日本の「ウェルネス」を牽引するリーダーは誰だ?

写真拡大

モバイルヘルステクノロジーベンチャーのFiNCとフォーブス ジャパンが2016年11月末、「Wellness AWARD of the Year 2016」を開催した。

今回が第1回となる本アワードは、健康の重要性を社会に向けて発信し、啓発することを目的としている。「健康」を切り口に、ロールモデルとなる個人や企業、自治体など幅広い分野から、7社・団体、4名の受賞者を選んだ。

個人健康部門の1位はプロスキーヤーの三浦雄一郎氏、経営者部門1位はローソン代表取締役会長CEOの玉塚元一氏。この記事ではその他9部門の受賞者・受賞企業と審査員を紹介する。

<個人サポート部門>
白戸太朗:アスロニア代表、スポーツナビゲーター

日本のトライアスロン人口は現在、約35万人。2000年代に入って、急速に普及したスポーツの1つだ。白戸氏はトライアスロンに挑戦してみたいという人々を、ショップ、スクール、イベントの3方向からサポートし、競技の普及に一役買ってきた。当初は経営者やエグゼクティブクラスのビジネスマンが多かったが、最近は一般のサラリーマンの中にも、始める人が増えている。

白戸氏は、学生時代の大部分をクロスカントリースキーの選手として過ごした。だがトレーニングの一貫として始めたトライアスロンでプロアスリートに。世界を転戦する中で、スポーツ、特にトライアスロンの素晴らしさをより多くの人に伝えていかなければと、スポーツナビゲーターとなり、現在の活動を始めた。

トライアスロンの素晴らしさは「どんな人でも努力しただけの成果を実感できること」。始めた人の多くが、トレーニングや大会への挑戦により、肉体的にも精神的にも自信をつけ、よりポジティブに、アクティブになっていく。しかもトライアスロンは、子供のころから水泳や自転車に親しんできた日本人には特に始めやすいスポーツなのだと白戸は話す。

「トライアスロンで、日本をもっと元気にしていけるのではないかと思うんです」

受賞理由:トップアスリートとしての活動を続けつつ、事業家として生涯スポーツの普及に努めている。アスリートのデュアルキャリアのロールモデルとなっている。(審査員:SHIHOKO URUSHI)

<健康サポート企業 日本部門>
大島博:宇宙航空研究開発機構(JAXA) 有人宇宙技術部門 宇宙医学生物学研究グループ 技術領域主幹 主幹研究開発員 医学博士


「宇宙医学は、宇宙飛行士の心と体のリスクをいかに軽減するか、個人とチームのパフォーマンスをいかに向上させるか、ということを目標に研究しています」

と、話すのはJAXAの宇宙医学生物学研究グループで宇宙医学を研究する大島博だ。実はこの宇宙医学、地上で暮らす私たちにも関係がある。

例えば地上で生活する高齢者の体は、骨量の減少が進む。これが骨粗鬆症を引き起こす。これに対し、重力がほとんどない宇宙空間で生活する宇宙飛行士の体では、地上の高齢者の10倍の速さで骨量の減少が起こる。研究の結果、宇宙での骨量減少は、骨粗鬆症の治療薬の応用と適切な運動、必要な栄養摂取によって予防可能だとわかった。

つまり宇宙飛行士の食生活や運動を、地上で暮らす高齢者に応用すれば、骨粗鬆症を減らし、転倒骨折、寝たきり化を防ぎ、健康寿命を延ばすことにもつながる。宇宙飛行士が行うトレーニングや対策のノウハウは、高齢者のために応用することができるのだ。

受賞理由:かつて、宇宙に出た飛行士の睡眠状態やホルモン動態を観察する機会から、予防医学の前進に大きく関係する考え方を得た。宇宙医学のさらなる発展に期待する。(HIDEYUKI NEGORO)

大島博◎2012年JAXA宇宙医学生物学研究室室長。ベッドレスト研究、スペースシャトル飛行時の医学研究、ISS滞在宇宙飛行士の骨量減少予防対策研究に参加。日本人宇宙飛行士の軌道上運動・帰還後リハビリテーションを担当。

<公共性部門>
医療法人社団 悠翔会


勤務医時代は、「治すことが医療」だと考えていた。「でも、『治す』のではなく『生活を楽しみ、社会に参加するのを支える医療』も必要なのです」。

そう気付いたのは、大学院時代のアルバイトで在宅医療を体験した時だったという。病気や障害と「共存」し、最後まで幸せに暮らせる社会を作りたい。佐々木淳医師はそんな思いで「悠翔会」を立ち上げた。

