自己紹介は「鉄板ネタ」で相手の心を掴め

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やりたいことを実現するには、周囲の人々を味方につけることが大事です。この連載では、研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに、他者に自分を印象づけるスキルについて聞いていきます。

■「もっとしゃべってみたい」と思わせる自己紹介を

自己紹介は鉄板ネタをつくることが大事です。「自己紹介をしてください」といわれると、多くの人が名前は何、家はどこ、家族構成は……と、話しだします。これではまるで「警察の取り調べ」。このように“自己開示”するのではなく、「私プレゼン」のためには“自己呈示”をしていただきたいのです。つまり、思われたい自分にふさわしい内容を話しましょうということです。そもそも、なぜ警察の取り調べになってしまうのでしょうか。自分のことを次々と話すからです。思いつくままにマイデータを語っても、相手の記憶には何も残りません。ですからテーマは、ひとつで十分。相手に覚えられたいテーマを絞り込みましょう。

例えば「私はランチの食べ歩きが好きです。丸の内近辺の安くておいしい店が知りたいときは私に聞いてください」と自己紹介した人がいました。確かにランチ情報を知りたがっている人はいるかもしれません。しかし、果たして自分は相手に「食べ歩きが好きな人だ」と覚えられたいのでしょうか。ビジネスウーマンなら、単なる食べ歩き好きだけでなく、ビジネスにおける能力も相手に印象づけたいですよね。

「食べ歩きが好き」で、かつ「行動力がある」と相手に思われたい場合、こんな自己紹介はいかがでしょう。「新しくオープンした店には絶対に行くようにしています。気になる店があれば私に聞いてください」。当然、嘘をついてはいけませんが、周りに覚えてもらうための自己紹介なので、こういう演出もしながらネタを組み立てていくことが大切なのです。このような鉄板ネタを仕事、プライベート、趣味など分野別、シーン別にひとつずつ持っておくとよいでしょう。

さらに大事なのは、自己紹介は次の会話へのフックであること。自己紹介で自分のデータを120%話す必要はありません。自分の情報を出し切り、「こんな私ですが、もしあなたと同じところがあれば声をかけて」と、受け身になってしまうのはNG。自己紹介は、自分CMです。例えば車のCMを想像してください。車が海辺を格好よく走っている映像が流れます。スペックや性能、値段は伝えず「お近くのディーラーへ」、それで終わりです。

自己紹介も同じように、次の行動を予告しつつ、興味を持ってもらうだけでOK。1分の自己紹介は、その後の1時間の会話のためにあるのです。聞き手に判断を委ねず、自分から仕掛けていく。メリットを伝えて、次にもっとしゃべってみたいと思わせる余韻を残す。そうしたテクニックを身につけてほしいですね。

その点をふまえると、いまの時代、SNSの使い方も重要になってきます。考えられるパターンは2つあります。まず1つめはリアルで会う前に、自分のSNSを見られているパターン。相手はあなたに会う前、すでにフェイスブックやブログをチェックしていて、あなたのことをある程度知っているかもしれません(逆にいうと、人と会う前にはこの程度の下調べをしておくことは、ビジネスウーマンとしての基本でもありますね)。このリアル対面よりも先行するSNSでの印象を“第ゼロ印象”と私は呼んでいます。実際に会う第一印象より前にゼロがあり、その第ゼロ印象が大事というのがパターン1。

2つめはリアルで会ったときの自己紹介で、あなたに興味を持った人が、あとであなたのSNSを検索して、さらに詳しく知るパターン。たとえ初めて会ったときに5分しか話をしなかったとしても、そのあとでSNSを読み込んでいるので、次に会ったときは、やたらと自分のことを詳しく知っている。最初の名刺交換が自分の15秒CMになっているのがパターン2です。

いずれにしても、ビジネスの場においてSNSは実際に会う前から見られている、あるいは将来自分とつながる可能性のある人たちが見るかもしれません。載せる内容には十分に注意を払う必要があります。

そこで、ぜひしてほしいことが過去の投稿の棚卸しです。仕事、友達、趣味などテーマごとにカウントしてみてください。プライベートすぎることを書いていませんか? ビジネスで見られる可能性があるわけですから、女子会で悪ノリした写真やデートの写真はあまり載せないほうがいいでしょう。載せるとしても選んで載せる。書いている内容そのものもポジティブとネガティブに分けてみましょう。ネガティブな内容が多いと、新しいプロジェクトでつながりができた人からは、よい印象を抱かれません。やたらに自撮りが多いと嫌悪感を抱く男性も少なくないようです。そんなふうに客観的に自分のSNSを見直してみましょう。

「他人はあなたが自分を扱ったように、あなたを扱う」という言葉があります。つまり自分が自分を価値の低い人間として粗末に扱うと、相手も自分を粗末に扱う。自分を尊重された人間として大事に扱うと、相手もそういう人だと思い一目おくということです。自己紹介をしたあとに、相手の人から「すごいですね」「素晴らしいですね」と褒められたら、絶対に「いえいえ、そんな」と謙遜しないでください。

例えば「女性で部長って、すごいですね」といわれたら、「おかげさまで」「上司に恵まれまして」といえばいい。けれども「部下は1人しかいないんですけれどね」「もう名前だけで」など、自分が自分を否定形で貶めて扱うと、次からは相手も「この人は1人しか部下のいない名ばかりの役職だ」といった扱いをするわけです。ほんとうにもったいない。それに相手も自分のコメントを否定されたら、次の言葉がなくなりますよね。これでは次の会話の1時間につながりません。自己紹介をしたあとは、相手のコメントに対する返事にも気をつけてください。

私が繰り返しお伝えしていることですが「一挙手一投足に意図をもって話す」ことを、どんな場面でも大切にしてください。

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矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号を取得。現在、国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。全国から研修・講演依頼があとをたたない。著書に『「きちんとしている」と言われる「話し方」の教科書』(プレジデント社刊)などがある。http://www.authenty.co.jp/

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(スピーチコンサルタント 矢野 香 池田純子=構成 米山夏子=イラスト)