日本人横綱誕生に何を思う?

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 初場所千秋楽の翌日に開かれた横綱審議委員会は、初優勝した大関・稀勢の里の昇進を全会一致で「推挙」するとの答申を出した。大相撲ファンが待ち望んだ日本人横綱の誕生となったわけだが、その議論は異例のものだった。

「協議はたったの15分間。また、直近の4横綱(朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜)の昇進前『6場所』の成績を載せた資料が配られたことも異例でした。稀勢の里が過去1年、どれだけ安定した成績をあげてきたかを評価してほしいという意味でしょう」(協会関係者)

 昇進については横審の内規で「大関で2場所連続優勝か、それに準ずる成績」が条件とされている。

 それに照らすと今場所の優勝は“合格”だが、先場所は12勝3敗で、優勝した鶴竜とは勝ち星2差。“準優勝”ではあるが、それを「優勝に準ずる成績」と見るかは意見が分かれるところで、11月場所後の横審では守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)が、稀勢の里が初場所で優勝した際の扱いについて「両手を挙げて(昇進に)賛成というわけにはいかない」と渋る意見を口にしていた。

 しかも今場所は2横綱(日馬富士、鶴竜)が休場して稀勢の里と対戦がなく、優勝争い大詰めの13日目も大関・豪栄道の休場で不戦勝するなど、展開に恵まれていたのは確かだ。

「直近2場所の成績だけだと条件を完全に満たしていないという認識が協会側にあったのでしょう。だから6場所分の成績を記した資料が配られた」(同前)

 協会が稀勢の里の実力を本物だと考えているなら、かつて大関・貴ノ花(当時、現・貴乃花親方)が1994年9月場所に全勝優勝した際に横綱昇進が見送られたように、もう1場所待つという考え方もあったはずだ。しかし、そこまで信じることはできなかったか。

 場所前から稀勢の里が所属する二所ノ関一門の関係者を中心に、昨年の年間最多勝などを“論拠”として「初場所は稀勢の里にとって綱取り場所」とアピールされてきた。そうしたお膳立ての末の昇進という側面は否定できない。

 こうした協会をあげての後押しに対して、反発を抱いていたとみられるのが横綱・白鵬だ。それは千秋楽の結びの一番を前にした支度部屋の様子から伝わってきたという。若手親方の一人がいう。

「白鵬は付け人相手にしきりに左四つで組む立ち合いの稽古をしていたんです」

 白鵬が得意なのは右四つで、左四つが得意な稀勢の里とは、いわゆる「ケンカ四つ」になる。そのなかで、あえて稀勢の里に有利な体勢のシミュレーションをしていたのである。

「相手の得意な左四つに組んだ上で、電車道で稀勢を土俵下に叩き落として格の違いを見せつけるつもりだったのでしょう。白鵬との一番を待たずに協会も横審も昇進ムードだったので、“協会に恥をかかせてやる”と周囲に意気込んでいた」(同前)

 実際、白鵬は立ち合いから左四つで一直線に押し込んだが、土俵際ですくい投げを食って敗れた。

「ガチンコでぶつかり合って、逆にねじ伏せられた。取組前の意気込みが空振りに終わり、かえって白鵬の力の衰えを感じさせる一番となりました」(同前)

※週刊ポスト2017年2月10日号