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●国内最大規模のPC生産拠点
富士通のノートPCの生産拠点が、島根県出雲市の島根富士通である。

国内最大規模を誇るPCの生産拠点でもあり、先頃、富士通研究所が開発したメディエイタロボット「ロボピン」の生産も同社が行った。島根富士通を訪れ、ノートPCの生産の様子や同社の取り組みを追った。

島根富士通は、1990年に、富士通製PCの生産拠点として操業。当初は、FM TOWNSを始めとするデスクトップPCの生産も行なっていたが、1995年にノートPCの生産に特化。2000年にはB棟を増築したほか、2002年からはカスタマイズサービスを開始するなど事業を拡大。さらに、2003年からはトヨタ生産方式をもとにした生産革新運動をスタートし、効率化を推進してきた。海外生産へのシフトが進展するなか、国内生産ならではの品質、納期などを特徴とすることで、国内最大規模のPC生産量を維持することができた背景には、この取り組みを抜きにしては語れないだろう。実際、この生産革新運動の成果は、製造コスト50%削減、リードタイムの80%改善などの実績につながっている。

2011年には、島根富士通が立地していた斐川町が、出雲市に編入したことで、同年から、島根富士通で生産されたPCを「出雲モデル」としてブランド展開を開始し、現在は、出雲市のふるさと納税の返礼品のひとつに、島根富士通で生産したノートPCが用意されている。

2013年には、島根富士通での累計生産台数が3,000万台を突破。タブレットの生産が可能な混流ラインを持つなど、柔軟な生産体制を確立しているのも特徴で、2016年秋には、富士通研究所が開発したメディエイタロボット「ロボピン」の生産を行い、PC以外の生産にも対応できることを示してみせた。また、富士通のデスクトップPCは、福島県伊達市の富士通アイソテックで生産しているが、事業継続性の観点から島根富士通でも生産を行えるような体制を構築しており、定期的に試験生産を実施。生産品目を問わない柔軟性が、島根富士通の隠れた強みになっている。

○柔軟な基板製造に対応

島根富士通の特徴は、ひとつは、基板実装ラインを有していることだ。

同工場では、10本の基板実装ラインを持ち、50×50mmから410×360mmまでの基板サイズの生産が可能。0603(0.6mm×0.3mm)と呼ばれる微細な部品の搭載から、異形の大型コネクタの搭載にまで対応。BGAにも対応することが可能で、最新の生産設備により、柔軟な基板づくりを可能にしている。

ノートPCやタブレットは、小型、軽量化を追求するため、それにあわせてカスタマイズした専用基板を使用することが多い。基板実装ラインを持つという強みは、こうしたモノづくりにおいて効果を発揮することになる。

最新の基板実装ラインにより、試作段階から量産段階まで対応。富士通のノートPCやタブレットに最適化した基板を開発、生産し、短期間に製品化につなげることができるというわけだ。

この基板実装の開発、生産ノウハウは、富士通のスマホの生産にも生かされており、兵庫県加東市の富士通周辺機において生産されているスマホの基板製造も、島根富士通で行っている。

現在、ひとつの基板から2機種分のマザーボードやサブボードを生産する仕組みとすることで効率化を実現している。

○ロボットによる自動工程

2つめは、自動化において先進的であるという点だ。

基板の生産では、検査工程までを含めて、全自動の一貫生産ラインを構築。はんだ印刷機や高速マウンター、リフロー炉などによる部品実装の自動化だけでなく、実装が完了した基板分割や最終検査も自動化。アームロボットと、パラレルリンクロボットを活用することで、人の手が動くような形で作業を行うことができる。

基板の分割および検査工程の自動化では、現在、第2世代のラインへと進化させており、これにより、完全な自動化を実現。複数のアームロボットを組み合わせて、基板の分割、検査作業を行った後、トレイに基板を移動。シートを敷いて、2層にしてマザーボードとサブボードを収納するという作業までを、すべてロボットで行っている。

自動化の取り組みは、基板実装ラインだけに留まらず、PC組み立てラインでも積極的に推進している。

当初は検査工程の自動化から始まり、カメラとマイクを用いて、画質やスピーカーの正常動作の確認、ラベル貼付位置などを確認する「VST(Visual Sound Tester)」や、キーボードが正しく動作することを確認するキーボード打鍵検査機などを導入。現在では、複数のネジを正確に締めることができる自動ネジ締め機や、複雑な形状の段ボール緩衝材を自動組立する緩衝材自動組立機などもラインに導入している。

