中立公正、不偏不党。ニュースを伝えるメディアは本来こうあるべきだと言われる。とはいえ、中立公正と言っても立ち位置が明確に定義されているわけではない。場の勢いやムードに流されることなく、可能な限り追及する。バランス感覚を意識する姿勢が問われているのだと思う。

 先日、NHKの新会長に就任した上田氏も、その所信表明で中立公正、不偏不党を口にした。国内唯一の公共放送。当然と言えば当然だが、スポーツ報道にも、その方針を貫こうとしているのか。

 稀勢の里が14勝1敗の成績で初優勝した初場所。えっと思ったのは13勝1敗で迎えた千秋楽の中継だ。NHKの実況アナ氏は、稀勢の里が対戦する前から「横綱昇進は確実視されています」と、それが既定の路線であるかのように幾度もお茶の間のファンに伝えた。

 優勝しても、千秋楽の一番に敗れれば13勝2敗。その前の場所が12勝3敗なので、通常ならば昇進には微妙な成績だ。物足りない成績と言ってもいい。アナ氏が中立公正、不偏不党の立場にあるのか、疑問を抱かざるを得なかった。事前取材で、そうした情報を掴んでいたから口にしたのだろうが、報道の立場で大相撲と関わっている公共放送のアナ氏だ。なぜそこで、ムードに乗っかり、そして煽ろうとしたのか。それをそのまま全国の視聴者に伝えることに抵抗を覚えなかったのか。 

 新会長の言葉を耳にしたのは、その2、3日後だったと記憶するが、そこから最もかけ離れたスタンスに見えたのが、この千秋楽の中継だった。大相撲と歴史的に密接な関係にあるのは分かるが、NHKの放送事業は相撲協会の内部組織ではない。組織の性格上、それでも一線を引き、中立公正、不偏不党を貫く義務がある。

 何年か前、相撲協会が不祥事を立て続けに発生させたとき、NHKの反応の悪さは目に余った。及び腰。非積極的な追及と言えた。

 取材対象である各競技と、どの距離で向き合うか。サッカー日本代表の報道を見ていても、距離感を適切に保てていない印象が強い。少なくとも中立公正、不偏不党ではまったくない。日本対○○。この類の試合が行われる時、報道する側は、どのスタンスで向き合うべきか。

 日本に一方的に肩入れするスタイルが、もはや定番になっている。報道と言うより応援だ。中立公正、不偏不党のスタイルから著しく外れる。応援精神は可能な限り隠す。これが本来あるべき姿。バレないように努めようとするものだ。奥ゆかしさとは、そうしたことを指すのだと思うが、その辺りにこだわりを持つメディアは少ない。民放には最初から期待していないので、許せると言えば許せるが、中立公正、不偏不党を謳うNHKが同じ行動に出るならば、それって矛盾しませんかと言いたくなる。

 2014年W杯前に出演した番組で、日本がW杯本大会でどのくらいやるかと訊ねられたとき、グループリーグ落ちと述べたら、司会者から「えっ?」と、驚かれた経験がある。10人近く出席していた中で、僕と同じような答えを返した出演者は、他に1人いたかどうか。「突破できる」が8割方を占めた。

 結果はグループリーグ最下位。僕は見事、予想を的中させたわけだが、大穴を狙って的中させたわけではない。ブックメーカーの予想と変わらないオーソドックスな予想。にもかかわらず、疫病神を見るような目で、えっと驚かれてしまった。

 できると答えた人の中で、中立公正、不偏不党の精神に基づいていたのは、おそらく半分程度。その他は、「仕方なく」、だったと思う。本心は「できない」。でも言えない。だから「できる」と言ってしまった。NHKのスタジオには、本当のことが言いにくいムードが流れていた。