by NASA

イーロン・マスク氏の率いる宇宙ベンチャー企業・SpaceXが2020年代に惑星間輸送システムで火星に人を送り込む計画を発表するなど、人類が「宇宙旅行」をする時代がいよいよ見えてきています。しかし、宇宙ではこれまでに数々のミッションが行われていますが、いざ宇宙旅行をするとなったときに、人体にどんな影響が出るのかはまだわかっていません。このため、NASAは宇宙と地上での生活の違いが人体にどんな影響を及ぼすか、双子の宇宙飛行士で実験データを取っています。

First Look at Findings of NASA Twins Study | NASA

https://www.nasa.gov/feature/how-stressful-will-a-trip-to-mars-be-on-the-human-body-we-now-have-a-peek-into-what-the-nasa



Twins Study | NASA

https://www.nasa.gov/twins-study

NASAのHuman Research Program(HRP)で行われているのは、宇宙飛行士のスコット・ケリー氏と元宇宙飛行士マーク・ケリー氏の双子による人体を用いた実験です。スコット氏は2015年3月から2016年3月まで1年間宇宙で過ごし、その間、マーク氏は地上で過ごし、それぞれ血液サンプルなどを提出。その予備調査の結果が2017年1月23日にHRPのワークショップで発表されました。ちなみに、外見上の変化として、スコット氏は地球帰還時に身長が5cm伸びていて、2日足らずで元に戻っていたことが明かされています。

・テロメア&テロメラーゼ

人が年を取ると、染色体の末端にあるテロメアは短くなります。ところが、スコット氏の血液中から採取された白血球内の染色体の長さは、宇宙にいる間は長くなっていたことがわかりました。研究を行ったスーザン・ベイリー氏は、ミッションの間は運動量が増加することやカロリー摂取量が減少することと関連があると考えているとのこと。ただし、長くなったテロメアは地球への帰還にあたって元通り短くなったそうです。

なお、スコット氏もマーク氏も11月にテロメラーゼ活性が増加するという、興味深いリンクが見られたとのこと。

・生化学

宇宙空間のように重力が微小な環境にいると骨量が減少することが知られています。スコット・スミス氏の調査に寄れば、スコット・ケリー飛行士も、ミッション後半で骨形成の衰退が見られました。

また、炎症反応の生化学マーカーとして知られるC反応性蛋白のレベルが、着陸直後に一時的に跳ね上がっており、再突入と着陸でストレスがかかったと考えられています。

ストレスに反応して生成されるホルモンであるコルチゾールの値は1年間のミッションを通して低い値でした。ただ、インスリン様成長因子1(IGF-1)の増加が認められました。IGF-1は骨や筋肉と関係するホルモンであり、ミッションの重労働の影響であるとみられています。

・マイクロバイオーム(人体の微生物相)

フレッド・テューレック氏によれば「異なる食事」「異なる環境」でマイクロバイオームは大きく変化するとのこと。調査をしたところ、スコット氏は地上から宇宙に上がったことで消化管内のフィルミクテスバクテロイデスの割合が大きく変わっていたことがわかりました。なお、地上に帰還すると、この割合は元に戻りました。

・遺伝子

白血球内に含まれるDNAとRNAについて調べたクリス・メーソン氏によると、2人のゲノム配列には正常変異による何百もの独自の変化があったとのこと。RNAでは、20万以上の異なる配列があったそうです。これは、スコット氏が宇宙に滞在したことで「宇宙遺伝子(space gene)」が活性化したものかもしれないとのこと。

環境が我々の遺伝子発現をどう調整するかを調べたアンディ・フェインバーグ氏は、スコット氏の白血球内のDNAで、メチル化レベルが減少していることを確認しました。ここにはテロメアの調整をする遺伝子も含まれていますが、前述のように、スコット氏のテロメアは宇宙では長くなったものの、地上帰還後は元通りになっています。

なお、地上にいたマーク氏のメチル化レベルは研究の中間点で増加したのち終了時には戻っています。

NASAではこうした予備調査結果を踏まえた上で、宇宙飛行士が将来の宇宙探索ミッションを安全に、かつ効率的に行えるように研究を進めていくとのことです。



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