◆鹿島アントラーズ・小笠原満男インタビュー(前編)

 2017年元日――鹿島アントラーズは天皇杯決勝を制し、Jリーグクラブ史上最多となる通算19度目のタイトルを手にして、2016年のシーズンを締めくくった。

 振り返れば、J1リーグの全日程を終えたアントラーズはその後、チャンピオンシップを戦い、天皇杯、FIFAクラブワールドカップと、およそ40日間で10試合という"超"ハードスケジュールをこなした。その中で、J王者に輝き、前述のとおり天皇杯でも優勝。さらに、クラブW杯では日本勢初の決勝進出を果たし、欧州チャンピオンのレアル・マドリード(スペイン)との決勝では惜しくも敗れたものの、延長戦に及ぶ死闘を演じて世界中のサッカーファンを魅了した。

 チームを引っ張ってきたのは、紛れもなくキャプテンの小笠原満男である。そして、アントラーズが獲得してきた19個のタイトルのうち、小笠原が関わった栄冠はついに「16」を数えるまでに至った。そんな彼の目に、黄金期の再来すら予感させる昨季の躍進はどう映ったのだろうか。激動のシーズンを振り返ってもらった。

「シーズン終盤に進むにつれてチームがよくなっていったから、見ている人にとっては、面白かったというか、いいシーズンに見えたかもしれないけど、1年を振り返れば(自分たちの中では)いろいろなことがあったなって感じですね。ファーストステージは優勝したけど、セカンドステージは優勝戦線に加わることもできなくて。チームとしては難しい時期もあった中で、最後にはチャンピオンシップと天皇杯を獲ることができた。

 その間にはクラブW杯も戦ったけど、決勝では勝てなかったですし、思い返せばアップダウンの激しいシーズンでしたね。正直、(最後は)なんとなく勝っていっちゃった感じというか。決して手放しでは喜べない。ひとつ、ひとつの試合の内容をしっかり見ていくと、失点してもおかしくないシーンもいっぱいありましたから」

 小笠原が言う「なんとなく勝っていった」という感覚は、優勝したファーストステージにも言えることだという。

「優勝はしたけど、ギリギリでしたからね。自分たちに力があったかと言ったら、そうではなかった。周りが負けていって、最後にウチが勝った、というだけですから。周りが勝っていれば、オレらの優勝もなかったわけで。勝つ(優勝する)ならやっぱり、ぶっちぎりで勝ちたいなって思いますよね。

 今季からはチャンピオンシップがなくなって、年間を通しての実力が重要視されるようになるし、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)にしても、1敗だったり、1勝だったりがより重さを増してくる。そこを勝ち抜いていくためには、1年間を通して、本当に安定した力がないと勝っていけないな、と思っています」

 アントラーズにとって実に7年ぶりとなったJ1リーグのタイトル獲得。しかし、小笠原には、悲願や歓喜というよりも、どこか物足りなさのほうが強く感じられているようだった。

「もちろんね、(チームとして)よくなってきている部分はあるし、(タイトルを得たのは)うれしいのはうれしいけど、試合内容を見ていくと、本当に強いかと言ったら、そうじゃない。天皇杯もそうだけど、すごいピンチがあったり、(相手のシュートが)ポストに当たったり。最後に体を張ってギリギリで防いではいたけど、そのギリギリになる前に、もっと(相手を)止めなきゃいけなかった。ボールはできるだけ高い位置で奪ったほうが、得点のチャンスも増えるわけだし。

 最終的に相手に(ゴールを)入れられていないから、なんとなくがんばっている感じには見えるけど、そういうのはいつまでも続かない。(相手には)ゴール前まで行かせない、ピンチを作らせないぐらいにならないと。そういう細かいところをしっかりと見ていかないと、コンスタントに勝っていくのは難しいと思う」

 まるで自分に言い聞かせるように、小笠原の口からは次から次へと厳しい言葉が続く。ただこれは今回に限った話ではなく、試合のあとは勝っても、負けても、いつも次を見据えて反省の弁が口をついて出てくる。それこそが、小笠原がストイックと言われるゆえんだろう。

 しかしながら、昨季の戦いぶりを振り返れば、確実にチームが成長したのは誰の目から見ても明らかだった。そして、ふたつのタイトルがクラブにもたらしたものは、何度も優勝を経験している小笠原自身が、兼ねてから強く求めていたものだった。

「(タイトルを獲得して)一番よかったのは、"勝つ雰囲気"を味わえたことですよね。ファーストステージを獲って、セカンドステージはアップダウンを繰り返しながら、最後は4連敗して。その間に、やっぱりすごくチームの中でもいろいろとあったりしましたからね。石井(正忠)さんがこう......体調不良で指揮を執ることができなくなったり、選手同士の言い合いが増えたり、試合に出られなくなった選手が不満をためたり。やっぱり勝てないときって、そういうとき。

