<「最近のヒット曲ってなに?」を出発点に音楽業界の状況やメディアのあり方、J-POPの変遷を検証した『ヒットの崩壊』は、多くの共感を得られた1冊>

ヒットの崩壊』(柴 那典著、講談社現代新書)は、「ヒット」という角度から、音楽業界の状況やメディアのあり方などを多角的に検証した新書。著者は、ロッキング・オン社を経て独立した音楽ジャーナリストである。

 印象的なのは、音楽不況だといわれる現状を、「最近のヒット曲ってなに?」という素朴な疑問を出発点として捉えている点だ。多くの人が気にかけているであろうその問題を、緻密な取材と観察眼を通じて広い視野で掘り下げているのである。


 ここ十数年の音楽業界が直面してきた「ヒットの崩壊」は、単なる不況などではなく、構造的な問題だった。それをもたらしたのは、人々の価値観の抜本的な変化だった。「モノ」から「体験」へと、消費の軸足が移り変わっていったこと、ソーシャルメディアが普及し、流行が局所的に生じるようになったこと。そういう時代の潮流の大きな変化によって、マスメディアへの大量露出を仕掛けてブームを作り出すかつての「ヒットの方程式」が成立しなくなってきたのである。(4ページ「はじめに」より)

 このことについては、著者が取材した小室哲哉の言葉を目にすれば強い共感を得ることができるだろう。90年代J-POPの主役のひとりである彼は当時の状況を、「まずはいい曲を作って、CDをリリースして、それをプロモーションして売るというのが基本だった」と説明している。その売上枚数がオリコンチャートで1位になれば、「流行っている」ということになり、雑誌もテレビもラジオもそれを参考にするというわけだ。

 しかしCDを買う人が減り、「聴き放題」のストリーミングサービスが広まり、SNSが情報発信の主要な手段となっている状況下においては、その構造がまったく成り立たなくなっているということである。だが、それだけではない。特筆すべきは、その一方で、長く活動できるアーティストが増えているということだ(アイドルを含む)。


 音楽業界を取り巻く環境は厳しい――誰もがそう口を揃える。では、その主役であるアーティストたちも「生き残れない」時代になっているのだろうか?
 実はそうではない。むしろ逆だ。歌謡曲全盛の80年代や、「J-POP」という言葉が普及した90年代に比べても、音楽不況が叫ばれるようになった00年代以降の方が、アーティストは着実にキャリアを重ね、息の長い活動を続けることができる時代になっている。(14ページより)

 その根拠としてまず注目したいのは、現代が「音源よりもライブで稼ぐ時代」だという事実だ。個人的にも、この考え方には同感である。音楽に限らず、ライフスタイルに関わる多くのことについて、「所有する」ことよりも「体験する」あるいは「感じる」ことのほうが重要だということを、皮膚感覚として日常的に意識しているからである。

 それはともかく音楽に関していえば、その裏づけとなるのは、フジロック、サマーソニック、ロック・イン・ジャパンなどの「フェス」の浸透だろう。そして、ここでのポイントは、嵐やAKB48、EXILEや三代目J Soul Brothersなどが出演している大型音楽番組とフェスには共通点があるという著者の見解だ。

 もちろん両者では出演陣や演出、構成こそ異なるものの、「生の体験の共有」を軸にした参加型の盛り上がりが生まれるという点が同じだという考えである。

【参考記事】熱烈歓迎!音楽ツーリスト様

印南敦史(作家、書評家)