Jamie Vardy masks are left on the seats ahead of the English Premier League football match between Leicester City and Everton at King Power Stadium in Leicester, central England on December 26, 2016. (c)


 最近、日本企業の生産性が下がっているという記事を目にすることが多い。

 日本はGDP(国内総生産)は世界第3位でも、1人当たりGDPとなると世界第26位と、決して高い順位とは言えないことから、日本企業の生産性がなぜ低いのかが問題視されている。

 生産性を上げるためには、低コストでより高いパフォーマンスを上げることが求められるが、その最たる例は「人」だろう。

 同じ給料でも育成の仕方によって人のパフォーマンスは大きく変わる。自らの頭で考え、報告・連絡・相談をきちんと行ったうえで、自発的にアクションを取る。そういったメンバーから構成される組織の生産性は自ずと高くなる。

指示待ち部下が生まれる理由

 一方で、言われたことしかやらず、受動的・消極的な姿勢で仕事をこなすだけのメンバーから構成される組織の生産性は低くならざるを得ない。

 ただ、前者と後者のような違いはあっても、給料の額はそれほど変わらないといったケースは少なくない。

 「うちの部下は指示待ち人間ばっかりですよ。自分の頭で考えて動こうとしない。一から十まで全部自分が指示しないと動かないんです。ほんとに困ったもんですよ」

 私は公認会計士、心理カウンセラーとして経営コンサルティングの仕事をしているが、こういった現場の状況に悩み、生産性が上がらずに困っている企業は少なくない。

 指示待ち人間が多い組織は組織全体として業務効率が悪く、機動性にも欠ける。また、部下が指示待ち人間だと上司の業務効率が大きく下がる。

 ただ、いろいろな企業のコンサルティングをする中で、部下が指示待ち人間となっている原因は少なからず上司の側にも存在すると感じている。

 行動分析学に好子(こうし)と嫌子(けんし)という概念がある。

 好子とは特定の行動を増加させる働きを持つ刺激のことを言い、嫌子とは特定の行動を減少させる働きを持つ刺激のことを言う。

 例えば、部下がオフィスの掃除をしているのを見て褒めたところ、部下が掃除をすることが多くなった、という事例であれば、「掃除をする」という行動に対して、「褒める」ことが好子となって、「掃除をする」という行動を増加させている。

 一方、部下が頻繁に遅刻しているのを見るに見かねて叱ったところ、部下が遅刻をしなくなった、という事例であれば、「遅刻をする」という行動に対して、「叱る」ことが嫌子となって、「遅刻をする」という行動を減少させている。

好子と嫌子を使い分けて人を動かす

 このように人はコミュニケーションの中で好子、嫌子を発現させることで相手の行動に影響を与えている。

 好子の例としては、褒める、肯定する、話を聞く、共感する、うなづく、感謝の言葉を伝える、笑顔になるなどが挙げられる。一方、嫌子の例としては、叱る、怒る、否定する、無視する、無関心、無表情、しかめ面をするなどが挙げられる。

 部下が自らの頭で考え、報告・連絡・相談をきちんと行ったうえで、自発的にアクションを取るようにするためには、そういった行動に対して上司が好子を発現させる必要がある。

 部下が自らの頭で考えて意見を持ってきた時は、しっかりとその意見を聞く姿勢を持ち、仮にその内容はいまいちであったとしても、自らの頭で意見を考えて持ってきたこと自体は褒め、そのうえでその内容の修正すべき点を指摘する。

 上司がこのように好子を発現させながら部下と関わることで、部下の自発的な行動を増加させていくことはできる。

 しかし、せっかく部下が一生懸命考えて持ってきた意見に対して聞く耳を持たなかったり、その内容のダメな点だけを指摘したり、頭ごなしに否定したりして、嫌子を発現させるだけだと、部下の自発的な行動は減っていく。

 加えて、上司が「余計なことはするな。いいから俺の言う通りにしろ」と言わんばかりに自らのやり方を一方的に押しつけ、部下が自らの頭で考える機会を与えないような関わり方をすると、部下は自発的な行動をする機会すら持てなくなる。

 自らの頭で何かを考え提案しても、まともに聞いてくれない、ダメ出しされる、余計なことはするなと怒られる、上司のやり方を押しつけられる、ということが続くと、部下は「じゃ、言われたことだけ淡々とやろう」という考え方を持つようになり、指示待ち人間としての働き方が定着していく。

 そんな部下の働きぶりを見て、「うちの部下は指示待ち人間ばかりだ・・・」と上司が嘆く。そんな構図に陥っている例は少なくない。

 「部下の出鼻をくじいてはならん」

経営の神様、松下幸之助の教え

 これは経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏の言葉である。部下が自発的に提案してきたことに対しては、そのこと自体を否定するようなことはあってはならない。それでは部下は育たない。

 必ず何らかのねぎらいの言葉をかけるべし。そういった考えのもと、幸之助氏は部下を育成していた。

 幸之助氏は皆の意見を集めれば、どんな問題でも克服できるという考えのもと、「衆知を集める」を経営のポリシーとしていた。そして、「〇〇君、どや調子は。何かわしに言いたいことはないか?」と部下に言葉をかけ、話を聞いて回っていたという。

 部下の話を聞くというポリシーを持っておられた幸之助氏であるが、それは多くの知恵を集めるという利点だけでなく、部下が自らの頭で考えて自発的に意見を提案するようになるという利点をももたらしたと考えられる。

 リーダーのそういった姿勢は、自発的に動く部下を生み出していく。

 また、自らの意見を上司が聞いてくれた、あるいはそれを上司が褒めてくれたということは部下にとって成功体験となる。

 人は成功体験を積み重ねることで、徐々に自信をつけていくことができる。自らの能力や仕事に対して自信が持てるようになると、モチベーションもパフォーマンスも大きく上がる。

 しかし、自らの意見を上司に聞いてもらえなかったり、否定されたりすると、それは部下にとっては失敗体験となる。失敗体験を繰り返すと、自信は失われる。自信が失われると、仕事ぶりも消極的になり、モチベーションもパフォーマンスも下がる。

 このように上司の部下に対する対応は部下の自信に大きな影響を与える。その結果、組織やチームの生産性にも影響をもたらす。

部下の自発性を殺す上司の発言と行動

 ただ、気をつけなければいけないのは、部下の自発的な行動を潰してしまっている上司にその自覚がないということがあるということである。

 忙しくて、部下の話をまともに聞いていなかった。部下の成長のためだと思ってその意見のダメな点を指摘するも、自らの頭で考えたことに対して褒めたり、肯定したりすることはなかった。

 部下の意見よりも自分のやり方の方が部下も仕事が早く進むだろうと思い、自分のやり方を教えたが、結果として部下の意見を否定していた。

 上司に悪気があるわけではなく、何となく取ってしまっている行動が、自らの頭で考えて動くという部下の行動に対する嫌子となり、そういった行動を減少させ、指示待ち人間を作ってしまう。こういったケースこそ根が深い。

 生産性を上げる。これは複雑な要素が絡み合うテーマであり、どこから手をつけたらよいかも分からないということもあるかもしれない。

 ただ、上司の関わり方、発する言葉や態度が部下の行動に大きな影響を与え、それがモチベーションやパフォーマンスを左右する重要な要因となっているということを上司が自覚することは、生産性を上げるための確実な一歩となるのではないだろうか。

筆者:藤田 耕司