現在は東京を中心に、10クリニック、常勤医師33人、非常勤医師43人の体制で、3,000人の患者を定期的に訪問。各医師が担当患者を総合的に診療し、持病をはじめ健康状態の悪化の予防、健康的に過ごすための生活指導も行う。

一方で、夜専門の救急診療部も設置。在宅医療にかかわる地域の診療所の夜間救急対応をサポートする機能も引き受ける。診療対象は5,000人に上る。

高齢化が進む日本で今後、在宅医療の需要はさらに増えていくだろう。だが本来なら、地域の診療所がその役割を果たせるのが理想だ。在宅医療を行うには24時間対応が求められるが、夜間の部分を悠翔会が補うことでそれが実現しやすくなればいい。佐々木の挑戦は、まだまだ続きそうだ。

ささき・じゅん◎三井記念病院、東大大学院医学系研究科を経て、2006年に現在の「悠翔会」を設立。24時間ケアをモットーに、最初の5年間は一人で深夜の救急診療を続けた。

<健康サポート企業 海外部門>
Apple Inc.

AppleはiPhone、Apple Watchなどでヘルスケア・アプリケーションを提供している。健康関連のアプリを通してユーザーの健康データを集約し、日々のアクティビティやマインドフルネス、栄養、睡眠を活用できるようにした。

また、ResearchKitで作られたアプリは、医学的な見識や発見を生み出すことにも貢献。医学分野における研究者にも新たなプラットフォームを提供している。

一方、2016年8月には個人の健康情報を管理・共有する技術やサービスを手がける米国のスタートアップGlimpseを買収。同社の技術をAppleのヘルスケア関連ソフトウェアのフレームワークに活用し、サービスを展開していくと見られている。

<ウェルネス 経営部門>
日本交通

運輸業界にとって、ドライバーの健康は切実な課題。安全に直結するからだ。日本交通は2015年度からハイヤー部門、タクシー部門それぞれにCWO(最高健康責任者)を置き、乗務員はじめ従業員の健康管理に力を入れている。

初年度はアプリを通して適度な運動、健康的な食事の方法、睡眠のとり方について管理、指導をテスト的に実施した。参加者ほぼ全員が、健康に関する知識を身に付け、同時にダイエットに成功するなど成果を上げた。アプリによる健康管理は、16年度も対象者を増やして継続している。また、全ドライバーを対象に睡眠時無呼吸症候群の検査を行い、早期発見および治療にも積極的に取り組んでいる。

<自治体部門>
柏の葉アーバン デザインセンター(千葉県柏市)

千葉県柏市にある柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)は「公・民・学」連携による地域主体の街づくり、拠点づくりに取り組んできた。

UDCKが設置したまちの健康研究所「あ・し・た」は、東京大学と企業の協力によって誕生した、市民の健康づくり拠点。妊婦や乳幼児から高齢者まで、幅広い世代を対象に、計測サービス(体組成計測、ロコモチェック、加齢性筋肉減弱現象チェック、滑舌の良さの計測、歯磨き圧チェック)に加えて、健康関連のイベントや情報を提供している。

<特別功労賞>
佐久総合病院(長野県佐久市)

佐久総合病院は「予防は治療に勝る」をスローガンに、地域に密着し、院内外での健診や保健予防活動に力を入れてきた。

1959年に近隣の村で全村健康管理を始め、75年には全県の農協の組合員や地域住民を対象とした年1回の健診を開始。各地での健診、啓発活動を通じて病気の早期発見と治療、食、住、労働生活への指導などを継続してきた。地域住民の寿命が延び、行政の医療費支出の大幅減も実現した。これらの活動は国の特定健診、特定医療指導の礎となった。

海外の発展途上国でも注目されており、インドネシアやアフガニスタンなどさまざまな国から毎年、視察が多く訪れている。

<Health Tech賞>
池野文昭:MedVenture Partners, Inc 取締役チーフメディカルオフィサー

MedVenture Partnersは、日本初の医療機器専門のベンチャーキャピタルだ。

同社のCMO(チーフメディカルオフィサー)である池野文昭は、循環器内科の医師としてキャリアを積んだ後に渡米。スタンフォード大学のラボで医療機器開発のための動物実験に従事した。シリコンバレーで医療ベンチャーのコンサルティングに携わってきた経歴を持つ。ベンチャー企業が持ち込む医療機器のアイデアに、医師としてのフィードバックを返す。

