<入国禁止、国境の壁建設、TPP離脱などニュースでよく聞く「大統領令」だが、どんな根拠と歴史があり、どの程度の効力を持つのか。無効にする方法はあるのか>

これほど「大統領令」という言葉を目にする機会があっただろうか。

オバマケア(医療保険制度改革)の見直し、メキシコ国境の壁の建設、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱、そして何と言っても、中東・アフリカ7カ国からの渡航者の入国禁止......。

ドナルド・トランプが1月20日の米大統領就任後、矢継ぎ早に署名してきた数々の大統領令は、トランプ時代の始まりを強く印象付けた。実際、署名後すぐさま効力を持つため、全米(ならびに世界各地)の空港で出入国管理の混乱を招き、各地で反対のデモが起こっていることは報じられているとおりだ。

【参考記事】トランプの人種差別政策が日本に向けられる日

いかにも強力な"武器"に思えるが、そもそも大統領令とは何か? どのような根拠があり、どの程度の効力を持つのだろうか。

大統領令の法的根拠とは?

大統領令とは、行政府の長である大統領が連邦政府機関(軍を含む)に対して発する命令のこと。米政府・政治の資料サイトThisNation.comによれば、大統領令を出す権限の根拠は合衆国憲法第2章第1条の「執行権」にある。第2章第3条には、大統領は「法律が忠実に執行されることに留意」すべしとの文言も。ただし、権限の範囲が憲法で明確に定められているわけではない。

どれだけ効力があるのか?

大統領令に議会の承認は必要ないが、議会が成立させる法律とほぼ同等の効力を持つ。むしろ法律のように時間がかからないため、大統領がすぐに政策を実行できる便利な手段といえる。

議会が通した法案を拒否できる「大統領拒否権」と並んで、大統領の強力な"武器"であることは確かだろう。

ただし、前述の「法的根拠」にあるように、命令は連邦政府機関に対するもので、その効力は連邦政府内に留まるとされる。

また、入国禁止の大統領令はすぐさま実行に移されたが、例えばメキシコ国境の壁は誰の負担でどのように建設するのか。予算案を議会が承認しないことには実現しないだろう。

本誌ワシントン支局のエミリー・カディはこう書く。「大統領令そのものが新政権の主要な政策を前進させる見込みはほとんどない。そもそも、具体的な政策というより、メッセージを発信して新政権の方向性を示すものだという見方もある」(本誌2017年2月7日号「政治ショーと化した大統領令狂騒曲」より)

歴史上これだけの乱発は珍しい?

ThisNation.comによれば、初代大統領のジョージ・ワシントン以来、すべての大統領が大統領令を活用してきた。1862年のリンカーンによる「奴隷解放宣言」(これも大統領令だった)から通し番号が振られており、現在までに1万3000を超えている。

ルーズベルトは第2次大戦中、日系人の強制収容を可能にする大統領令を出した。アイゼンハワーは公民権運動の高まりの中で、学校内での人種差別を阻止する大統領令を出した。ブッシュは9.11テロを受け、テロ組織が国内に持つ資産を凍結する大統領令を出した。歴史上、重要な大統領令はいくつもあった。

バラク・オバマ前大統領も2014年には、共和党が下院で多数を占める状況で政策を推し進めるべく、大統領令を活用する方針を一般教書演説で明らかにしていた。

数を見てもトランプだけが乱発しているわけではないが、選挙戦を経てアメリカ社会が分断している状況下で、賛否両論のある公約を実現すべく次々と出しており、それが今回、大統領令が目立っている一因だろう。

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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部