【恋する歌舞伎】第18回:三角を超え、まさかの四角関係!恋の達引きやいかに
日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
今回は、江戸歌舞伎三百九十年「猿若祭二月大歌舞伎」で上演予定の『梅ごよみ』に注目します!
吉原にある大店「唐琴屋」の養子・丹次郎(たんじろう)はモテモテの色男。
お蝶(ちょう)という許嫁がいるにもかかわらず、自分にぞっこんの深川芸者・米八(よねはち)の世話になり一緒に暮らしている。
今日は久々にお蝶と会っており、彼女を舟で送ろうと渡し場に向かうが、そこで間の悪いことにばったり米八と遭遇してしまう。
相当なやきもちをやかれる丹次郎だが、なんとかなだめてお蝶と舟へ乗り込む。
そこで一艘の屋形船とすれ違うが、これが更なるもつれの始まりとなる。
乗っていたのは同じく深川芸者の仇吉(あだきち)。
この売れっ子芸者までもが丹次郎の美しい顔に一目ぼれをしたのだった。
◆【2】世の中で一番怖いのは女の嫉妬?
ところかわって、ここは深川にある丹次郎の家。
ここには主人筋である千葉半次郎という男が身を寄せている。
なぜなら半次郎は、お家の重宝「残月」の茶入を預かる役目であったが紛失し、その咎により勘当の身となっているからだ。
そこで丹次郎も、半次郎と共に茶入を探している。
そんな中、仇吉は茶入を所持すると思われる男の手がかりをつかんだため、丹次郎にそのことを知らせる。
喜んでやってきた丹次郎に、仇吉は仕立てておいた羽織を着せてやるのだった。
いい雰囲気の二人のところへやってきたのは恋敵・米八。
彼女は嫉妬のあまり、その羽織をはぎとり、なんと下駄で踏みつけてしまう!
深川の売れっ子芸者二人の激しい女の闘いは、新聞沙汰となる騒ぎとなった。
◆【3】目には目を、歯には歯を。やられた分はやり返す!
騒ぎのあと、仇吉はこっそり丹次郎の家を訪ねる。
そして「今夜あなたが探している茶入を手に入れる。その代わりに、腕に彫られた“米八命”の刺青を消して欲しい」と懇願するのだった。
丹次郎は承知し、腕の刺青を焼き潰す。
仇吉は深川の二軒茶屋へ赴き、意を決し盗んだ疑いのある男を口説き落とし茶入を手に入れようとする。
しかしこの大事なミッションを邪魔したのは、またもや米八。
丹次郎と会っているのだと思い込んだ米八は、怒りに任せて座敷に下駄を投げ入れたのだ。ところがそこに丹次郎はいなかった…
仇吉はこの件で、羽織を踏みつけられた因縁が再燃し、今度は仕返しに、投げ入れられた下駄で米八の頭を打ち据えるのだった!
◆【4】命がけの女の闘いもまさかの展開で一件落着。雨降って地固まる!?
米八は、その場は退散したが黙ってはいられない。
仇吉を待ち伏せし、更なる仕返しにと丹次郎が探す茶入を奪おうと斬り掛かる!
深川芸者の意地のぶつかりあいはどちらも引くことはなく、激しい争いとなる。
そこへ割って入ったのは丹次郎。
「仇吉が手に入れた茶入は、実は真っ赤な偽物で、本物は既に取り返した」というまさかの展開。
茶入を取り戻したことで、半次郎は無事に帰参がかない、喜ぶ丹次郎を見たことで仇吉、米八のわだかまりも解ける。
肝心の四角関係の行方はというと、丹次郎は、お蝶との祝言を進めるというあっけない結末。
元・恋敵であった仇吉・米八は意気消沈しながら両人を見届けるのだった。
◆『梅ごよみ』
為永春水作の人情本「春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)」が原作。木村錦花が脚色し昭和二年初演。原作の、色男をめぐる色模様に加え、歌舞伎ではお家騒動の要素等が絡み合う。深川の辰巳芸者同士の意気地の張合いが最大の見どころ。
(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)