三重銀行の看板(「Wikipedia」より)

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「特ダネ」にもさまざまな種類がある。国際政治・経済を動かすようなものから、極めて狭い範疇ながら大きなインパクトのあるもの、公共性の強いものから、プライバシーに近いものと多種多様だ。総じていえることは、外の人間には「この情報源は一体誰なのか」「どのようにして記者はこの情報をつかんだのか」がわからないことだろう。

 決して“敏腕”の類ではないが、それでも35年以上も記者という仕事をしていると、ある程度の経験値から、なんとなく「特ダネの“ツボ”」のようなものがわかってくる。「この情報の出所なら、この辺が有力だな」といった具合だ。それでも、記者は常に情報源を秘匿するから、ピンポイントで情報源を特定はできないし、できないからこその「特ダネ」でもある。

 ただ、特ダネといわれるような情報が出てくる時、そこにはなんらかの狙いがある。義憤や正義感に駆られて内部告発的に出てくるものもあれば、ライバルの失脚を狙ってというようなものもあるだろう。あるいは、メディアを利用してPRをしたいといった意図もあるかもしれない。ただ、こうした狙い・意図は、記事や報道されたニュースを見ただけではわからない。

 先日、大手生命保険会社のトップ交代が日本経済新聞にスクープされた。当然、ライバル紙は広報担当者に激しく詰め寄ることになるのだが、この時のトップ交代は、臨時取締役会といったイレギュラーなものではなく、スケジュールが組まれていた定時取締役会で行われたものだった。日経の記者がこの定時取締役会でトップ交代があるという情報をつかみ、詰めた結果のようだ。

 ただ、取締役会が終了していない段階で報道されるのは、当事者の大手生保にとっては問題がある。そこで、同紙だけが夕刊に間に合い、他のライバル紙は翌日の朝刊で掲載となるように両者が歩み寄ったようだ。こうした“持ちつ持たれつの関係”は、マスコミと取材先の間ではよくみかける関係でもある。ただし、こうした動きが表に出ることは決してない。

●文書プロパティ

 ところが先日、思わぬ落とし穴から企業とマスコミのこうした関係が露見したかのような事態が起こった。

 年明け早々の1月5日、読売新聞が三重県の地銀である三重銀行と第三銀行が経営統合を検討しているという特ダネを掲載した。東京証券取引所は、事実確認のため両行の株式を売買停止とした。両行は、午前9時前にはコメントを発表している。

 思わぬ事態はこのコメント発表から発生した。午前8時40分、三重銀行は「本日の報道について」というプレスリリースを発表し、「本日、讀賣新聞より当行と第三銀行との経営統合に係る報道がされましたが、これは当行として発表したものではございません。(中略)今後開示すべき事実が発生した場合は、速やかに公表いたします」とコメントした。

 型通りのなんの変哲もないコメントだが、問題はこの文書PDFのプロパティにあった。文書プロパティを開くと、そのタイトルには、「リークプレス_201701xx_B(週明け報道)_v2」と書かれていたのだ。つまり、このニュースは三重銀行のリークによるものである可能性が浮上したのだ。

 そして、このプレスリリースのPDFは東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービス「TDnet」上に掲載され、多くの企業関係者の目にするところとなり、ちょっとした波紋を呼ぶ事態となった。

 三重銀行は同日午後1時15分、この「本日の報道について」を差し替えた。差し替えた発表文の冒頭には、「本日発表いたしました『本日の報道について』につきまして、PDFファイルに不具合がございましたので、修正して差し替えいたしますのでお知らせいたします。尚、『本日の報道について』の内容につきましては変更ございません」と記載されていた。

 三重銀行の広報担当者に、どのような不具合だったのかを尋ねたところ、「たいしたことではない」という回答であり、文書プロパティのタイトルの件には触れようとはしなかった。

 果たして三重銀行は読売新聞にリークをしたのか、改めて当サイトが同行に問い合わせたところ、「適時開示及び当行ホームページのリリースの通り、当行が発表したものではございません」との回答であった。また、PDFファイルの不具合とは具体的にどのようなものか質問したところ、「PDFファイルのプロパティに誤解を招きかねない文言が記載されていた為、修正して差し替えたものです」という回答であった。

 本件について、上場企業の広報担当者はこう感想を漏らす。

「今回の読売の報道は、三重銀行関係者のリークによるものとも考えられるため、三重銀行の広報担当者が“リーク報道に対するプレスリリース”という意味で、あまり深く考えずに『リークプレス』というファイル名をつけただけかもしれません。よって、このプロパティのタイトル名をもって、読売の報道が三重銀行のリークに基づくものであるとは、もちろん断定はできませんし、真相は藪の中です。しかし、いずれにせよ、紛らわしいタイトル名のままプレスリリースを世間に公開してしまい、結果としてさまざまな憶測を呼ぶ事態となってしまったのは、広報担当者の仕事としては褒められるものではないでしょう」

 三重銀行としては、新年早々から不測の事態に見舞われてしまったといえよう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)