 でも、リーグ戦を終えて、そのあとの大会で連勝しているときは、そういうことは一切なかった。誰もが『チームのために戦うんだ』っていう気持ちが前面に出ていたし、本当にみんながそう思っていた。試合に出ているとか、出ていないとか関係ない、ひとつになってやろうと。それは選手も、スタッフも、サポーターもそう。勝利のためにまとまっていた。

 その"いいとき"と"悪いとき"の両方の雰囲気というか、空気感を全員が味わえたことは、よかったなと思います。どういうときに勝って、どういうときに勝てないのか。タイトルを獲るっていうことが、どういうものなのかを味わえた。こればっかりは、口でいくら言っても伝わりにくいし、難しいですから」

 小笠原は以前から、「若いヤツらにタイトルを獲らせたい」と常々口にしていた。タイトルを獲ることで、感じることや見えてくる景色が変わるから、それを早く経験させてあげたいと。2015年シーズン、アントラーズはナビスコ杯(現YBCルヴァン杯)を制しているが、リーグ戦のそれとはやはり重みが違ってくる。リーグを制することで、小笠原が見てほしかった景色を、ようやく後輩たちと共有することができる、ということなのだろう。

「チャンピオンシップでは、一発勝負だったり、ホーム&アウェーだったりして、戦い方がいろいろとありました。そこで、しっかりと勝ち切ったということは、すごく大きな財産になったと思うんです。普通ではなかなか経験できないことですからね、ああいう緊張感の高い試合って。そこを勝ち切れたというのは本当に大きい。

 例えばこの先、あと何年かして、チームがタイトルを獲ったことのない人の集まりになったときにどうなるか。オレらも何歳までもできるわけではないですし。でも、このタイトルまでの道のりを知っているヤツがいれば、『こうやって勝ったんだよ』って、立ち返る場所がある。それができる選手が今回の優勝で増えたっていうのが、何よりも大きいことだし、このチームがこの先も勝っていくうえでは、絶対に大事なことだと思う」

 そして、この経験は、チームがうまくいかなくなったときほど生かされると、小笠原は言う。

「大事なのは、負けているときとか、連敗しているとき。悪い時期が続いて『じゃあ、どうやったら勝てるのか』ってなったとき、『あのときはこうだったから』と、今回経験を積んだ選手たちが、みんなに方向性を示してあげることができる。でも、それがなくて、年長者が愚痴りはじめると、チームは一気にバラバラになってしまうから」

 小笠原はそう話すと、「前から思っていたんだけどね」と、声のトーンを上げてこう続けた。

「なんか、山登りと似ているなって思って、オレは。『富士山の頂上の景色って、どんななの?』と聞かれて、日本で一番高いところだけど、口ではうまく説明できないでしょ。行かないとわからない。その場に立たないとね。それにすごく似ているなぁと思うんですよね、タイトルって。そこまでの道のりが必ずあって、その過程も含めて、すべてはタイトルを獲った者にしかわからないから」

 今回の二冠達成において、何よりも大きな力となったのは、コーチングスタッフのメンバー全員が、アントラーズのOBであったことだと、小笠原は話す。

「今回(リーグ)優勝を経験したことのある選手は少なかったけど、こうやって勝ち切れたのは、石井さんをはじめ、ゴウさん(大岩剛)、ヤナさん(柳沢敦)、ハネ(羽田憲司)、古川(昌明)さんら、コーチみんながクラブのOBだったからだと思っているんですよね。練習のときからいろいろなアドバイスをしてくれるんですが、勝っているとき、負けているとき、そのタイミングに合った絶妙な話を、それぞれがそのときどきでしてくれていた。試合前のアップとか、ロッカールームでもそうだけど、『このチームはこういう気持ちでいくんだ』というのを、いつもしっかり伝えてくれていたんです。

 このアントラーズでタイトルを獲ったことがあって、それまでの道のりを知っている人たちからの助言は、やっぱり心強いですよね。しかもみんな、言っていることがブレない。誰に聞いても、同じことを言いますからね。それって、本当にすごいことだと思うんです。だから、選手たちに(その言葉が)響いて、最後はグッとまとまれたんだと思う。本当に、スタッフにOBを集めた功績は、すごく大きいと思います」

 大事なものをいかにうまく伝えていくか。小笠原自身が、現コーチ陣を含めた先輩たちから多くを教わり、感じ取り、結果を出してきたように、自分自身も次の世代に伝え、感じ取ってもらいたいという心情がある。その思いが歳を重ねていくごとに増していったからこそ、ときにはうまく伝わらないことへの苦悩を吐露することもあった。それゆえに、今回の優勝は喜びよりも安堵の気持ちのほうが強かったのだろう。

「やっぱりどんな言葉よりも、一番伝わるのは成功体験だと思うんです。だから、ここで勝ったっていうのは大きいけど......、あとはここからどれだけ勝っていけるかですよね。ひとつ、つかんだから」

 キャプテンとして、7年ぶりにシャーレを掲げ、若い選手たちともようやく同じ景色を見ることができた。しかしその喜びの一方で、小笠原はやるせない思いも抱えていた。

(つづく)

佐野美樹●取材・文 text by Sano Miki