日本の医療機器産業を育てたい─池野はシリコンバレーで培った経験を、日本で生かす。

<自治体特別賞>
神奈川県

「健康寿命日本一を目指す」 2013年1月、神奈川県の黒岩祐治知事は年頭所感でこう宣言した。神奈川県の取り組みで特徴的なのが未病予防に力を入れていることだ。

県民へのアプローチとしては、県内の自治体や企業、団体の施設に「未病センター」を設置。昨年から「未病サポーター」の育成を始め、すでに5,000人以上が受講した。

一方、産業面では、庁内にヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室を設置。未病産業の創出を支援するほか、CHO(健康管理最高責任者)構想を推進するなど、多角的な施策を実行している。

Forbes × FiNC
WELLNESS AWARD OF THE YEAR 2016 審査員

浦島充佳(うらしま・みつよし) ◎東京慈恵会医科大学教授。1962年、愛知県安城市生まれ。東京慈恵会医科大学卒。小児科医として骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。ハーバード大学公衆衛生大学院で予防医学とリーダーシップを学ぶ。現在、食物アレルギー予防試験を実施中。ビヘイビアヘルス(行動健康科学)による新しい地域医療の構築を目指している。

漆 紫穂子(うるし・しほこ) ◎品川女子学院校長。早稲田大学大学院国語国文学専攻科修了。国語教師を経て、2006年より現職。同校は「28プロジェクト〜28歳になったときに社会で活躍する女性の育成」を実践している。趣味はトライアスロン。12年ITUトライアスロンワールドカップのスペイン大会日本代表。著書に『伸びる子の育て方』(ダイヤモンド社)など。

近衛忠莩(このえ・ただてる) ◎日本赤十字社社長。国際赤十字・赤新月社連盟会長。旧五摂家筆頭の近衛家当主。1964年、日本赤十字社入社。海外での戦後処理をはじめ、国内外での災害救護活動、医療事業、血液事業、社会福祉事業、看護師養成などに携わる。2009年、アジア人初の国際赤十字・赤新月社連盟の会長に選出され、現在2期目を務める。

根来秀行(ねごろ・ひでゆき) ◎ハーバード大学医学部 内科客員教授。パリ大学医学部、杏林大学医学部の客員教授。日本抗加齢医学会評議員。米国抗加齢医学会日本学術顧問。臨床ゲノム医療学会理事。専門は内科学、抗加齢医学、長寿遺伝子、時計遺伝子、睡眠医学など。徳真会グループ「クオーツメディカルクリニック」で診療している。

山田邦雄(やまだ・くにお) ◎ロート製薬会長。1956年、大阪府生まれ。79年、東京大学理学部物理学科卒。91年、ロート製薬取締役就任。99年代表取締役社長を経て、2009年より現職。慶應ビジネススクールMBA(経営学修士)取得。「NEVER SAY NEVER」というスローガンのもと、健康と美に関するソリューションを提供する経営に取り組んでいる。

高岡浩三(たかおか・こうぞう) ◎ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO。「キットカット受験生応援キャンペーン」で成功。「ネスカフェ アンバサダー」プログラムが第6回日本マーケティング大賞を受賞。グローバルに通用する成熟先進国ビジネスモデル構築に注力する。著書に『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『逆算力』(共著、日経BP社)など。

御立尚資(みたち・たかし) ◎ボストンコンサルティング。ボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー・アンド・マネージング・ディレクター。経済同友会副代表幹事、同観光立国委員会委員長。国連世界食糧計画(WFP)協会理事、京都大学経営管理大学院客員教授。日本航空を経て、ボストンコンサルティング グループに入社。2005年から15年まで日本代表。

審査基準
FiNCが事務局を務める「ウェルネス経営協議会」に参加している約80社を対象にアンケートを実施。これにFiNC、「Forbes JAPAN」からの推薦を加えて、各部門の推薦企業リストを作成した。それをもとに、「Forbes JAPAN」編集部が各部門10社程度に絞り、審査シートを作成。審査員による書類審査を経て、集計結果をもとに受賞企業を決定した。なお、特別賞に関してはFiNCおよび「Forbes JAPAN」で協議のうえ、決定した。