組立ラインにおいては、タブレット向けのポートリプリケータの組み立てを自動化することに成功している。

これまでは、屋台型の作業台とし、一人の作業者が複数の作業をこなしていたが、これを完全自動化した装置を導入した。これにより、ネジ締めや検査工程などにかかる時間を半減するといった効果が生まれているという。

これは工場だけの工夫だけで実現するものではなく、設計段階から、自動化装置での組み立てが行ないやすいように開発をしている点が影響している。国内に開発、設計、生産拠点があるからこそ実現するものだといっていいだろう。

だが、島根富士通では、ラインを完全に自動化することが目的ではないとする。

とくに、組立ラインでは、「人と機械の協調生産」が島根富士通の基本姿勢であり、低コストであり、小ロットの混流生産可能な生産ラインの実現を目指しているという。

○ライン上で個別カスタマイズ

3つめには、カスタマイズに柔軟に対応できる点だ。

富士通では、カスタムメイドプラスサービスと呼ぶカスタマイズサービスを行っている。

専用のマスタPCを開発して、これを展開用PCにインストールしたり、各種I/O機器の組み込みやソフトウェアインストール、個別設定などのほか、天板などへの企業ロゴの印刷、起動時のロゴ変更などのカスタマイズなどを行うことができる。

PCの生産台数は縮小傾向にあるが、その一方で、ユーザー企業からは、それぞれの仕様に合わせたPCの生産が求められていたり、導入時の工数を削減したいという要求が高まっている。

実は、あるユーザーでは、新たに導入したノートPCに、1台ずつ管理用のラベルを貼る作業を行っていたが、これを島根富士通の量産ライン上で対応し、1台ずつのノートPCに異なる管理ラベルを貼付。さらに、これを1台ずつの梱包ではなく、リターナブル集合梱包を行うことで、余計な段ボール梱包を無くし、マニュアルなどの付属品を必要数量だけに削減することで、コストダウンを実現するといったサービスも行っている。また、量産ラインにクリーンルームを作り、画面に傷が付かないようにする「スクリーンプロテクター」を貼付するサービスも提供している。

こうした細かいカスタマイズにも対応し、ユーザー企業のニーズに応えることができる体制を整えているのが、島根富士通の特徴だといえる。

○タブレットやロボットの製造に対応

4つめには、ノートPCだけでなく、タブレットやロボットなどの生産にも柔軟に対応できる点だ。

17本の生産ラインのうち、6本の生産ラインで、PCとタブレットの両方が生産できる混流ラインとなっており、すでに島根富士通で生産する製品の約2割がタブレットになっている。

これは、カスタマイズなどに細かく対応してきたこれまでの経験を生かして、進化を遂げてきたもので、小ロット混流製造ラインの構築だけに留まらず、デバイスの枠を超えた多品種生産へと広げている。

こうした生産ラインの構築には、生産工程のシミュレーションによる効率的な生産手順や、最適な機器および人の配置などを仮想検証する仕組みを導入している点も見逃せない。事前にシミュレーションを行うことで、生産性の高いラインの構築を可能にしている。

もうひとつ、島根富士通の特徴といえるのが、同工場で導入している仕組みを、他の工場に対して外販しているという点だ。

先にも触れたように、島根富士通は、10年以上に渡って実施してきた生産革新運動によって、製造コスト50%削減、リードタイムの80%改善などの実績を持つ。これらの成果につながったノウハウ、設備を、サービスとして提供する自主ビジネスにも取り組んでいる。

具体的には、部品のピッキングミスを削減するストアピッキングカートや製造ラインの稼働状況を把握する電子アンドンシステム、複雑な形状の段ボール緩衝材を自動組立する緩衝材自動組立機、現場の隠れた異常を顕在化し、改善につなげる組立コンベアラインなどの「ものづくりツール」、プリント基板や小型機器組立における「EMS(製造受託)」、製品のカスマイタイズやキッティングを工場内で行い、倉庫費用の削減やリードタイム短縮を図る「カスタマイズ・キッティングサービス」、機器診断や修理、ユニット再生、メインボード部品交換などを行う「リペアサービス」、製造リードタイムの短縮や生産性向上などのものづくり現場の改善を支援する「エキスパートサービス」など多岐に渡る。

