家呑みでゆる〜く「ぬる燗のつけ方」

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キリッとした「冷酒」も好き。アツアツの「熱燗」もたまらない。1℃の温度にこだわった「プロの燗」には脱帽だ。でも、家呑みするなら、ゆる〜く、ぬる〜くがいいみたい。

居酒屋で燗酒を飲むのが好きだ。時にピリッとした空気さえ漂うプロの燗つけ師の真剣な眼差しにも胸がキュンとする。で、つい聞いてしまう。

「どうすれば、おいしく燗がつけられますか〜」。すると、プロはこう答える。

「徳利から立ち上る香りで適温がわかる」「1℃単位で味を見極める」のだと。ほほうと感心するも、同時にあー無理ムリと挫折感。だって、鼻は利かないし、舌にも自信なし。プロが使う燗つけ器も持っていない。潔くあきらめたほうがいいのだろうか。

「いえいえ、そんなことはありませんよ」と救いの手を差し伸べてくれたのが、押上の日本酒バー「酔香」の菅原雅信さんだ。徳利をやかんに突っ込み、ストーブで温めながら毎晩一升半(!)の酒を飲む父のDNAを受け継いだという菅原さん。自身も店を開く前までは家でゆる〜く燗をつけていたそうだ。

「温めた日本酒は体になじんで身も心もゆるみますね。冬の夜に家で燗酒を楽しむ醍醐味はそこにあるのでは」。こわばった心身がほどけ、気持ちよ〜くなる温度がまさに「ぬる燗」。道具がなくても、敏感な鼻や舌を持ち合わせていなくてもできるぬる燗のつけ方を、ゆる〜く教えてもらいました。

■なぜ、ぬる燗が気持ちいいのか?

菅原さんによれば、燗酒を所望するお客さんの8割が「ぬる燗」とオーダーするそうな。どうして、酒飲みはぬる燗を欲してしまうのか? なぜ、気持ちいいと感じるのだろう?

▼あっという間に旨くなるインスタント熟成

日本酒に限らず、ワインも焼酎もウイスキーも、酒は熟成によって旨くなる。酒の分子と水の分子が混じり合って、味わいがまろやかに変化することを熟成というが、そのためには長〜い時間が必要。だが、日本酒は燗をつけることでその時間をショートカットできてしまう。「日本酒に伝わる『熱』によって分子が混ざり合い、熟成したのと同じようにまろやかになるんです」。これを菅原さんは「インスタント熟成」と呼んでいる。

▼新たな出会い! 見たことのない別の顏が出てくる

冷や(常温の酒)ではわからなかった味や香りが、インスタント熟成によって花開くことが多々ある。「冷やのときは尖っていた酒の輪郭が丸みを帯びてきたり、味に膨らみが出てきたり。今まで見せなかった別の顏を引き出せる」と菅原さん。特にぬる燗(40〜42℃)は、日本酒のおいしさの軸である「甘味」や「酸」を人の舌がキャッチしやすい温度帯だといわれている。ぬる燗は素直に「お酒がおいしいなあ」と感じられる温度帯なのだ。

▼風呂につかっているような楽ちんな状態

ぬる燗の温度は体温よりも少しだけ高め。ちょうど湯船の温度と同じくらいだ。風呂に入ると、体の血流がよくなり、筋肉もほぐれ、心もとろ〜んと弛緩して「ああ、極楽」となる。温かいお酒が体内に入ると、お風呂につかったときのような心持ちになるのは、体の外側も内側も、基本的に気持ちいいと感じる温度に大きな差がないからだ。ぬる燗を飲む→体と心がゆるむ→幸せになる。そう、ぬる燗は幸せの酒なのだ。

■ではぬる燗をつけてみよう

「どんなお酒もお燗を試す価値がある」と菅原さん。頭ごなしにこの酒は燗に向かないと決めつけないほうが楽しいと言う。近くの酒屋で手に入る本醸造や純米酒で十分にお燗のおいしさに気づくそうだ。

1. 水から温める? それとも湯から?

▼「沸騰した湯に酒器をチャポン」
酒器を湯煎で温める際、水から鍋に入れるのか、それとも湯からか? 答えは、湯から。「水から温め始めると、飲めるまでに時間がかかるから」と菅原さん。手軽に早く飲むためには、やかんで湯を沸かして鍋に移し、酒を注いだ酒器をチャポンと入れる。湯の深さが徳利の高さの半分以上あればベストだ。ちなみに、お酒が常温であることも大事なポイント。冷蔵庫に入れてあったお酒では冷たすぎて温まりにくいので、1時間ほど室温に置いてから燗をつけるとよい。

●酒器や徳利がない場合は……「マグや耐熱ガラスでもOK」
熱湯に入れても割れない素材であればよし。じわじわ酒が温まるマグカップや耐熱ガラスのコップはお薦めだ。

2. ぬる燗の目安は?

▼「チャポンから2〜2分30秒」、「触って、首ぬる&尻熱を確かめる」
最もわかりやすいのは温度計で酒の温度を計ること。45℃近くまでお酒を温めれば、鍋から引き上げて盃に注ぎ、口に入る頃には40℃前後の「ぬる燗」に。温度計がない場合でも「時間」と「触覚」で判断できる。菅原さん曰く「磁器の徳利で2分くらい。厚手のマグカップや耐熱ガラスのグラスならあと30秒ほど長く温めれば、だいたい目安の温度になりますね」。また、徳利の首を触って「ぬるい」と感じ、徳利のお尻を触って「ちょっと熱め」と感じたら、いい頃合いなのだそう。

3. さてお味は?

▼「なじむ」「やさしい」「お風呂みたい」
やってみると、拍子抜けするほど簡単だが、さてさてお味は……。「飲んでみて、アルコールや熱さでピリピリしたら、温度が高めである証拠。飲んだときに、体になじみ、口当たりがやさしく、湯船に入ったときのような気持ちよさが感じられれば、大成功ですね」。

 

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菅原雅信(すがわら・まさのぶ)
秋田生まれで父は酒豪。学生時代は伏見の酒蔵を歩く日々を過ごす。多忙を極める出版社時代は、勤務の合間を縫って全国の酒蔵巡りに専念。2010年「酔香」を開店。生粋の日本酒党だ。
 

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(文・佐々木香織 撮影・萬田康文 教える人・菅原雅信「酒庵 酔香」店主)