photo by Sorovas via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

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「北方4島での共同経済活動実現に向けた協議開始を合意」――。

 北方領土問題の解決という意味では、成果はゼロに等しかった昨年末の日ロ首脳会談。しなやかさとしたたかさを併せ持つロシア外交の狡猾さをまざまざと見せつけられた格好だが、安倍首相としては、民間も含めた総額3000億円にのぼる8項目の経済協力をとば口にして、改めて領土交渉の再開を目指したい構えだろう。

 今も「食い逃げされた」と批判が燻っているロシアに対する8項目の経済協力だが、実は今回の合意からは外れたものの、会談前からにわかに注目されていた壮大なプランがあった。かねてよりロシア側から熱心な働きかけがあった「シベリア鉄道の北海道延伸計画」だ。

 100年前に開通しユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道は全長9297kmに及び、日本海沿岸のウラジオストクとモスクワを7日間で結ぶ世界最長の路線。幻となった延伸計画では、大陸とサハリン(樺太)間の間宮海峡(約7km)、サハリンと北海道・稚内間の宗谷海峡(約42km)を巨大な海底トンネルで結び、実現すれば、鹿児島からロンドンまでの鉄道旅行さえ可能になる夢のプランだったのだ。

◆壮大な計画は「夢物語」か?

「日ロ首脳会談前から、鉄道ファンの間ではかなりの話題になっていました。宗谷海峡に海底トンネルを通すのは、日本の技術力を考えればそれほど難しくないでしょう。青函トンネルのほうが53.8kmと長く、推進も深く、さらに本州と北海道の地質が違う難工事だったが、成功させています。技術的には十分、実現可能性のある計画ですよ」(鉄道ジャーナリスト)

 だが、この壮大な計画にかかるコストは、少なくとも1兆円規模になるといった試算も出ていた。

「トンネル建設の費用は1km当たり100億円といわれ、単純計算で宗谷海峡に海底トンネルを建設した場合、4200億円ほど。ただ、それだけでなく経営難でインフラに不安のあるJR北海道・宗谷線の再整備なども必要で、低く見積もっても1兆円を上回る費用が必要でしょう。ロシアの専門家の試算では、間宮海峡の架橋(あるいはトンネル建設)、サハリンの鉄道再整備を含めて、総額を120〜150億ドルと見積もっています。一方、経済効果は最大で年間3000億円程度が見込まれるが、あくまでももっとも上手くいった場合の希望的な数字であることも否定できません……」(地銀系シンクタンク研究員)

 実際、政府高官は「まるで夢物語」とシベリア鉄道北海道延伸計画を一蹴しているが、このほかにも実現のためのハードルがいくつも立ちはだかる。

「日本とロシアではレールの幅が違うのです。日本は1067mmで狭軌、ロシアは1520mmで広軌なので、貨物の輸送の際は積み替えが必要になる……。とはいえ、実現すれば物流や観光が活性化するだろうし、経営に苦しむJR北海道を救う突破口になる可能性があるのです」(前出・鉄道ジャーナリスト)

 昨年10月、JR北海道は51駅の廃止を進めていることを明らかにした。51駅のおよそ3分の1は宗谷線の駅だが、北海道延伸が実現したとき、日本に上陸したシベリア鉄道がまず走るのが宗谷線の線路なのだ。

 世界情勢が激変するなか、現在の日ロ関係を見ればそう簡単には実現しそうもないように思える……。ロシアの鉄道が日本に入ることで、安全保障上の懸念も生じる。

 だが、この壮大な計画実現の可能性は消し飛んだわけではないという見方もある。

◆過去にもロシア側から打診はあった

「実は、シベリア鉄道の北海道延伸計画は、昨年末の日ロ首脳会談前に急に持ち上がった話ではなく2013年にもロシア側から打診があった。昨年7月、東京で開催された世界高速鉄道会議では、プーチン大統領の側近でロシア鉄道社長のウラジミール・ヤクーニン氏が『ロシアと日本を結ぶ将来の計画について、安倍首相と話した』と明かしていますし、首脳会談前にはロシア極東発展省の高官も『実現の可能性は大きい』と期待感を表明している。もちろん、額面通りに受け取ることはできないが、ロシアとの外交交渉では、相手国が投げてきた高めのボールを見逃し、無碍に断ると、交渉の本気度を疑われる……。ひいては領土交渉にも影響を与えかねないわけです。何より鉄道で物理的に両国が繋がることは、ロシアから見れば信頼醸成の証になりますから」(外務省関係者)