2017年のF1は、「原点回帰」と「復権」が大きなテーマになる。マシンのレギュレーションが大幅に変更され、「醜(みにく)い」と非難を浴び続けたルックスがかつてのような精悍な姿に生まれ変わるとともに、1周で5秒ものタイムアップを果たし、世界最速の座をより確固たるものにするのだ。

 まず、マシンがワイドになる。車幅は1997年以前と同じ2000mmへと広がり(これまでは1800mm)、フロント&リアウイングも幅広で後退角がつくなど、精悍なルックスになる。リアエンドのディフューザーも跳ね上げが大きくなって(125mm→175mm)、ダウンフォース発生量は30%以上も増加するとみられている。

 そして、タイヤもワイドになる。フロントは245mmから305mmへ、リアは325mmから405mmへと拡大し、F1ブーム真っ只中だった1992年以前のレベルまでワイドになる。

 ただし、マシン自体の見た目は、それほどワイドな印象を与えないだろう。横幅は当時と同じレベルまで広がっても、ホイールベースがこの25年で大幅に伸長しているからだ。

 たとえば、1988年に16戦15勝を挙げたマクラーレン・ホンダMP4/4のホイールベースが2875mm(全長4394mm)、1998年のMP4-13は3060mm(全長4547mm)だったのが、2016年のMP4-31では3517mmまで伸び、前後のウイングも含めたマシン全長は5000mmを超えるようになっている。

 2017年はフロントウイングの先端がさらに前へ伸びるため、全長はさらに長くなる。つまり、車幅とタイヤ幅がワイド化されても、マシン全体として前後に長い印象はそれほど変わらないはずだ。それでも、ルックスが洗練されることは間違いない。

 もっと重要なのは、F1が速くなるということだ。

 前述のとおり、空力改訂によってダウンフォース量が増加することに加え、タイヤのグリップも増加する。これは、ワイド化で接地面積が増加することだけでなく、設計コンセプトそのものの刷新によるところが大きい。

 これまでピレリのタイヤは「グリップが低い」「脆(もろ)い」といった批判を浴びてきたが、これは2010年の供給開始以来、F1を統括するFIA(国際自動車連盟)や運営側からの「性能低下が大きく、レースを面白くするタイヤを作ってほしい」という要望に応えてきた面が大きかった。

 しかし最近では、各チームがこうしたタイヤの特性を隅々まで把握し、レースでは攻め過ぎてタイヤを壊さないようにあえてペースを抑え、"手加減"して走るというような争いになっていた。こうした興ざめな事態にはドライバーたちからも不満の声が上がるほどで、彼らが全力でバトルを繰り広げる場面を望むファンのためにも、この事態を打開すべく、2017年は"アタック"できるタイヤへと生まれ変わるという。

 ピレリのレーシングマネージャー、マリオ・イゾラは説明する。

「タイヤの設計コンセプトを完全に刷新して、ワイド化しただけでなく、コンパウンド(表面ゴム)もコンストラクション(構造)も完全に違うフィロソフィで設計した。そして、大幅なデグラデーション(磨耗による性能低下)やオーバーヒートが起きないタイヤを作り上げた。2017年はタイヤが安定したパフォーマンスを発揮し、ドライバーたちがプッシュできるはずだ」

 このようなマシン規定の変更によって、ラップタイムは5秒も速くなり、「GP2やWECとほとんど変わらない」と言われた過去数年のF1とは大きく様変わりするだろう。決勝もタイヤマネージメントのためにクルージング走行をするのではなく、スタートからフィニッシュまでプッシュし通しの超スプリントレースになる。

「ドライバーのマインドというのは、『常にプッシュしたい』というのがナチュラルなものだ。だけど実際には、いつプッシュするかを選び、そのためにいかに普段はマネージメントしておくかを考えながら走らなければならなかった。2017年はタイヤマネージメントが今までほど必要なくて、もっと自由にプッシュできるようになることを願っているよ」(ニコ・ヒュルケンベルグ/ルノー)

 ただし空力性能が向上するだけに、マシンが生み出す乱気流も大きくなりそうで、その影響がいかほどのものかは未知数だ。前走車の後方に張りついて走行した際に乱気流を受けてダウンフォースを大幅に失うとしたら、コース上でのバトルは難しくなる。2017年に向けたマシン規定の話し合いが行なわれ始めた当初、ドライバーたちからは「速くなるのはいいけど、空力ではなくメカニカルグリップの増加によるものでなければ、今まで以上にバトルができなくなってしまう」と懸念の声が上がっていたことも忘れてはならない。

 その点についてもタイヤが助けになるよう、「乱気流から抜け出てダウンフォースが戻れば、すぐにパフォーマンスを取り戻すことができるようなタイヤに仕上げたつもりだ」と、ピレリのイゾラは言う。

