日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

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■優しいだけではリーダーは務まらない

経営には、もちろん厳しい面があります。勝ち負けを経験し、時には修羅場をくぐることもあるでしょう。したがって、企業という集団を率いる経営者には、冷酷サイドに立たざるをえなくなる場面もあります。「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」ことも必要です。集団の中の1つの腐ったリンゴを取り除かないでいると、集団全体が腐敗してしまう恐れもあるからです。

しかし、冷酷だけの経営では、もちろん人心はついてきません。根本には温情があることが大切です。働く人々のマインドを上げる、やる気を出させるものがなければなりません。

私が日本電産シバウラの再建に取り組むとき、永守重信社長から手書きのファクスで届いたのが、「温情と冷酷のバランス経営をやれ」という言葉でした。この1行以外に説明はありませんから、解釈は私自身が行いました。そして、その解釈はいまも変わっていません。

イソップ物語の「北風と太陽」も教えてくれているように、人々の心を本当に動かすには太陽経営でなければなりません。理想を言えば、振り向いたら喜んでついてきてくれるフォロワーがたくさんいる、それがリーダーシップの基本だということになるでしょう。

しかし一方、企業というのは、同好会や宗教法人、結社とは違います。つまり、最初から同じ志を持った人間が集まっているわけではなく、なかにはやる気に燃える火ダネ社員もいれば、ヒラメ社員、抵抗勢力もいます。

ヒラメ社員とは、海の底にいるヒラメのように自分では動かず、潮の流れをいつも見ていて、流れが変わればそっちの方向にヒラヒラと動いていく受動的な社員です。また、つき従っているようで、実は面従腹背の人間も少なくないでしょう。宗教法人のように、全人格的な崇拝、共鳴、服従を求めることは無理です。

経営者というのは、それらをすべて腹のうちに呑み込んで、その集団を引っ張らなければならないのです。同好会などとは異なり、それぞれの構成員が、さまざまな思惑を抱いている集団。それでもその集団を愛し、結果を出させる。それがトップリーダーの役目です。そのためには、時には北風を吹かせることも必要です。それが「泣いて馬謖を斬る」です。

■「衣の下の鎧」を感じさせる

経営をスポーツの世界、たとえばプロ野球に置き換えてみれば、はっきりします。成績の上がらない選手を、いつまでも温情だけで起用し続けるわけにはいきません。1軍から2軍へ落とすことが、結果を追求する集団の当然の行動として行われています。また、戦力外通告で退団ということも普通の出来事です。

監督が甘々タイプで、選手とじゃれ合っているような宴会幹事型だったり、友だち型だったら、そのチームはけっして強くなることはないでしょう。経営というのは、目標を達成しなければなりません。数字が示す事実を受け入れなければならない集団なのです。究極的に言えば、プロ野球チームと変わりないのです。

温情サイド、太陽サイドに立ちすぎて、駄目な部分を切らずに騙し騙し続けていると、結局は全体が駄目になってしまいます。そのことを冷静に肝に銘じておき、切るときは切るという冷酷さも指揮官は併せ持っていないと、部隊は動きません。

そして、その冷酷さを、「衣の下の鎧」として、部下たちに感じさせておくことが大切だと思うのです。年中ちらつかせていても効果はありません。衣の下にあって見えないけれど、この人をナメたら大変だという意識を、部下たちに持たせることです。

温情は必要。しかし温情だけでは駄目。「衣の下の鎧」を感じさせておくことが必要。それが「温情と冷酷のバランス経営」ということだと、私は考えています。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(経営コンサルタント 川勝宣昭=文)