“現代の魔法使い”落合陽一氏(右)と電通クリエーティブ・テクノロジスト・菅野 薫氏(左)

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『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、“現代の魔法使い”落合陽一の「未来教室」。最先端の異才が集う最強講義を独占公開!

Dentsu Lab Tokyoは、電通内でもクリエーティブ部門の研究・企画・開発に特化した新設の部署だ。スタジオの一画には、これまでに獲得したクリエイター垂涎(すいえん)のトロフィーの数々がズラリと並び、ビジネスやエンターテインメントの領域でテクノロジーを使った表現を行なうチームの実力をうかがわせる。

この制作集団の代表を務めるのが、今回のゲスト・菅野 薫(すがの・かおる)だ。彼が関わった最近の作品で最も多くの人の目に触れたのは、“安倍マリオ”でも話題になった、昨年のリオ五輪閉会式だろう。菅野は東京五輪をプレゼンテーションするフラッグハンドオーバーセレモニー(旗引継ぎ式)のクリエーティブ・ディレクターを務め、全世界へのTV生中継でのAR(拡張現実)表現も含めて、日本のコンテンツ制作力の高さを知らしめた。

そんな菅野がコンテンツの企画と制作を手がけるようになったのは、実はわずか5年前のこと。きっかけは大手自動車メーカー・ホンダから舞い込んだある依頼だった。(前編記事「アイルトン・セナを“音”で蘇らせる」参照)

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落合 次の質問ですが、クリエーティブでありつづけるコツってなんでしょう。菅野さんの場合は、やっぱりサーベイ(既存の資料や過去作品の調査・研究)ですか?

菅野 それはありますね。クリエーティブというのが新しさを扱う仕事である以上、サーベイは必須です。新しさというのは相対的な概念なので。まずは歴史とかコンテクストとか、過去にどこまで達成されたかとか、そういったことをしっかり把握していないと、新しさには挑戦できません。それに、サーベイの中には刺激だとか嫉妬だとか、いろんな感情が紛れているので。

落合 菅野さん、そこはすごくエモーショナルですよね。サーベイすると、自分の中にあるものと社会との間に何かが見えてくる。

菅野 「これは素晴らしい、なんで俺が思いつかなかったんだろう?」と思うことが、もっと面白いものをつくるためのモチベーションを高めますからね。ある種の競争というか、ほかの人がガンガンいいことやってるのを見るのは刺激になります。



落合 あと、どこまでがご自身の仕事だと思っているのか聞いてみたいなと思っていて。菅野さんの作品の映像、むちゃくちゃカッコいいじゃないですか。でも、実際にはその前に装置やシステムをつくってますよね。映像までが作品なのか、装置までなのか、どっちが多いですか?



菅野 いま質問されて気づいたんですが、はじめはインターナビの震災のプロジェクトのように装置や構造、フレームワークがメインだったのが、最近はどんどん映像化してますね。リオ五輪の閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーでも、世界で20億人がテレビで観ていたので、テレビ映えをめちゃくちゃ意識しました。

特にこだわりがあるのは、リアルタイム中継することですね。この映像は後から好き勝手に手を加えたものじゃなくて、ホントに起こった現象であると証明することになるので。現象をつくるという欲求と、それをちゃんと映像に乗せてたくさんの人数に伝えたいっていう欲求と、二重になってますね。

落合 その両者は、ときには背反になりますよね、例えば、閉会式の現場にいる人には、プロジェクションマッピング自体は3Dには見えない、とか。

菅野 そうなんですよ。現場の人にはARが見えていないので、フィールドに同じ内容が表現されています。ただ、五輪とかになってくると、肉眼で観る現場はどうやっても楽しいんです。なので、中継映像には“加点”してあげないと、同レベルの楽しさまで持って行けない。それでARとか違う魅力を付加してるんです。スポーツ中継の解説と一緒ですね。

落合 それは面白いですね。メディアアートをやっていても、賞とかは最終的に映像でしか審査しないので、映像でどう伝えていくかっていう能力がものすごく問われていて。でも、俺は装置をつくったはずなのに、なぜ映像で評価されるんだ…って、違和感を感じることがあります。結局、メディアアートもビデオアートなのかなって思うと、なんかちょっと切ないというか。そこじゃないからメディア装置をつくり始めたのに、結局伝わるのはそこか、という。

菅野 やっぱりYouTube以降、映像にして世の中に波及させていく力っていうのにみんな麻薬的に依存しちゃってる気はします。ナマで見て触って体験できる人数の少なさを、映像の視聴者で補強しようという欲望に駆られちゃってますね。



落合 それと、テクノロジーについてなんですが、最先端のものを料理する“賞味期限”って絶対あるじゃないですか。今しか体感できない新技術の“重さ”みたいなものを、僕はいつも気にしているんですけど、そういう「技術の今」と表現の関係性について、どうお考えですか?