 また、マシンがワイド化することも追い抜きが難しくなる要因になるのではないか、という声もある。フロントウイングが大きくなることで、接触の可能性も増えそうだ。モナコやシンガポールのようにコース幅が狭いところでは、2台が並んで走ることすら困難なセクションもあると予想される。

 いずれにしても、F1が速くなることは間違いない。その結果、レースが面白くなるかどうかは、まだ開幕してみないとわからないと言えるだろう。

 マシンが速くなればGフォースも大きくなり、ドライバーたちは今まで以上に体力が必要となる。路面の再舗装でグリップが大幅に向上した2016年マレーシアGPでは、多くのドライバーが体力面の厳しさを訴えたが、レースを終えたドライバーたちが疲労困憊しているといった20〜30年前のようなシーンも、また見られるようになるかもしれない。

 重量規制に対応して体重を減らすことばかりを求められていたここ数年とは逆に、ドライバーたちは持久力と筋力アップに追われている。

「ここ数年は体重を落とすためのトレーニングばかりで、筋力を増やすようなトレーニングはしてこなかった。正直言って、最近のトレーニングは退屈だったんだ。でも今シーズンに向けては、もっと身体を"プッシュ"するトレーニングをすることになる。僕はそういうのが好きだから楽しいよ」(ダニエル・リカルド/レッドブル)

 一方、パワーユニットの規定は基本的に何も変わらない。

 1.6リッターV6のICE(内燃機関エンジン)にTC(ターボ)をつけ、MGU-K(運動エネルギー回生システム)とMGU-H(熱エネルギー回生システム)というふたつのERS(エネルギー回生システム)で発電・放電を駆使する技術規定はそのままだ。

 ただし、開発を制限していたトークン制度が撤廃され、自由な開発が可能になる。これまではトークンを最大限に使っても、1年間に開発できるのが48%程度のパーツに限られていたため、大幅な設計刷新はできなかった。しかし、2014年の新規定導入以来、メルセデスAMGのパワーユニットが持つアドバンテージが今になっても揺るがないため、この制約を取っ払ってライバルメーカーたちに挽回のチャンスを与えようというわけだ。

 これによって2017年は、各メーカーともパワーユニットの構造まで含めた大幅な見直しをしている。あまりに複雑なパワーユニット規定ゆえ、見切り発車の面もあった2014年当時に比べると、各メーカーとも過去3年間の経験をもとにある程度の"正解"が見えてきており、今回の再設計でメーカー間の差はかなり縮まるとみられている。

 もちろん、開発が自由といっても「1年間に使えるパワーユニットは4基のみ」という規制は存在する。つまり、シーズンが開幕してしまえば、あとは残り3基の投入タイミングでしか設計変更を施した新パーツの投入はできない。開幕時点と残り3回、計4回のアップデートチャンスを最大限に生かしたメーカーが優位に立つことができるのだ。

 ただファンにとっては、高度で複雑な技術面の変更より、単純に昔のような耳をつんざく甲高いエキゾーストノートの復活こそが切望するものだという声もある。頭脳で楽しむ知的な面白さよりも、感覚に訴えかける直感的な魅力こそが、F1をはじめとしたモータースポーツ復権のカギなのではないか――。

 FIAとしては「F1の商業規模を維持するためには自動車メーカーの存在が不可欠で、彼らの参入を促進するためにはエコロジー技術を意識した現在のレギュレーションが必要だった」という。だが、F1にせよ、WECにせよ、フォーミュラEにせよ、ジャン・トッドがFIA会長に就任してから推進してきたプロジェクトはどれもレース本来の興奮とは異なる、知的好奇心を充足させるようなインテリ層向けのアイテムに成り下がっているように感じられる。

 本当の意味での原点回帰と復権を目指すのなら、改めるべきは彼らの姿勢や考え方なのではないだろうか。

 いずれにしても、2017年のF1は大きく生まれ変わる――。そんな大変革の年に何が起きるか。それは、過去20年で同じくマシン規定が大きく刷新された1998年、2009年を振り返ってみればわかる。

 マシン幅が2000mmから1800mmへとスリム化されてタイヤにグルーブ(溝)が加えられた1998年は、ウイリアムズ・ルノーの黄金時代が崩壊してマクラーレン・メルセデスが頂点に上り詰めた。

 ダウンフォースが50%も削減されるほど空力が大幅に規制され、タイヤがスリックに戻るとともにKERS(運動エネルギー回生システム)が導入された2009年は、ワークスチームが没落してブラウンGPとレッドブルが急浮上を果たした。

 そんな波乱と勢力図の塗り代わりが、2017年にも現実のものとなる可能性は十分にある。3年連続王者のメルセデスAMGとて、当たり前のように頂点に居続けられるわけではないのだ。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki