昨年12月に行われた北朝鮮の軍事演習(朝鮮中央通信配信の映像より)

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 北朝鮮による対南攻勢が勢いを増している。韓国次期大統領の有力候補である最大野党「共に民主党」前代表の文在寅氏ら対北融和派が台頭し、在韓米軍の高高度防衛ミサイル配備反対運動も勢いづいているからだ。朝鮮半島情勢に精通する拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏が、その先に考えられる統一のシナリオについて解説する。

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 その先に考えられる統一までのシナリオは2つ。

 一つは軍事的統一だ。たとえトランプ大統領による米朝協議が始まっても、北朝鮮は軍事力の精鋭化を粛々と進め、やがてワシントンやニューヨークまで届く核ミサイルを完成させるだろう。そのとき、米政権が在韓米軍の縮小・撤退を完了していれば、米国は弾道ミサイルの現実的脅威を喉元に突きつけられることになる。

 そうした状況下で、自国が核攻撃を受けるリスクを冒してまで米国は同盟国の韓国を守れるだろうか。米大統領が「NO」と言えば、北朝鮮軍はすぐに38度線を越えるだろう。

 もう一つは平和的統一だ。今後、誰が大統領になろうと、韓国の次期政権は北朝鮮との関係回復を真っ先に行うはずだ。その際、現在は停止中の南北経済交流事業が再開され、開城工業団地の操業や金剛山観光が始まるだろう。

 南北の経済交流には他にも、朝鮮半島縦断鉄道をシベリア鉄道と接続し、朝鮮半島と欧州をつなぐ壮大なプロジェクトがある。実現すれば輸送ルートや貿易の多角化で南北の交流が密接になり、韓国社会の北朝鮮への警戒心がさらに緩む。

 それらの過程で、まずは南北間でなだらかな連邦を作る“プレ統一構想”が持ち上がるだろう。1980年の労働党大会で金日成が提案したように、南北同数の代議員で連邦制議会を作り、そこで大統領を選出するやり方などが提案されるはずだ。

 この時、北朝鮮側からの代議員全員が間違いなく金正恩氏に投票するが、懸念されるのは韓国サイドだ。韓国の代議員に一人でも従北勢力がいれば、統一朝鮮に金正恩大統領が誕生する可能性がある。

 現在、韓国人の多数が日米や中露に干渉されない南北和解のプロセスを世界にアピールしたいと思っている。自分たち同士で民族統一をなし遂げるという夢に酔ったとき、韓国人は金正恩氏が指導者になることに違和感が薄れるだろう。

 北朝鮮主導で統一された朝鮮半島は日米同盟を敵視するだろうし、中国と一緒になって日本に対して歴史認識の転換を迫る。このシナリオを荒唐無稽と片づけることができるだろうか。

●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。

※SAPIO2017年2月号