菅野 僕はどちらかというと、チームのなかではストーリー担当なので、使う技術が古くてもそんなには気にならないかなあ。もちろん最先端の技術の場合、それを扱うこと自体にある程度の感動があるので、使い方自体は稚拙でもよかったりするんですが、古い技術になってくると、かなり意外な使い方をするか、あるいはものすごく熟練してなきゃいけないですけどね。

例えば、バイオリンだってピアノだって本来はものすごいテクノロジーで、昔はピアノが弾ければかなりヘタでも、みんなかなりグッときていた。ただ、今はもう誰でも触れるものになったから、それで感動させるには相当な技術が必要になった…というような話です。

僕は昨年、ブライアン・イーノとビョークのMV制作に携わったんですが、このふたりの巨匠が共通して言っていたことで興味深かったのは、「新しいテクノロジーを表現の中に組み込むのは大好きだけど、テクノロジーそのものは道具に過ぎない。そこから生まれる表現に感情を付与するのがミュージシャンやアーティストの仕事だ」と。

落合 コンピュータグラフィックスだって、黎明期は「うわ、CGだ、すげえ!」って言ってましたからね(笑)。今はほとんどすべてがCGだから、それ自体では誰も驚かない。

菅野 そうそう。日常に溶けちゃって。一方で、だからこそ枯れ切った技術に「こんな使い方できたのか!」という発見があったときの爽快感は、また格別ですね。あとはやっぱりストーリー、コンテクストの中で見せることでしょう。

落合 僕はエジソンに対するロマンがすごく強いから、新しい技術をポンって生み出すこと自体にもロマンを感じちゃうタイプなんですよね。メディア装置が持つ社会的な意味を考えると、技術それ自体も何かの表現になり得る。

菅野 そこには社会的・歴史的なコンテクストが入ってきますからね。

落合 どんな技術にもそれが生まれるコンテクストがあって、読み解き方、伝え方によってはストーリーになる。ストーリーはやっぱり大事ですよね。最近、モノづくりの世界で最後に残るのはストーリー担当なんじゃないかって思います。



菅野 僕も同じ意見です。表面的に「伝え方だけ考える」というだけの仕事は存在し得ないので、これからのストーリー担当は、様々な側面からのコンテクストのさらに深い理解が必要になりますね。



落合 今日ここにいる学生さんたちの多くは、好きなことを仕事にしたがっていると思いますので、どうやったらいいポジションにつけるか、アドバイスをお願いします。

菅野 どのジャンルでもそうだと思うんですが、基本的には、自分が行きたい方向で、外部から評価されるちゃんとした成果を出すしか方法がないんですよ。それはたぶん会社じゃなくても同じで、自分がやりたい仕事をやるためには、自分がやりたいと思うその領域で仕事の実績をつくるしかない。実際のアウトプットでしかその人を定義できないし、証明もできないと思うんですね。上手な自己プレゼンだけではダメですね。

なので、辛いけど手弁当でもいいから自分の作品をつくったり、ポートフォリオを固めたり、論文を書いたり、なんでもいいんですけど、自分がやりたい領域での成果を1ミリでも出して、誰か周りから評価されておくこと。そうじゃないと、さらに大きな仕事の機会はもらえないなっていう実感はあります。

落合 なるほど。ただ、僕の場合、この仕事したいなって思う前に、向こうから「○○の仕事してみない?」と拾ってくれたり、偶発的な発見や出会いもありますね。

菅野 それはそうですよ。仕事の規模や領域を広げるためには、見込んでもらわないとですよね。僕だって「五輪のプロジェクトをやりたいです」って言って、やらせてもらったわけではないし。落合さんも、その前に「こいつならやれるんじゃないか」っていう推論を相手が働かせるだけの成果を出していたということでしょう。「この人を入れたらおもしろくなりそうだな」と思わせる実績づくりが必要だということです。

■「#コンテンツ応用論」とは?

本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一助教が毎回、コンテンツ産業の多様なトップランナーをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)

1987年生まれ。筑波大学助教。コンピューターを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。「デジタルネイチャー」と呼ぶ将来ビジョンに向けて研究・表現を行なう

●菅野 薫(すがの・かおる)

電通クリエーティブ・テクノロジスト、Dentsu Lab Tokyo代表。東京大学経済学部卒業。テクノロジーやデータで人の心を動かす新しい表現方法を開拓している。カンヌライオンズ・チタニウム部門グランプリなどさまざまな領域で受賞多数。これまでに手がけた主な仕事は本文中に登場するもののほか、日本スポーツ振興センター『世界を更新しよう。』、太田雄貴『Fencing Visualized Project』など

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博)