愛煙家だったボンドも禁煙15年

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 2013年の夏、NPO法人「日本禁煙学会」が宮崎駿監督のアニメ作品に苦言を呈し、ちょっとした論議を呼んだのをご記憶だろうか。同学会の要望書にはこう書かれてあった。

 「映画『風立ちぬ』中でのタバコの描写について苦言があります。現在、我が国を含む177カ国以上が批准している『タバコ規制枠組み条約』の13条であらゆるメディアによるタバコ広告・宣伝を禁止しています。この条項を順守すると、この作品は条約違反ということになります」

 この苦言には「日本刀を使う時代劇もNGか?」「この理屈ならば切腹場面も?」と疑問視する声々や、茂木健一郎氏も「禁煙ファシズムと言われても仕方ない」という見解を寄せた。

 では、人一倍の映画マニアを自認するアナタに質問。あのスパイ映画の代表格、秘密諜報員007ことジェームズ・ボンドが、どうやら15年ほど前に「喫煙習慣」を(劇中)封印したらしいという秘話をご存じだろうか? ただでさえ危険が日常茶飯事でストレスの多い職業柄、禁煙英断にはかなりの忍耐力が問われたと思うが......。

禁煙15周年の秘密諜報員

 1960年代から世界中の観衆を魅了してきた人気活劇ヒーローの喫煙事情はいかほどのものなのか?

 その劇中での描かれ方を全24作品を通して検証し、15年前からの「禁煙」していたという「朗報」を浮き彫りにしたのは、ニュージーランドはウエリントンにあるオタゴ大学公衆衛生学部のNick Wilson氏らだ。彼らの研究成果は、1月16日の『Tobacco Control』(オンライン版)に掲載された。

 Wilson氏ら研究陣が、シリーズ第1作(1962年制作)から最新作(2015年制作)までの全24作品を検証した結果、主役であるボンド自身の喫煙場面は1960代がピークであり、ディケイドの作中換算で83%は紫煙をくゆらせていたという。

 そんなヘビースモーカーのボンドが、銀幕上で最後にタバコを吸ったのは2002年制作の『ダイ・アナザー・デイ』だというから、いわば今年は「禁煙15周年」に該当するというわけだ。

 ちなみに喫煙派だった当時のボンドが劇中で「最初の一服」をふかす場面は、映画開始から平均20分前後で描かれるのがパターンだったそうだ。

 さらに厳格な研究陣は、ボンドの一挙手一投足ばかりに目を奪われていたわけではない。それこそ標的を逃さない狙撃者の視線よろしく、彼らが注目検証したのが「間接喫煙」の場面だった。

 事実、1962年の第1作以降、007映画の劇中で喫煙シーンが皆無という作品はわずか1本(2006年制作『カジノ・ロワイヤル』)のみ。前述のごとくボンド自身は2002年以降「禁煙状態」だが、作品中では、恋人や仲間、あるいは他の脇役の喫煙によって、ボンドは「副流煙」の曝露からは逃れられていない。
禁煙に成功したボンドに「副流煙」の魔の手

 2015年のシリーズ最新作『スペクター』が典型例で、主役であるボンドの影響(効果?)なのか、主な仲間たちももはや喫煙はしていない。だが、他の登場人物による「副流煙」がいまだに描かれている。

 「この007シリーズでは喫煙場面の減少傾向が見られた。それでもこのシリーズの変わらぬ人気ぶりを鑑み、公衆衛生的観点から見れば、いまだに喫面が続いて描かれていることには問題があるだろう」(Wilson氏)

 実際、アメリカ国内に限っても、10〜29歳に対して「タバコを印象づける」シーン閲覧の視聴数が2億6100回を弾き出しているとか。時代や地球レベルの趨勢で「禁煙派」が主役の座を得ても、「愛煙家」という脇役に憧れる向きが完全にいなくなるわけでない。

 ご存じのとおり日本の場合、世界保健機構(WHO)の評価基準によれば、受動喫煙対策やメディアの脱タバコ・キャンペーン、あるいはタバコの販売・広告・後援の禁止項目において、高所得国の中で「最低レベル」の汚名を頂戴している。

 ボンド禁煙15周年の今日でも、厚生省がサービス業の「屋内原則禁煙案」を掲げれば、飲食店業界が「客離れで廃業の恐れがある」と反対を表明し、それを嫌煙派は「時代に逆行」「意味がわからん」と無視論を投稿する混乱状況は変わらない。

 007作品に『死ぬのは奴らだ』というタイトルがあったが、たばこの場合「奴ら」の範疇は喫煙者本人のみならず、副流煙で「皆殺し」のリスクも伴うというのに......。
(文=編集部)