ホーチミン・シティの会長に就任したレ・コン・ビン【写真:Getty Images】

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レ・コン・ビン、31歳でクラブの会長に

2016年末にAFFスズキカップを最後にベトナム代表から引退したレ・コン・ビンが1部リーグホーチミン・シティの会長に就任した。31歳という異例の若さで会長になったレ・コン・ビンは「プロフェッショナル」という言葉を口にしており、これは日本でプレーした経験が生かされているようだ。31歳の会長の挑戦はまだ始まったばかりだ。(取材・文:宇佐美淳【ホーチミン】)

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 東南アジア人初のJリーガーとして、2013年に当時J2のコンサドーレ札幌でプレーした元ベトナム代表FWレ・コン・ビンが同国1部ホーチミン・シティ(HCMC)の新会長に就任した。レ・コン・ビンは昨年末、12年に及ぶ現役生活に別れを告げたばかり。31歳という若さでの会長就任は異例のことだ。

 国際Aマッチ出場85試合51得点といずれもベトナム代表の歴代最多記録を誇る“ベトナムの英雄”レ・コン・ビンは、昨年末のAFFスズキカップ2016を最後に惜しまれながらも現役引退。

 当初は所属クラブであるベカメックス・ビンズオンとの契約が1年残っていたことから、代表を退くだけで、2017年シーズンまでは現役を続けると見られていたが、若返りを図るクラブから契約解除を言い渡され、現役を退くことを決意した。

 引退後の動向については、指導者転身や大学への進学、はたまた人気歌手トゥイ・ティエンを妻に持つことからショービズ界デビューなど様々な噂が飛び交ったが、今年に入ってから突然、HCMCの会長に就任することが発表された。

 HCMCは2012年に設立。これまではホーチミン市サッカー連盟(HFF)が運営してきたが、昨季の2部ディヴィジョン1(Vリーグ2)で優勝して1部昇格を決めると、初の1部リーグ参戦にあわせてホーチミン市サッカー株式会社を設立。

 HFFは、国内最大の経済都市ホーチミン市で地元ファンに長く愛されるクラブを作ろうとしており、ベトナムサッカー界で今なお最も影響力の強いレ・コン・ビンをフロントに招き入れることを決めた。

大都市に根付かないサッカー人気

 ベトナム都市部のクラブにとって、ファン獲得というのは切実な問題だ。ホーチミン市やハノイ市といった大都市は800万人ほどの人口があり、そこを拠点とするサッカークラブも人気が高いように思えるが、実際は地方や近郊から進学や就職のために出てきている人々が大半で、いわゆる地元っ子というのは少ない。また、ベトナム人は週末になれば何時間もかけて故郷に帰るほど郷土愛が強く、仮の住まいである都市部への愛着は薄い。

 そのような文化的背景から、この2大都市のクラブは観客動員で常に苦しんできた歴史があり、特にホーチミン市ではこの数年、クラブの新設と解散が相次いだことで、国内サッカーファンに愛想を尽かされてしまっている。昨シーズン途中にハノイ市から移転したサイゴンFC(旧ハノイFC)も地域密着を掲げてはいるが、まだ人気が定着したとは言い難いのが現状だ。

 サッカークラブの運営経験が皆無のレ・コン・ビンがいきなり会長職に就くということについては、国内でもかなりの論争を呼んだが、HFFは最終的にクラブの命運を新米会長に託すことにした。

 レ・コン・ビン会長が任された仕事は、選手・コーチ陣の人選やスタジアムをはじめとした施設の改修に関する最終決定、チケット・グッズ類の販売促進など多岐にわたるが、HFFが最も期待しているのは話題性と集客力であろう。

 HCMCは今オフにレ・コン・ビン会長の元チームメイトで、現役ベトナム代表のCBチュオン・ディン・ルアットと右SBアウ・バン・ホアンを獲得したほか、Vリーグで既に実績のある外国人選手や帰化選手の補強にも成功してオフシーズンの話題を独占。

レ・コン・ビンが誇る驚異的な動員効果

 開幕戦となったクアンナムFC戦では、レ・コン・ビン会長自らチケット売り場に立って、サポーターにチケットと記念Tシャツを手渡した。その効果もあってか、開幕戦は7000人以上の観客を動員。昨シーズンの2部リーグで優勝を決めた試合の観客動員数が2000人程度だったことを考えると、驚異的な観客動員数と言える。

 レ・コン・ビン会長は、これまでの取材の中でたびたび“プロフェッショナル”という言葉を口にしてきた。レ・コン・ビンが選手として数々の偉業を成し得た理由が、彼がベトナムで最もプロ意識の高いプレーヤーだったからであるということは、ファンもアンチも含めて全員が一致している意見だ。レ・コン・ビン会長はプロ意識の大切さについて、札幌時代に多くのことを学んだという。

 レ・コン・ビン会長は筆者の取材に対し、「4か月プレーした札幌は素晴らしいクラブで、会長から選手、スタッフまでがまるで一つの家族のように一致団結していました。それぞれがプロとして高い意識をもって、与えられた仕事に取り組み、共通の目標に向かって団結していたんです。おかげで選手はサッカーだけに集中することが出来ました。

 サポーターも非常に熱心で、あんな大声援を受けた記憶は後にも先にもありません。スタジアムやクラブハウス、移動手段など、あらゆる面がプロでした。そして、選手たちは自分の仕事に誇りを持ち、決して不正など働かない。HCMCが目指すのは、そんなプロフェッショナルなクラブです。」と語った。

 初参戦となるVリーグ2017シーズンの目標は1部残留。開幕戦ではリーグ中堅のクアンナムFCとドロー。昨年のカップ戦王者タン・クアンニンとの対決となった第2節では終盤までスコアレスで粘ったものの、最後に力尽きて0-2で初黒星。

 続く第3節のサイゴンダービーでは、1-0で勝利して記念すべき1部リーグ初白星を挙げた。出だしはまずます。チケットの売れ行きも依然好調だが、旧正月明けには上位陣との連戦が待っている。HCMCと新米会長レ・コン・ビンの挑戦はこれからも続く。

(取材・文:宇佐美淳【ホーチミン】)

text by 宇佐美淳