日常を味わえる本

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星野博美といえば、返還前後の香港に移り住み『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)を上梓し、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した作家として知られています。そのほか中国旅行に関する著作も多くあるため、星野博美は旅の人と思われがちです。ですが決してそんなことはなく「むしろ旅はあまり好きではない」と正直に告白している本が『戸越銀座でつかまえて』(朝日文庫)です。

エッセイの名手

星野博美はエッセイの名手といえます。描くテーマは日常の身辺雑記というべきものです。そこで事件が起きたり、あるいは面白いものを求めてあちこち動き回る(それこそ旅との親和性が高いような行為です)ようなことはせず、猫、ファミレス、昼夜逆転の暮らしといったさりげない日常を描き出すことに長けています。文章に嘘や装飾がない人だともいえるかもしれません。

実家へ戻った日々

戸越銀座は星野博美の実家のある場所です。これまでのひとり暮らしをやめて、両親のいる実家へ戻り過ごす日々が描かれています。ちょうど、311の地震も起こり、非常時に便乗してティッシュペーパーの値上げをする店舗に、地元の人々がボイコットをするさまなどが描かれており、本当に「日々」が感じられる本だといえるでしょう。