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■「利用履歴が残っている、金を払え!」

あるテレビのスタッフのもとに架空請求のメールが届いた。

スタッフから、そのメールに書いてある電話番号に連絡をしているシーンを撮影したいと言われた。業者の実態を暴くことには慣れている。快諾して、私はその番号に電話をかけてみた。

業者の男は「あなたには、動画サイトの運営会社に対しての未納料金が発生している」と言ってきた。私が「そんなアダルトサイトを見た覚えがない」と言っても、利用履歴が残っているので、払わなければならないというのだ。

アダルトサイトを見たといって、架空の請求をされて被害に遭うケースは相変わらず多い。最近は女性が気軽にHなサイトを覗こうとしてトラブルに巻き込まれることも少なくない。

架空請求以外にも、スマートフォンなどで芸能人のゴシップネタなどの動画サイトを見ようとクリックすると、いきなりアダルトサイトへつながり、利用料金として数十万円を払えといった表示がでる仕掛けのものもある。

しかも、請求画面のどこを押しても表示は消えず、時間のカウントダウンまで始まっている。それを見て慌てた人は、サイトに書いてある電話番号にかけてしまい、お金を払うように要求される。

私は「この手口は詐欺」とわかっているが、あえて男の話にのってみた。よくよく相手の話を聞くと、今、話しているのは、料金未納が発生しているという直接の運営会社ではなく、運営会社から依頼を受けて料金請求をしているサポートセンターだという。そして次のような提案をする。

「本来、30万円の利用料金になりますが、今日中に払う約束をすれば、交渉して15万円にできます」

あくまでもサポートセンターは、サイトの未納料金が発生する運営会社とは別物の業者なので、仲介役として交渉することで、15万円に減額できるというのだ。

■「クーリング・オフで返金も可能ですから」

私がお金を払うことに躊躇する素振りをみせると、親切にも今度は8日以内で無条件解約ができる「クーリング・オフがある」と言うではないか。

「もし15万円を払っても、サポートセンターの方でクーリング・オフの手続きができるので、現金書留による返金が可能です」

つまり実質、私の金額負担はないというのだ。

しかし、この言葉は嘘である。というのも、法律上この種のネットの通信販売には、返品の可・不可の記載をする必要があるが、クーリング・オフの適用はないからだ(特定商取引法上のクーリング・オフ規程がない:国民生活センターHP参照 http://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2015_20.html)。

無論、こんな請求に応じるつもりなどないゆえに、後半部では強気に出た。

「運営サイト先と交渉するから、未納になっている会社の連絡を教えなさい」

私の毅然とした口調にお金を取るのは無理だと思ったのであろう。業者は電話を切ろうとしてきた。そこで「架空請求の手口だろう! やめなさい。あなた、こんな架空請求を続けていたら、逮捕されるよ」と強い口調でまくしたてると、電話が切られた。

最近は、「クーリング・オフ」などというもっともらしい用語を持ち出し、「お金を戻します」という嘘をついて、払わせようとしてくるのだ。

ついでながら話すと、この男性の後ろでは、女性の話す声も聞こえていた。この瞬間も、詐欺にひっかかっている人がおり、こうした架空請求を行う者には、女性詐欺師も存在することを忘れてはならない。

■客は自分ではなく「第三者」の意見に耳を傾ける

詐欺業者はあくまでも「仲介役のサポートセンター」という第三者としてのスタンスを貫いて騙そうとしてきたわけだが、この第三者目線での話を展開すること自体はビジネスの交渉事などにおいては有効だろう。

人は不思議と当事者が話すよりも、第三者を介して話す内容の方に重きを置く傾向がある。

私が講演をする際にも、長々と自分で「過去に『ついていったらこうなった』という本を出しまして、それがテレビ番組になりまして……」など、自己紹介をしても、聞いている人は「はあ」という感じになる。

ところが、司会者や主催者あいさつで市長などが「みなさん、多田さんは「過去に『ついていったらこうなった』という本を出しまして、それがテレビ番組にもなったそうです」という、聴衆は「へえ、そうなんだ」という表情で話を聞いている。

その昔、ある編集部内で「あの男は宝くじが当たったらしい」という噂をわざと流す企画があった。すると部内に一気に噂が広まった。噂を流された記者本人が「当たっていない」と言っても、誰も信じない。みんな噂の方に重きをおいてしまったのである。これは口コミ戦略などで使われる手でもある。

また、広告やパンフレット、HPに業者の商品やサービスを利用した人たちの「声」を掲載して、自社の良さをアピールする手法もよくみられる。健康食品の紹介でも、それを毎日摂取することで、体調がすこぶるよくなったなどのCMが本人の体験談としてよく流されている。いずれも業者自身が直接、伝えるよりも、第三者を介して伝えられた情報に、消費者がウェイトを置くという効果を狙ったものであろう。

営業などでも 第三者目線を使って話すことは有効だ。

顧客などに自分の話をなかなか受け入れてもらえなそうな空気の時は、自分だけの力だけで打開しようとするのではなく、他人の力を借りる。

たとえば、説得の活路を開くために、技術関連に詳しい人を帯同して専門的な説明してもらう。あるいは、その筋のプロが語る意見や話を引用し、時に資料を見せながら説明することでも同じ効果を得られるに違いない。

ビジネスにおいては、いかに他人(第三者)目線を巻き込んでいけるかが、説得のカギとなる。

よく詐欺事件などが起きると、私はしばしばその事件についてのコメントを求められるが、これもニュースを発信するメディア側にとっては、当事者からの話だけでなく、専門家としての第三者の意見を組み込むことで、記事やニュースに説得力が生まれるからに他ならない。

当事者が語る言葉よりも、第三者から伝えられる情報の方に、人は強い影響を受けてしまう、これを利用した手立ては様々な場面で使われているのだ。

(ルポライター 多田文明=文)