北朝鮮の人権状況をオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に付託し人権侵害の責任者を処罰するよう国連安全保障理事会に勧告する決議案を、2016年12月19日(現地時間)に国連総会が最終採択した(参考:「第71回国連総会本会議における北朝鮮人権状況決議の採択」外務省)。

 筆者は脱北者であり、現在は韓国で暮らしている。筆者から見て今回の採択はきわめて大きな意味を持つ。北朝鮮の人権問題のICCへの付託は、北朝鮮住民が人間としての尊厳と価値を取り戻すまたとない機会になると考えている。

人権侵害を主導・統制する金正恩

 人間としての尊厳と価値を保障される権利を人権という。個人は人権を保障してもらうために政府を組織し、選挙を通じて価値配分の権限をリーダーに任せる。リーダーが任されたその権力を私有化する場合、それを一人独裁という。独裁権力は絶えず強化していかなければならないが、これは人権蹂躙を前提にする属性を持つ。

 そのため、人権は革命の火種であり推進体となる。1776年7月に採択されたアメリカ独立宣言文も、1789年8月フランス革命で採択された「人間と市民の権利の宣言」という人権宣言分も、みな人権革命の結果物である。特に従来制度の封建的特権を廃棄し身分制度の足かせを打破したフランス革命は、人間の自由と平等、国民主権、財産権を保障する人権の根元とされる。

 人権の重要性は、1948年12月10日の国連総会で58カ国のうち50カ国の賛成によって採択された「世界人権宣言」を通じて公表され、1976年には国連の人権宣言が国際法に採択された。その後、ローマ規程に則って設立されたICCが国際法を担当している。ICCは集団殺害犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪を犯した個人を訴追する常設の裁判所である。法律的にも機能的にも国連からは独立している。

 国連総会では2005年から毎年、北朝鮮人権決議案が採択されており、2013年からは人権侵害の責任者の処罰を勧告する内容も決議案に含まれている。今回採択された北朝鮮決議案の中で最も注目すべきところは、「北朝鮮内の人権侵害がリーダーシップ(指導者)の効果的な統制」の下で行われた点を強調し、いわば最高指導者・金正恩を人道に反する犯罪の責任者として明示したことである。

 ICCが人権犯罪を犯した責任者を断罪した事例として、コンゴ民主共和国の反軍指導者トーマス・ルバンガが挙げられる。彼は15歳未満の子どもを兵士として徴用し人種清掃に動員した戦争犯罪で禁固14年の刑を言い渡され、2016年末にオランダ・ハーグ刑務所に収監された。

北朝鮮における人権とは国権

 金正恩の人道に反する犯罪行為は、トーマス・ルバンガの犯罪より深刻な水準である。

 金正恩は北朝鮮体制の統治基盤である党と国家権力を先代から継いだ3代目の独裁者である。父の金正日の死去(2011年12月)以降強まった金正恩の恐怖政治は、人道に反する犯罪の極まりと言っても過言ではない。

 自分の叔父の張成沢を高射機関銃で処刑し、玄永哲人民武力部長を裁判もしないで処刑したのが代表例である。人道に反する犯罪の代名詞である政治犯収容所も依然として存在する。

 金家の血統による権力世襲を維持するために階級構造をつくって北朝鮮住民を管理している。このような身分制の階級構造を維持することは、国民が追求する全ての権利を忠誠の義務に切り替えたことで可能になった。

 北朝鮮において人権とは国権を意味する。そのため個人の尊厳と価値は剥奪され、2500万人の人民の中で、いわば最高尊厳である金正恩の人権のみが存在する。

 今回の決議案では、「強制労働並みとされる環境で働く海外の北朝鮮労働者に対する搾取」「北朝鮮が核兵器およびミサイルの開発に財源を転用することが住民の人道主義的、人権状況に及ぼす影響が大きい」などの表現が盛り込まれ、WMD(大量破壊兵器)の開発による人権問題の深刻性が明らかに示された。

 もちろん、公開処刑問題、政治犯収容所内の監禁、虐待、拷問、強姦、海外労働者の強制労働、脱北者の強制送還、外国人拉致など、今まで指摘されてきた人権蹂躙の代表的な事例も含まれ、国際社会が懸念する北朝鮮人権の深刻性を反映している。

金正恩をICCの法廷に立たせよ

 今回の決議案がその内容通りに履行されれば、従来の国連による経済制裁措置とあいまって北朝鮮に心理的な打撃を与えることができる。

 今回の国連決議案の採択で、北朝鮮の高級階層の人々は「国際的な犯罪者」と烙印が押され、金正恩の権威は地に落ちて独裁権力の行使が難しくなるだろう。人権侵害の最終責任者の金正恩とこれを黙認、幇助した者も処罰対象であることを明らかにし、最後まで追いかけて司法的に断罪すると世論を喚起するなら、北朝鮮政権に対する圧迫効果が高まるはずである。

 もちろん、国連総会で決議されたとはいえ、安全保障理事会の常任理事国である中国とロシアのネガティブな態度のせいで安保理での採択は不透明である。しかし、人権は人類の普遍的価値であることを考えて「北朝鮮人権問題をICCできちんと裁くべき」という世論が強まれば、中国とロシアも拒否権を行使できなかろう。

 金正恩をICCの法廷に立たせることは簡単ではないだろうが、実現すれば北朝鮮権力層に動揺を引き起こせる強力な圧迫手段となる。また、これは人権革命のきっかけにつながるだろう。北朝鮮において真の変化は、人権革命である。

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筆者:崔 慶嬉