韓国での「ポケモンGO」リリースについて記者会見を行うナイアンティックのデニス・ファン氏(左)(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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「ポケモンGOシンドローム」

 最近、韓国のニュース記事で、このような単語をたくさん目にする。スマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」が1月24日、韓国で正式にリリースされて約1週間がたった。

 海外や日本に比べて半年遅れのスタートとなったわけだが、リリース前から「ポケモンGO」は韓国でも大きな注目を集めていた。昨夏には「一部のファンが、なぜか『ポケモンGO』をプレイすることができる束草(ソクチョ:北朝鮮との国境地帯)に遠征している」などと報じられたこともあり、韓国でもリリースされれば爆発的な人気になることは、ある程度予想されていた。

 実際、スマホアプリ調査会社のワイズアップによると、24〜29日までの6日間で約700万人が「ポケモンGO」を利用したという。業界関係者は「『ポケモンGO』リリース後の27〜30日は、韓国は旧正月で連休だったため、ユーザーが爆発的に増えた」と語る。また、グーグルの「グーグルプレイストア」とアップルの「アップルストア」では、「ポケモンGO」は売り上げランキングで2位になるなど、やはり人気と注目度は高い。

 多くの人がポケモンに熱狂することで、韓国でも日本同様、街中の風景や家族との過ごし方まで変わってきたようだ。

 経済誌「アジア経済」(ジェトロ・アジア経済研究所)は、「ポケモンGOシンドロームが正月の風景を変えた」と伝えている。韓国でも、旧正月には子供たちが凧揚げやコマ回しなどで遊ぶ光景が見られるが、今年は「ポケモンGO」を家族や親せきと楽しむ姿が見られるという。

 同誌によると、ソウル在住の18歳の高校生は「凧揚げのような伝統的な遊びは別に楽しくもなかったのに、親戚と街を歩きながらポケモンを捕まえるのはすごく楽しい。互いにポケモンを比較したり捕まえたりすることで、いつもの正月よりも親戚たちと親しくなれた気がする」と話している。

 また、同じくソウル在住の58歳の男性は「あのゲームひとつで、こんな寒い日に外で何をしているのかわからない。それでも、親戚たちとみんなで笑いながら遊んでいる姿を見るのは、とても気持ちがいい」と語っている。

 さらに、ポケモンを捕まえるために「ポケストップ」に大勢の人が集まるという光景も日本と同じで、韓国でも有名観光地や公園などに人が集まって「ポケモンGO」を楽しむ姿が全国各地で見られるそうだ。

●韓国でも公園にあふれる「ポケモンGO」ユーザー

 韓国では、リリース後に“ポケモンの聖地”が大きな話題になっている。ひとつは、江原道(カンウォンド)春川市(チュンチョン)の「南怡島(ナミソム)」。実は、南怡島は日本人にもなじみのある場所だ。

 韓流ブームのきっかけとなったテレビドラマ『冬のソナタ』のロケ地として有名な南怡島は、ソウルから北東約50kmの場所に位置している。総面積は約14万坪で豊かな自然も多く、レストラン、ホテル、キャンプ場などがそろっているため、年間300万人が訪れるなど韓国でも指折りの人気観光地だ。

 韓国の経済誌「アジュ経済」(1月25日付)によれば、「歩けばどこにでもポケストップがあり、かなりのポケモンと出くわす。ポケモンを戦わせるジムも多く、かなりレアなポケモンにも出くわす」という。

 旧正月の連休もあいまって、そのほかの観光地も、多くのポケモンユーザーでにぎわっている。特に、ソウルに次ぐ大都市の釜山(プサン)にある釜山市民公園では、「あるユーザーが10分間に49匹を捕まえた」という噂が飛び交い、全国各地から観光客が訪れているようだ。

 さらに、普段はあまり人通りがない釜山の国連記念公園にも、「ポケモンGO」リリース後は以前の3倍近い人が押し寄せているという。同公園は、朝鮮戦争で戦死した人を祀る慰霊塔があることから「世界平和の聖地」と呼ばれる場所でもある。韓国メディアの取材によれば、同公園関係者は「夜間にスマホを持って歩く人を目撃しており、職場の人たちが緊張感を持って状況を見ている」と話している。

●韓国人「政治と『ポケモンGO』は別問題」

 では、日本人観光客も多く訪れるソウル市内はどうなのだろうか。「リリースと同時に、ソウル市内で遊んでみた」という大手新聞記者は、以下のように感想を伝えてくれた。

「ソウル市内でも、もちろんたくさんのポケモンが出てきますし、ポケモンを捕まえるモンスターボールを得られるポケストップやポケモンが戦える“ジム”もたくさんあります。有名観光地の光化門広場周辺に多いですね。有名劇場だった『優美館跡地』や『YMCAホテル鍾路(チョンノ)』などが、ポケストップになっていました。ユーザーが多く集まるジムは、光化門の世宗(セジョン)大王像、普信閣(ポシンカク)、明洞聖堂(ミョンドンソンダン)などに多いです」

「ポケモンGO」はアメリカのナイアンティックと日本の株式会社ポケモンの共同開発で、日本のコンテンツでもある。それは韓国人にとっても周知の事実だが、最近は従軍慰安婦問題が再燃しており、韓国国内や世界各地に少女像(韓国では「平和の少女像」と呼ぶ)が立てられるなど、政治的には日韓関係が冷え込んでしまっている。そうした事情は、「ポケモンGO」の利用に何か関係しているのだろうか。

 前述した韓国での様子を見る限り、「日本のコンテンツだから使わない」という雰囲気はまったく感じられない。逆に、待ち望んでいた「ポケモンGO」を思い切り楽しんでいる人たちばかりだ。

 韓国の友人に聞くと、「政治的な話と『ポケモンGO』はまったくの別問題。『世界各国で楽しまれているゲーム』という感覚しかありませんよ。日本を意識している人なんて、たぶんいません(笑)。優れたコンテンツであり、楽しいものは楽しい。日本の漫画やアニメ、村上春樹の小説が人気なのと同じ感覚なのではないでしょうか」という答えが返ってきた。

 韓国での「ポケモンGO」ブームは、まだ始まったばかり。今後は、観光地が荒らされたり車を運転中にプレイして事故を起こしたりするなど、さまざま問題が起きることも予想されるが、どこまで広がりを見せるのか楽しみだ。
(文=金明碰/ジャーナリスト)