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●電子帳簿に興味はあるが、まだ現実的ではない
LIXILは2011年に、国内の主要な建材・設備機器メーカーが統合することで誕生した。家の内装から各種設備、エクステリアまでをすべてを手がける企業は、世界的に見ても珍しいという。一般的な家屋や店舗だけでなく、虎ノ門ヒルズなど大きな商業施設やオフィスビルを丸ごと手がけている例も多い。

しかし、多くの企業が集まって誕生した組織だけに、内部的な事務処理や各種システムの統合自体はまだ終わっていない。それを是正するため、2014年に立ち上げられたのが「L-ONEプロジェクト」と呼ばれる社内プロジェクトだ。全社のシステムやサプライチェーンの統合などをはじめとして、大小50のプログラムが設定されている。その2/3程度は、2017年はじめの時点ですでに稼働しているが、全体の完了は2019年1月を目指している。

その1つとして2015年7月、新たに導入されたのが「Concur」だ。旅費精算を効率化するために導入され、社内での申請フローは、領収書そのもののやりとりを不要としている。しかし、元本保存は行っているという。

「電子帳簿保存法には非常に興味があり、実行可能な状態になったらすぐにやりたいと考えています。しかし、現状では厳しいですね。現実的ではありません」と語るのは、LIXIL 理事 CIO 兼 情報システム本部 本部長である小和瀬浩之氏だ。

○ノンコア業務の削減を目指して「入力レス」の旅費精算システムを構築

まず、LIXILが導入した交通費精算システムの動きと、その導入にあたっての工夫を紹介しよう。

もともと全社的なシステム統合が「L-ONEプロジェクト」によって要求されていたわけだが、LIXILではこれを機会に旅費精算の手法そのものを大きく刷新した。

「いわゆるノンコアの業務をできるだけなくしたいと考えていました。旅費精算などはその代表で、そもそもやらずに済むならその方がよいものです。全社統合は仕組みを入れ替える絶好の機会ですから、表面的なシステム統合にとどめず、業務そのものの見直しを行いました。この機会を逃してしまえば小さな調整はともかく、全面的な見直しは10年、20年後でないと行えないでしょう」と小和瀬氏は統合にあたっての考えを語る。

従来は、現場担当者が領収書を貼り付けた精算書を作成し、直属の上長を含む数名が承認作業を行った後、支払いが行われていた。精算業務が面倒で、立替えた旅費がなかなか戻らないということで、現場には不満があったという。

「具体的に目指したのは、入力レスというやり方です。人間が入力するからミスが発生することが前提になり、厳しいチェックが必要になります。それによって、手間と時間がかかります。しかし、入力が不要になればミスもなくなり、チェックの必要も最小限になります。また、不正もできなくなるはずです」(小和瀬氏)

入力レスというのは、自動的に取得できる情報を最大に活用することだという。

まず出張の多い社員には、会社名義のクレジットカードであるコーポレートカードを支給。長距離の電車代や宿泊費を中心に、タクシーなども含めてクレジットカードで精算する方法を採用した。また日常の交通費については、個人が所有するSuicaなどの交通系ICカードを活用。精算システム上で行き先等を選択して明細を作り、利用履歴で確認するという形を採用した。

「画面上でも行き先などを簡単に入力できるようにしました。たとえば本社と営業所の往復などは多くの社員が行う動きですが、『いつも利用するところ』という感じで選ぶだけで入力が完了します」と小和瀬氏は現場処理の簡便化を語る。

●勘定項目の大幅削減や承認段階の1段階化など社内業務を改革
社内規則に関しても、大きな改革があった。1つは、出張における交通費と宿泊費の実費精算の採用だ。

「以前は職位ごとに1日いくらという設定がありました。しかし特別安いところを選ぶようなことをしなくても、地方によっては宿泊費が安く済んでしまうこともあります。職位が高い人間は出張ごとに小遣いができてしまうのです。細かいことですが、クレジットカードも一旦個人のもので処理して精算すると、ポイントが自分につきます。こういった出張が多い人間とそれ以外の間にある不公平をなくそうということで、実費精算にしました」(小和瀬氏)

