ブータンの商店に並ぶインドのLava International製スマホ「Lava A71 4G」

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 世界には2016年末時点で携帯電話サービスの加入件数が10億件以上の国は2か国ある。

 それは約13億件の中国と約11億件のインドである。

 そして、この二大携帯電話大国に挟まれたブータン王国(ブータン)の携帯電話市場はインドの影響が強い状況にあるが、ブータンの外交政策や制度などが反映されている。

◆インドのスマホで溢れる市場

 ブータンでは携帯電話事業者が一部の携帯電話メーカーの正規代理店として機能するが、各国の携帯電話メーカーはブータンに参入していない。

 ブータンの携帯電話市場は規模が小さく薄利多売による収益化が期待できず、また経済的な状況を考慮すると収益性の高い中高価格帯以上のスマートフォン(スマホ)は販売台数をあまり見込めないため、携帯電話メーカーにとって魅力度が低い。そのため、多くの携帯電話メーカーがブータンの携帯電話市場に関心を示さず、ブータンで現地法人を設立もしくは正規代理店を指定してスマホを正規販売する携帯電話メーカーは極めて少ないのだ。

 そんな中でブータンの携帯電話市場にはインドから輸入されるスマホが溢れている。インドには多くの携帯電話メーカーが存在し、それらをブータンで見られるが、これにはブータンの国内事情のほかブータンとインドの関係が大きく影響している。

 なお、ブータンで携帯電話を販売する一部の商店はAppleやNokiaなど有名企業のロゴを掲げている場合も多いが、正規ではないため注意したい。

◆インドのスマホが多い理由

 ブータンとインドは経済、物流、人的往来など様々な面で密接な関係にある。

 ブータンの通貨はブータンニュルタムであるが、インドの通貨であるインドルピーと等価で、ブータンではインドルピーも通用する。ブータンとインドはインド・ブータン貿易協定を締結しており、条件を満たせば両国間では輸出入時の関税を免除し、ブータンが仕出地または仕向地となる貨物はインドを通過時に免税となる。

 ブータンへの入国は一般旅券であれば基本的に査証の取得が必要であるが、バングラデシュ、モルディブ、そしてインドの国民は査証の取得が不要で、その中でもインドはブータンと陸地で国境を接しており、陸路でブータンに入国するインド人が非常に多い。ブータンにはインド人が経営する商店が見られ、物資の運搬や観光など様々な目的でインドから自動車で乗り付けるインド人や、建設現場で労働に従事するインド人も目立った。

 一方で、ブータンは中国と国交を樹立していない。両国は陸地で国境を接するが、国境画定で問題を抱えるほか陸地国境は解放されておらず、航空路線は両国を結ぶ直行便がないため、両国間の移動には第三国を経由する必要がある。あらゆる面で交流が盛んとは言い難い。

 このように、ブータンの外交政策や制度などが影響してブータンとインドは経済的に緊密な関係で物流や人的往来も盛んである。あらゆる品目の製品がインドからブータンに流通しやすい環境が整っており、スマホも例外ではないのだ。

◆インドの低価格スマホが主流

 ブータンは国際連合により後発開発途上国に指定されており、経済的貧困から脱出できていない。そのため、ブータンでは低価格帯のスマホの需要が高い。

 インドの携帯電話市場では低価格帯のスマホがメインストリームで、インドには低価格帯のスマホが多いが、それがブータンに輸入されることはブータンの人々にとって都合がよいのだ。

 インドにはインド国外からも多くの携帯電話メーカーが参入しているが、インドの携帯電話メーカーは特に安価な傾向にあり、安価なスマホを優先的に調達すると、自然とインドメーカーの比率が高まる。また、インド人が経営する商店は新品ではなく中古のスマホを中心に調達する事例も多いが、これも価格重視のためである。流通構造からインドで流通量が多い低価格帯のスマホほどブータンに流入しやすいと言える。

◆中国メーカーの可能性

 世界的に急成長する中国の携帯電話メーカーは少なくないが、前述した複数の理由により、中国メーカーはブータンの携帯電話市場で存在感が高いとは決して言えない。ただ、インドは携帯電話大国ゆえにインドで事業強化を図る中国メーカーは多く、インドの携帯電話市場では販売台数を増加させて存在感を高めている。インドメーカーと並ぶほど低廉化が進むか、もしくはブータンの経済成長が進めば、ブータンでもインド経由で中国メーカーのスマホが流通量を増やすだろう。

 ブータンではインドのテレビ放送局の番組が一般的に楽しまれており、当然ながらインド向けテレビCMも放送される。インドで事業拡大を狙う中国メーカーはテレビCMなど広告展開に積極的で、ブータン滞在中は中国メーカーのインド向けテレビCMを目にした。このような状況からブータンでスマホの流通量が少ない中国メーカーでもブランドが知られていることは珍しくなく、知名度が先行する状況で流通量が増えれば、ブータンの携帯電話市場でも存在感を高める可能性が高い。

<取材・文・撮影/田村 和輝 Twitter ID:paopao0128>