■鹿島アントラーズ・小笠原満男インタビュー(後編)

 2016年シーズン、7年ぶりにJリーグ王者に輝き、天皇杯とともに二冠を達成した鹿島アントラーズ。FIFAクラブワールドカップでも日本勢として初の決勝進出を果たし、"常勝軍団"は完全復活の兆しを見せた。

 そんなチームの精神的支柱であるキャプテンの小笠原満男は、今季でプロ20年目を迎える。これまで数々のタイトルを獲得し、今なお、チームの主力として活躍しているが、その欲は尽きることがない。だからこそ、本人にとって2016年は不本意なシーズンでもあった。

「やっぱり、タイトルの瞬間にピッチにいられなかったのは......悔しかったです」

 この春には38歳となる小笠原は、昨季は明らかに途中交代が多くなった。チャンピオンシップ、天皇杯決勝ともに、先発で出場しながら、タイトルが決まる瞬間はベンチで見守った。累積警告での出場停止やケガを除けば、優勝を決める試合終了のホイッスルをピッチで聞くことができなかったのは、まだ試合に出ることもままならなかったプロ1年目にまで遡(さかのぼ)る。ゆえに、秘める悔しさは想像に難くない。

 しかしながら、普通に考えれば、小笠原の年齢でシーズンを通してフル出場するということは、むしろ驚異であり、途中交代が増えることは、自然な流れにも思われる。それでも......小笠原自身には"年齢"に抗(あらが)おうとする思いがある。

「なんか......年齢だけで判断されるのは悔しいじゃないですか。体がもたないでしょ、とか思われるのは。天皇杯の決勝でも、年齢がひとつ下の中村憲剛(川崎フロンターレ)は、最後までピッチでやっているわけだし。いくら最後に力が尽きそうになったとしても、やっぱり他との違いを生み出せるのが憲剛だしさ。でも自分は、そう思われていないわけで......だから悔しいよね」

 やるせない表情が余計にその悔しさを物語る。しかし、そんな小笠原の気持ちとは裏腹に、今後も途中交代や途中出場が増えていく可能性は少なくない。そうした"流れ"は理解しつつも、受け入れられない信念がある。

「どんなときでも(試合の)スタートから出たい。最後までピッチに立っていたい。そんなのはもちろんのこと。その気持ちがなくなったら、選手として終わりだから。『途中からでもいいや』とか、『フル(出場)じゃなくてもいい』とか、そんなことを考え出したら、もう終わりだと思う」

 そして静かに、力強くこう続けた。

「悔しいけど、すべては自分のがんばりでなんとでもなることだから」

 最近は監督やコーチが、小笠原のコンディションなどを考慮して、みんなが10本やる練習を「8本にしておくか?」などと聞いてくることもあるという。だが彼は、いつもその配慮を断り、みんなと同じ本数のメニューに取り組んでいると話す。

「周りは気を使ってくれるんですけど、『いいや、やります』って言って。負荷を落としたら、終わりだと思うし。(中田)浩二が引退するとき、あいつは最後まで練習を休まないでやっていたから、オレもできるだけ休まないようにしようって、いつも思っているんですよね。

 だから、昨年も1日も休まないで全部の練習をやったし、あらゆるメニューもみんなと同じものを同じだけやった。疲れているときは休んでいいよ、って言われるけど『やります』って言って。やっぱり、そういう姿を(後輩に)見せておくことも、絶対に大事だと思うから。正直、休みてぇなって思うこともあるんですけどね(笑)」

 練習から全力でやる――これまで、小笠原の口から何度となく聞いた言葉だ。"常勝"の精神は、練習から始まっていると。

「練習も試合も常に競争だと思っているから。『オレは絶対だ』なんて思ってはいない。いつでも、ダメになったら(スタメンから)外されるっていう覚悟を持ってやっている。でもそれは、上の人(歴代の先輩)たちみんなが見せてきてくれたものでもあるんですよね。浩二もそうだし、ゴウさん(大岩剛コーチ)とか、ヤナさん(柳沢敦コーチ)も、最後までそうやってきてくれたから、オレらも同じことをする番だなって思っています。

(ベテランの)オレらが練習を休んでしまえば、他の選手みんなも休めると思ってしまう。そうしたら、チーム全体の負荷がどんどん落ちていく。オレらが文句を言えば、みんなも文句を言い始める。だけど、そういうことは許さないってことを、上の人たちみんながずっと示してきてくれたから、今がある。そこは、オレらも継承していかないといけないよね」

 負けず嫌いに、努力に、常勝軍団を確立していくのに、年齢は関係ない。その思いは小笠原だけが抱いているものではなく、過去の先輩たちから受け継がれている思いでもある。

「それが、アントラーズの"カラー"だと思いますね。どんな選手でもみんな、やっぱりポジションは失いたくないから、ちょっとやそっとのことじゃ、練習を休まない。体のどこかがちょっと痛いと言って1日、2日と練習を休んで、スタメンから外れていった選手を、オレはいっぱい見てきていますから。そういうのがきっかけで、チームを去っていった人も見ているし......だから、最後まで諦めずにすべてにこだわりたいですよね」

