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By Lennart Tange

昆虫は、人間の指先よりも小さい脳しか持っていないにも関わらず、驚くべきほど複雑な行動をとることが世界中で確認されています。人間の指先よりも小さい昆虫の脳がどのようにして複雑な行動を可能にしているのか、その詳細に迫る実験がおこなわれました。

BBC - Earth - How insects like bumblebees do so much with tiny brains

http://www.bbc.com/earth/story/20170123-how-insects-like-bumblebees-do-so-much-with-tiny-brains

ミツバチの一種であるマルハナバチは、他のハチから学習し、得た知識を次の世代へ受け継いでいくことが確認されています。花粉がある場所をシートで覆い、花に垂れ下がっている糸を引っ張るとシートが取れて花粉を採取できる装置を使った実験では、1匹のマルハナバチが糸を引っ張ってシートを剥がしたところ、この知識が同じ巣にいる他のマルハナバチや、その後に生まれてきたマルハナバチにも共有されることがわかりました。



By Guido Romanelli

他の昆虫でも、例えばトンボは空中を飛びながら蚊やガ、チョウ、他のトンボを補食します。捕食対象の昆虫はそれぞれ異なる独自の飛行パターンを持っており、空中で捕まえるには対象の飛行パターンから次にどこに飛んでいくのかを予測しなければいけません。この行動には適応性や計画性といった能力が必要になります。また、1mmにも満たない毛虫でさえ、基本的な学習能力や記憶能力を備えていることが判明済みです。

なぜ昆虫は小さな脳で複雑な行動やタスクを実行することができるのか、このテーマで研究を続けているのがVivek Jayaraman博士です。Jayaraman博士によれば、昆虫の脳のメカニズムを知るには、昆虫の神経細胞と神経回路に注目する必要があるとのこと。神経は脳の一部から別の場所へ電気信号を伝達させるワイヤーの役割を持ち、言うなれば生物学バージョンのコンピューター回路です。これに注目したJayaraman博士は、25万の神経細胞を持つショウジョウバエを使った実験を行いました。



By Wellcome Images

人間は、外部の世界を無意識に認識してそれを元に行動や判断を下すことがあり、これは「内部表現」と呼ばれています。例えば、明るい部屋で急にライトが消されても、人間は自分がどの方向を向いていたかを無意識に認識可能といったことです。Jayaraman博士はショウジョウバエが人間と同じように内部表現の能力を脳に携えている可能性があると考え、今回の実験を行いました。

実験では、ショウジョウバエの脳がどのように反応するかをリアルタイムで測定できる装置を開発。ショウジョウバエを固定した小さなボールに載せてその周囲をディスプレイで囲み、ショウジョウバエがボールの上を歩くとディスプレイに表示される景色がリアルタイムで変わる、つまりショウジョウバエが「外の世界にいる」錯覚するような装置を作り脳の動きを観察。その際に、ショウジョウバエがいる空間のライトを突然消して、人間と同じように内部表現があるかどうかの確認が行われました。

実験の結果、突然ライトが消された後でもショウジョウバエの脳はライトがついていたときと同じ反応をしたことが判明。言い換えれば、ショウジョウバエはライトが消された後でも、自分がどこを向いているか、どこにいるのかを認識しており、内部表現を備えていることがわかったというわけです。内部表現に関する認識能力は、これまで人間のような背骨を持つ動物にしかないと考えられており、ショウジョウバエという小さな昆虫にもあるというのは大きな発見です。



By midnightrook

Jayaraman博士は「賢い行動を取るには大きな脳が必要です。しかし、昆虫の場合は当てはまりません。例えば、顔を認識する能力は人間特有の能力だと考えられてきましたが、この能力に必要なのは数百から数千の神経細胞であることがわかっています」と話しました。では、大きな体を持つ動物は、なぜ昆虫よりも大きな脳を持っているのでしょうか。この疑問に対してJayaraman博士は1つの可能性として「体が大きな動物は、脳から発せられる電気信号が小さな昆虫の電気信号よりも速く、より遠くに送られる必要があり、それには大きな神経細胞が必要になるからかもしれない」と説明しています。

つまり、複雑な行動をとるのに必要なのは神経細胞の数であり、神経細胞や脳の大きさではない可能性があるということ。Jayaraman博士は今後も昆虫や動物の「脳」と「行動」の関連性を明らかにするため、さらなる研究を続けていくそうです。