「これまで培ったものづくり力を生かした、島根富士通ならではのサービスを提供することで、『MADE IN JAPAN』を要望する企業の要望にフレキシブルに対応していく」という。

●島根富士通の生産ラインを見る
では、島根富士通におけるPCの生産ラインの様子を見てみよう。

生産ラインの横に配置された部品倉庫では、ストアピッキングシステムを導入しており、カートにつけられたタブレットの画面に、必要となる部品のピッキングリストを表示。それに則って、部品棚から部品を調達することになる。作業者は、腕にウェアラブル型のRFIDリーダーを装着。異なる部品を取ったり、必要な部品がピッキングされなかった場合には、音や振動で警告する。これにより、正確に部品を調達し、生産ラインに供給することができ、1台ずつ異なる仕様のPCも生産できるようにしている。

生産ラインでは、作業台ひとつひとつに主要部品が置かれるが、混流生産が可能なラインでは、ノートPCを生産したあとにタブレットの組立が行われ、そのあとにまたノートPCが生産されるといったように、1台ごとに異なる製品が生産され、それにあわせて異なる部品がひとつひとつの作業台に置かれることになる。

生産ライン上に設置されているHDDコピー機は、1台ごとに異なるWindowsを、ラインと同期してインストールすることが可能であり、こうした仕組みも混流生産を支えることになる。

○作業台はベルトコンベア式、10人で組み立て

作業台は、ベルトコンベアにより移動。これを約10人で組み立てることになる。今後は、5人で作業できる組立ラインの構築にも取り組む考えであり、1人の作業工数を増やすことで、需要変動にも対応しやすいラインづくりにつなげる考えだ。

また、生産ラインにおいては、電子アンドンの採用により、各工程を見える化するとともに、集計ツールと連動して、稼働分析を行ったり、工程の改善を実現。作業遅れや品質問題が発生するとベルトコンベアが停止し、その場で課題を解決する仕組みになっている。

主要部品は作業台の上に最初から置かれているが、大型部品は、作業台の後方から投入。さらに共通部品などは、前方から投入される形になっている。

作業は手作業で行われることが多いが、専用治具を使って、効率性を高めたり、作業精度を高めたりしているほか、1台ずつ異なるシール(メーカーから提供されているOSやCPUのロゴマーク)を正確な位置に貼ることができるラベル貼り付け機をはじめ、自動ネジ締め機、VST、キーボード打鍵検査機などの自動装置を導入。さらに、コンパクトブースにより、PC固有の情報を自動で取得したり、エージングを行ったりする。

コンパクトブースは、生産ラインの後ろ側に設置されており、Windowsの認証などに関わる作業時間が増加していることにあわせて、一度に作業が行える台数を増やしている。

また、同社独自ともいえる防水仕様のタブレット用には、バッテリ部の防水シートを圧着する装置を導入するといったことも行われている。

組み立てが完了したノートPCやタブレットは、最終試験が行われるが、すべての試験が正常に完了しないと、銘板やラベル、保証書などが発行されない仕組みとなっている。正常に試験が終了すると、バーコードが画面に表示され、それを読みとると、次の梱包工程に進ことができる。最終試験完了後は、添付品とともに、完成品を段ボールの箱に梱包。出荷されることになる。

○ものづくりは「匠の技術」、自前の工場が強み

こうしてみると、島根富士通は、国内最大のノートPCの生産拠点として、常に改善に取り組んでおり、それが富士通ブランドのPCの品質などにつながっている。また、柔軟なカスタマイズ対応により、細かいニーズにも応えることができるといえる。

富士通クライアントコンピューティング・齋藤邦彰社長は、「富士通は、PCビジネスを35年間やってきており、要望に応じて、オーダーメイドで製造、設計が可能。そして、顧客が望むリードタイムで提供することができる。だが、これは自前の工場があるからこそ実現できること。自前の工場がないと富士通のパソコンの強みは発揮できない」と語る。そのものづくりを「富士通ならではの匠の技術」と表現する。

島根富士通の取り組みをみると、まさに匠の技ともいえる部分を感じることができる。島根富士通の存在は、富士通がPC事業を推進する上で、我々が思う以上に重要なものとなっている。富士通が、国内生産にこだわる意味もここにある。

(大河原克行)