By cinnamon_girl

出版科学研究所のデータによると、漫画大国日本の漫画市場(コミックス+漫画雑誌)は2014年の時点で推定販売額3000億円以上とのことで、毎年とてつもない数の漫画が売れまくっています。そんな日本の文化にすっかり溶け込んだ漫画の原型が、中世には既に存在したことを示すような資料が残っています。

The Psychomachia: An Early Medieval Comic Book - Medieval manuscripts blog

http://blogs.bl.uk/digitisedmanuscripts/2017/01/the-psychomachia-an-anglo-saxon-comic-book.html

古代の詩人プルデンティウスの詩を集めた「Psychomachia(霊魂をめぐる戦い)」は、西欧において物語化された最も重要な叙事詩として知られています。この叙事詩では人間の魂の中にある「善」と「悪」の戦いの様子が語られているのですが、作者のプルデンティウスの死後、中世になってから民衆の間で人気を博すようになります。中世になって「霊魂をめぐる戦い」はなんと300以上の模写が作られたのですが、その中のおよそ20冊ほどは文字だけでなく挿絵が挿入されており、さらにその中のわずか2冊が大英図書館で保管されています。

中世に作られたという挿絵付きの「霊魂をめぐる戦い」の1ページはこんな感じ。大英図書館に保管されているという2冊の写本は、10世紀から11世紀にかけてイギリスで作成されたものと思われます。



「霊魂をめぐる戦い」では7つの美徳(善)が7人のキリスト教女性として描かれ、同じく7人の女性の異教崇拝者(悪)と戦う姿が描かれます。絵の中では悪が死ぬ場面などが描かれており、これは「喜劇的ではあるものの、暴力的でもある」とのこと。例えば、7つの美徳の「信仰」が異教崇拝者の首を切るシーンや、「博愛」が自身の剣で悪側の「色欲」を殺害するシーンなどがあります。





これらの写本は恐らくアングロサクソン人の僧侶が、キリスト教の教えを説く際に使用されたものと考えられています。実際、「霊魂をめぐる戦い」の写本にはいくつもの注釈もしくは曲解が付け加えられており、それらは現在も修道院などで使用されている教科書の中に残っているとのこと。

それでは、なぜ僧侶やその教え子たちはイラスト付きのテキストを用いて勉強を行ったのでしょうか。中世は戦士社会でしたが、僧侶は武器を持つことを許されませんでした。その代わり、僧侶たちは精神的な戦いを繰り広げることを奨励されていたそうです。「霊魂をめぐる戦い」は、「心の中の敵と戦うことは、物理的な相手と戦争することと同じくらいに英雄的な行為である」というメッセージを修道院コミュニティに伝えるための道具だったのではないかと考えられています。