柴田昌治 スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

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■上司の考えを先読みするのが仕事なのか

ビジネスにおいて正解は必ずしも1つではありません。自分が意識する範囲や状況が変われば、導き出される答えも自ずと変わるのが当たり前です。常に自分にとっての「全体」を意識していれば、変化に対しても柔軟に対応できます。

「自分にとって全体を意識する」と対照的な思考が、前回触れた「上司の的を当てに行く」「上司が好む答え」を探る、です。つまり、自分にとっての全体が、無意識のうちに上司と自分との関係に限定されてしまっている状態です。答えは上司が持っているという前提で、上司の好む答えを探ろうとしているのです。

ある大手企業の課長は、典型的な「上司の的を当てに行く」仕事の仕方をしてきた「優秀な人」です。ところが新設された部署に移ってからは、慣れない仕事だったこともあり、当てに行く的はことごとく外れ、提案が突き返されてばかり。納得がいかなく不平不満を口にしていました。そういう状況を見て、あるとき本人にこう伝えました。

「あなたはいつも上司が何を望んでいるかばかりを読み取ろうとしているでしょう? それは自分の頭では必要なことを考えていないということですよ」

私が問題点を指摘すると、課長は「えっ!? 上司の考えを先読みするのが仕事だと思っていました」と答えました。

その上司とも一緒に仕事をしたことがある私はこうアドバイスしました。

「それでは本当の意味で仕事をしているとはいえない。上司はあなたが自分の頭で徹底的に考え抜いて仕事をすることを望んでいると思いますよ。自分の頭で考えて、その答えを上司にぶつけてみてください」

■考え抜いて自分の答えを出すという意味

そして半年経った頃には、突き返され続けていた提案や企画がほとんど通るようになったのです。

課長が自分の頭で、その目的や意味を考え抜いた結果、部長の想定以上のアイデアや価値を生み出せるようになっていたからです。そしてそういうことを上司も望んでいたのです。

現在のように先が見えにくい時代には、上司の立場であっても、現場の情報が多いといえない自分の判断がどんなときでも最善だと確信している人などほとんどいません。むしろ現場の情報をたくさん持っている部下が、現場や顧客の実態に即した答えを示してくれるのは、非常にありがたいことなのです。

つまり、考え抜いて自分の答えを出すということは、「自分で決める」ことにほかなりません。人間は自分の意思で選ぶ、自分で決めるという経験を積み重ねることで成長する生きものなのです。

自分で決めることは、もちろん失敗するということです。実際に上司に指示された仕事よりたくさんの失敗をします。しかし、自分の責任で失敗したのですからたいていの人は本気で反省します。

だからこそ、「なぜ失敗したのか?」「どうすれば問題解決できるのか?」をしっかり考える習慣が身につき、自分を成長させることができるのです。失敗こそが自分を成長させるバネなのです。

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柴田昌治(しばた・まさはる)
1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。

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(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田昌治 構成=岡村繁雄)