対外試合で早くもゴールを奪った工藤。期待は高まっている。写真:中野香代(紫熊倶楽部)

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 キャンプのスタートから突出した切れを見せつける柏好文から、フワリとしたクロスが上がった。ストライカーはフリーになった。ヘッド! 決めたのは工藤壮人。広島移籍後初の対外試合ゴールだ。
 
 相手がJ3のチーム(鹿児島ユナイテッド)とはいえ、そう簡単にゴール前でフリーになれるものではない。事実、その後は鹿児島のタイトな守備の前に広島はリズムが作れなくなった。強烈な推進力と相手を剥がす迫力を見せつけた青山敏弘やフェリペ・シウバがピッチに登場するまで、広島はシュートすらまともに打てない。だからこそ、わずかなチャンスを決めて見せた工藤の能力が光る。
 
 昨年、広島の攻撃を牽引したピーター・ウタカとの契約は、残念ながら暗礁に乗り上げたままだ。タイ、そして宮崎と続くキャンプに参加する目処も立たず、昨年の得点王が広島でプレーする確率は低いと言わざるをえない。圧倒的な肉体と美しい技術を持ったスーパースターが紫のシャツを脱ぐことは、言うまでもなく大きな損失である。
 
 では、誰がP・ウタカの代わりを務めるのだろう。否、誰も「代役」はできない。突出した創造性を駆使して相手の度肝を抜き、最後には決めてしまう。ドリブル、スルーパス、ゴールゲット。19得点・8アシストを記録しふたP・ウタカは、攻撃面ではまさに万能。そんな選手がそうそう転がっているわけがない。フェリペ・シウバにはそういう「万能性」を感じるが、得点を量産したP・ウタカと違い、彼はむしろチャンスメーカーの色が濃い。
 
 もちろん、工藤にしても「ウタカの仕事」をすべて担うことはできない。柏時代には2列目を任されたこともあるが、彼の本質はやはりストライカーだ。鹿児島戦で見せたようなDFを欺くポジション取りの妙は、点取り屋の才能そのもの。P・ウタカというよりもむしろ、広島のエースの座に12年間も君臨した佐藤寿人(名古屋)を彷彿とさせるクオリティ。P・ウタカとは「技術」のジャンルが違うのだ。
 工藤が「ウタカになる」必要はない。広島は今季、リトリートしてブロックを作る守備に加え、アグレッシブにボールを奪うやり方にもチャレンジする。特に森保一監督がキャンプから強い言葉で意識付けしている素早い切り替えからの「奪われたら奪い返す」サッカーのキーマンとして期待されているのが、質の高いランニングと戦術理解能力、そして守備意識も高い工藤である。
 
「ウタカ頼み」と批判も受けた昨年の広島だが、特に攻撃は最後の部分で個人の質が物を言う。それがサッカーの本質である。2012年の初優勝は佐藤寿人が見せた抜群のゴール奪取能力に頼っていたし、2015年はドウグラス(アル・アイン)と浅野拓磨(シュツットガルト)の個人能力が際立っていた。
 
今季も「得点を決める」というところでは工藤やフェリペ・シウバ、柴粼晃誠らの才能に頼るしかない。だがチャンスを創る過程においては、オフ・ザ・ボールの動きを絡めたコンビネーションを広島は取り戻したい。その方向性に、工藤はうってつけのスタイル。鹿屋体育大との練習試合ではダイナゴナルの走りによって他の選手たちの決定的シュートを量産したことがその証明だ。
 
「広島の選手たちは、止める・蹴るの基礎技術が高い」と語る工藤は、練習後に必ずグラウンドの壁に向かってボールを蹴り、基本技術を少しでも高めようと努力を続ける。広島を貫く「主体的にボールを動かす」コンセプトに対応する必要を感じているから。森保監督が「戦術的にもまだ吸収段階。肉体的なコンディションがあがってくるにつれ、もっと良くなる」と期待を掛けるのも、自分の個性をチームに生かそうという工藤の努力を見つめているからこそ、だ。
 
P・ウタカは稀代のタレントではあるが、工藤壮人もJ1でふた桁得点を4度も記録している際立ったストライカー。2017年の広島は、決意を込めて規程上最大番号である50番を背負った勇士が、昨年とは違った形で牽引する。ピーター・ウタカはピーター・ウタカ、工藤壮人は工藤壮人である。
 
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)