NASA、「リアル宇宙兄弟」のデータから長い宇宙生活が人におよぼす影響を確認。DNAの振る舞いに変化

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NASAが、長期に宇宙滞在する人体においてDNAメチル化が低下することがわかったと発表しました。DNAメチル化とはDNA中の炭素原子や窒素原子に付加する水素がメチル基に置き換わる現象で、遺伝子の発現に関わるとされています。ただし、地上に戻れば変化ももとに戻るとのこと。

NASAやSpaceX、各国の宇宙機関が火星を目指す一方で、長期的な宇宙滞在が人体におよぼす影響はあまりわかっていません。特に有人で火星や小惑星を探査するミッションにおいては、片道だけでも数か月、往復だと1年を超えるような宇宙生活を乗り越えなければなりません。その途中で人体に何らかの悪影響が発生すれば、地球への生還すら困難になってしまいます。

そうした未知の状態への知見を得るため、NASAはスコット・ケリー宇宙飛行士による340日の長期宇宙滞在実験を実施しました(通算宇宙滞在は522日)。ケリー飛行士は通算宇宙滞在54日の双子の兄弟マーク・ケリーを持つリアル宇宙兄弟であり、長期滞在から帰還したばかりのスコット氏とマーク氏双方の体を詳細に調べることで、宇宙滞在による体の変化がわかるというわけです。

予備的な検査から判明したのは、遺伝子の発現に影響するDNAメチル化が宇宙空間では低下するということ。低下すると良いのか悪いのかは一概には言えないものの、メチル化が低すぎる、もしくは高すぎると正常な遺伝情報の複製が行われなくなり、腫瘍など細胞レベルでの病変も発生しやすくなると言われています。

ただ、同じようなDNAメチル化の変化は食生活の違いや睡眠時間の違いなどでも発生します。スコット氏のDNAメチル化の低下は、地上での一般的な例にくらべて変化の幅が大きかったものの研究チームは今回の結果が宇宙空間にいたからか、ISSでの宇宙食や睡眠サイクルの違いで発生したのかまでは特定していません。また、この結果がケリー兄弟を比較した1例をもとにしたものであり、ほかの飛行士らで比べた場合にまた違った結果になる可能性も除外していません。

一方、Johns Hopkins大学で遺伝学を研究するAndrew Feinbergiは「重要なポイントは少なくともこの現象が確認できたことだ」と指摘します。そして「おそらく宇宙空間でのDNAや遺伝子の振る舞いはそんなに単純なものではない」と認めつつも「将来、火星などへの長旅に出るクルーに対して、どんな薬を処方しておくべきかを考えることはできそうだ」としています。