 それでも、年齢を重ねることによって体力は衰えていく。その現実を、小笠原はどう見つめているのだろうか。

「体力的なこと、例えばスプリントの回数とかは、確かに(若い頃に比べれば)少なくなっているかもしれない。でも、今のほうが力の使いどころを知っているというか、試合の疲労度は、むしろ若い頃のほうがありましたね。筋肉痛とか。今は筋肉痛にはならないですから。

 若い頃は、体の使い方とか、力の抜き方とか、そういうコントロールがうまくできていなかったのもあって、いろいろなところに力が入っていたというか。だから、疲労度は昔のほうがあるんだと思います。それが経験を重ねていくにつれて、頭を働かせて、効率よく動いて、肝心なところではハードワークを増やす、ということが身についていくので、年齢がどうこうっていうことを強く感じることはないですね」

 そう話すと、はにかみながら言葉をつなげた。

「でも、よくよく考えたら、昔からあんまり疲れたとかって、ないんだよね(笑)。だって幸せなことじゃん、サッカーができるっていうのが。震災のときも思ったけどさ」

 小笠原にとって、原動力のひとつになっているのが、6年前に起きた東日本大震災で被害に遭った、故郷・東北への思いがある。いまだ仮設住宅で生活している人たちも多く、子どもたちが大好きなサッカーを思う存分楽しむことができていない現状に、ずっと胸を痛めてきた。そのため、東北出身のJリーガーを募って『東北人魂』としての支援活動を行なってきた。震災後、年始のオフには必ず東北の各県を訪れ、それは、震災から6年経った今も変わらない。

 そのイベントでは、サッカーをしたことがない子どもたちも一緒に、みんなでボールを蹴って、少しでも元気になれるようなものを今までは心がけてきていた。しかし6年目となる今回からは、未来のJリーガーを育成すべく、サッカーをがんばっている子どもたちが本気で勝負できる場を提供することになった。現役Jリーガー自らがMVPや健闘賞などを選出し、本格的な『大会方式』のイベントへとステップアップさせた。

「そろそろ、より真剣にやりたいねって、他の選手たちともよく話をしていたんです。日程的なものもあって、だんだん参加できるJリーグの選手も少なくなってきた中で、『何かいい形はないかな』と考えたときに、東北人魂として大会を作れば、参加できる選手、参加できない選手の数にかかわらず、ずっと続けていけるんじゃないかなと思って。やっぱりこうした活動は続けていくことに意味があると思うから。

 しっかり試合で勝ち負けをつけて、子どもたちにもやるからには真剣にやってもらう。この活動の目的でもある、『東北からより多くのJリーガーを輩出する』ということを実現するためにも、子どもたちにはもっと上を目指してほしいなって思っているんです」

 そうして、開催された第1回となる『東北人魂カップ』は、宮城県の松島で、東北の小学生チームが8チーム参加して行なわれた。その最中、各チームの指導者から、小笠原はこんな言葉をかけられたという。

「実は今回、参加した指導者の方々から『2、3チーム集まって練習試合をやることはあっても、普段はこんなに多くのチームが集まる大会はなかなかないから、本当にありがたいです』って言ってもらえたんです。それは、うれしかったですね。

 確かに、東北では積雪などに左右されることなく、ボールを自由に蹴れる広い環境というのは、まだまだ本当に少ない。でも、東北人魂への寄付と自治体が協力して創設した(岩手県)大船渡のグラウンドが人工芝設置の実現に向けて動いているし、(福島県の)Jヴィレッジも東京五輪に向けて復興を目指している。そうやって環境が整っていけば、東北各地に広い会場ができるので、今後はそれらの場所を転々と渡って、それぞれで大会を展開していってもいいなって思っているんです」

 今大会、MVPや得点王に選ばれた子どもたちは、Jリーグの選手が実際に履いたスパイクを直接手渡されて、うれしそうに目を輝かせていた。

「こういう子どもたちに、自分もサッカー選手になって、Jリーグで優勝できるかもっていう夢を持ってもらいたい。実際、オレらのように東北からもそういう選手が出ているんだから『自分も』って思ってもらえたら、うれしいですよね。そのためにも、オレらはまだまだタイトルにこだわって、がんばっていかなきゃいけないって思いますね」

 例年になく短いオフを経て、新シーズンに向けて始動した鹿島アントラーズ。小笠原の、飽くなきタイトルへの毒のように強い欲は、昨シーズン以上に後輩たちを侵食しているはずだ。『ぶっちぎりで優勝したい』という負けず嫌いの思いは、今季のチームをどれぐらい蝕(むしば)んでいくのだろうか。

佐野美樹●取材・文 text by Sano Miki