キープコンセプトを貫いてきたワゴンRにとって、激変という言葉を使いたくなるほどの進化だった。でも筆者はその裏にもうひとつ、“原点回帰”というメッセージを感じた。

初代ワゴンRがデビューした頃を覚えている人は少ないと思われるが、当時スズキがこの新型車に託したのは、2シーター+マルチスペースというコンセプトだった。つまり4人乗りのファミリーカーとして考えたわけではなかった。ゆえに後席には、背もたれを倒すと座面が沈み込み、低くフラットに畳める凝った格納方式を採用する一方で、運転席側にはリアドアがない1+2ドアという個性的なボディ形状とした。

新型の発表会で、この再来と思わせる説明があった。センターピラーを太くし、前後のサイドウィンドーをはっきり分けたのは、パーソナルスペースと実用スペースを融合したデザインを表現したためと説明したのだ。言われてみれば、真横からの眺めは初代の1+2ドアを連想させるものだった。

横長のリアコンビネーションランプがバンパー上にあることも初代と似ている。初代はテールゲートの開口部を大きく取るためにこの造形としたものの、商用車っぽく見えるということで、2代目以降は縦長となってゲート両脇に移った。それが新型では再び、ゲートの開口幅を重視してこの位置に戻したのだ。

○原点回帰する意味

ではなぜ、ワゴンRは原点回帰と思われる進化をしたのか。近年の軽自動車マーケットの状況が関係していると思われる。

いまの軽自動車の売れ筋はハイトワゴンだ。ダイハツ工業の「タント」や本田技研工業の「N-BOX」がベストセラー争いを繰り広げており、ワゴンRは脇役に甘んじている。スズキにも「スペーシア」というハイトワゴンがあるのだが、ベストセラー争いには加われていない。

そこでワゴンRは、これらの争いに加わるのではなく、パーソナル性の高いワゴンという独自性をアピールすることにした。それを強調するためにデザインを激変させたようだ。

●新型ワゴンRは軽自動車の“ど真ん中”
○人気のハイトワゴンとは一線を画す仕様

ファミリーカーとして使うなら、室内の広さは大事であり、ワゴンRがタントやN-BOXと勝負するのは厳しい。でも逆に、この2台にはデザインの自由度が少ない。スズキはここに目を向け、ワゴンRに凝ったデザインを与えたのではないだろうか。

スズキの代表取締役社長である鈴木俊宏氏は発表会に登壇し、「ワゴンRは軽自動車のど真ん中のクルマ」と言い切った。ベーシックな「アルト」、ハイトワゴンのスペーシア、SUVの「ジムニー」や「ハスラー」など、さまざまな車種をそろえる中で、中心に位置するのがワゴンRというメッセージだ。

そのワゴンRが、ハイトワゴンが人気だからといって背を高くしたり、スライドドアを装備したりしたら、ど真ん中ではなくなってしまう。ハイトワゴンとは一線を画すという意味を込めた言葉でもあったようだ。

もうひとつ、テレビCMにも原点回帰が見られた。広瀬すずさんと草刈正雄さんの2人を起用したCMで、車名の最後のRを「○○であ〜る」と語尾にアレンジして使っていたからだ。

ワゴンRという車名の由来が、実はここにある。当初は別の車名を考えていたというが、スズキとして初の軽ワゴンであることから、当時の代表取締役社長で現会長の鈴木修氏の「セダンもある、ワゴンもあ〜る」という一言が、そのまま車名になったと言われる。そのときのフレーズを新型のCMで使っていたのだ。

○ブランドで売る戦略、着々と

昨年デビューした小型クロスオーバーの「イグニス」では、スズキはかつての名車「フロンテクーペ」やSUV「エスクード」などのデザインモチーフをボディの各所に取り入れることで、スズキらしさを絶妙に表現していた。これと同じような戦略を新型ワゴンRからも感じたのだった。

スズキは2年前、「お行儀の悪い売り方」、つまり行き過ぎた販売競争から脱却すると宣言した。言い換えれば今後はブランドで売っていくと宣言したわけだが、その方針は昨年のイグニスや今年のワゴンRを見る限り、独自のスタイルで着実に実践されつつあると感じた。

(森口将之)