さらに同社は、勘定科目の整理や承認フローの見直しも行った。

「まず旅費に関する勘定項目が70ほどあったものを10個以下に削減しました。細かく分けているものの、現実には使っていないというものをなくした上で、さらに利用の多いものをリストの上位にして選びやすくしています。また、承認も最大6段階ありましたが、すべて1段階、直属の上長のみとしました。承認作業はスマートフォンからでも行えるようにし、承認者が不在なため、精算が滞るということをなくしました」と小和瀬氏は語る。

承認を1段階にしたのは、Concurの基本機能では1段階の承認しか行えないことが発端だ。もちろんカスタマイズは可能だが、LIXILではあえて業務にシステムを合わせるのではなく、業務をシステムに合わせるようにした。

「Concurを選択したのは、米国でスタンダードとなっていたからです。グローバル契約にしたいという思いもありました。そんな海外でスタンダードなConcurが1段階でいいとしているわけですから、世界標準に合わせることにしました。クラウド化にあたって、できるだけシステムに合わせようと決めました」と小和瀬氏は語った。

○導入効果は3億円!業務改革を伴うシステム導入の価値

LIXILは200社近くの関連会社を持ち、全国に800もの拠点が存在する。全体で1年間に処理する精算書類は、約20万枚にも及ぶという。今回新システムを導入したのは効果が見込める63社にとどまるが、それでも利用者数は24,000名と膨大だ。Concurのアジアユーザーとしても最大規模になるという。

ユーザー数が多いだけに、導入効果も大きい。導入した関連会社において入力レスとなった自動化率は約93%と高く、管理工数削減などによる効果は約3億円と見込んでいるという。

「業務改革を行ったので難しい部分もありましたが、全社導入に先駆けたテストケースとして情報システム部で2カ月間、従来方式との二重処理を行いました。そこでの作業時間記録を規模に合わせて計算したのが3億円という効果です。2カ月間やってみて、現場も経理もこれならやれそうだという手応えをつかみました」と小和瀬氏。

新システムへの切り替えにあたっては、経理部門が社内のナレッジマネジメントの仕組みを利用してConcurの利用方法のノウハウ集を作るなど、現場への周知を行った。

「システム導入が目的ではなく、業務効果のあるシステムを作ることが目的です。新システムで現場が大変になるのでは意味がありません。そのためには業務改革が必要です。業務改革は大変だといいますが、旅費精算業務が改革ができないようでは、メイン業務の改革はできないと考えています」と小和瀬氏は力強く語るが、それでも現状の電子帳簿保存法を見た範囲では、すぐに対応とはいかないようだ。

●海外出張時はどうする? 3日以内のタイムスタンプは非現実的
「実は、新システムではすぐに精算が行われることもあり、元票がきちんと集まらないことがあるという課題があります。システムに登録すると領収書を貼り付ける台紙がプリントされ、そこに領収書などを貼り付けて後日提出するという方式なのですが、忘れてしまうようです。届くのが遅い時にはアラートメールを送るシステムにしようかと考えつつも、もし電子帳簿保存法対応ができるのなら無駄になるからと待っていたのですが、早急に手をつけた方がよさそうですね」(小和瀬氏)

同氏が特に気にするのは、現場担当者自身がスマートフォンで処理するには、3日以内にタイムスタンプを付加する必要があるという部分だ。

日々の業務に追われる現場にとって、3日間というのはあまりにも短い。当然、間に合わなかったという人も出てくるはずだ。

「海外出張になれば1週間や10日は当たり前です。海外のホテルで日付を確認して撮影して、というのは大変ですし、ミスも多くなりそうです。そもそも出張先によっては、戻ってくる時の日付変更で3日目が消えたというようなこともあり得るのではないでしょうか」と小和瀬氏は課題を指摘する。

現場で処理してよいものと経理部門で処理するものが並行して動く状況は、ミスの多発が考えられる上に、管理的にも難しくなる。しかし現場に出張時も含めて必ず3日以内に作業をするようにと要求するのは、小和瀬氏がいうところの現場に苦労をさせるシステムになる。LIXILの場合は入力レスのシステムができていることもあり、むしろ処理時間は増える可能性も高い。

処理件数が多いだけに電子化の恩恵は大きいLIXILだが、現状は現場の業務がスムーズにまわるのかという不安がある。今後のさらなる規制緩和を期待しながら、新システムの運用を続けると小和瀬氏は語った。

(エースラッシュ)