元モデルのホームレス生活を赤裸々に綴った『ホームレス ニューヨークと寝た男』

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家族や恋人を持たず、大都市ニューヨークに生きる家を持たないライフスタイル。そこには、過酷な生活と引き換えに無上の喜びと自由があった。

ニューヨークの街ゆくモデルやファッショニスタたちに声をかけ、巧みな話術でシャッターを切る白髪のナイスミドルなフォトグラファー、マーク・レイ。モデルや俳優としても活動するハンサムでスタイリッシュな彼は、実は6年にも渡り、ある建物の屋上で寝袋にくるまる生活を送るホームレスだった。

映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』は、レイの友人トーマス・ヴィルテンゾーンがレイの生活に3年間密着したドキュメンタリー。クリント・イーストウッドの息子でジャズベーシストのカイル・イーストウッドが手がけたジャジーなオリジナルスコアが、華やかさと孤独が雑居する摩天楼ニューヨークの世界観を彩っている。

レイの来日中の宿泊場所はSNSで募集され、多数の応募の中から都内のシェアハウスに滞在することになった。静かな住宅街のテラスでくつろぐレイに、ニューヨークでの屋上生活、政治観、恋愛観などを語ってもらった。

-シェアハウスでの滞在はいかがですか?

最初は渋谷のラグジュアリーなホテルに泊まってたから、ファッションからファンクにやってきたという感じかな(笑)。対極だけど、とっても気に入ってるよ。

-今頃、ニューヨークはかなり冷え込んでいますよね。

実はそうでもなくて、意外と暖かいんだ。自然界的にはもっと寒いはずなんだけど。でも僕が屋根の上で生活していた時は、雪が降ったり雨が降ったり、マイナス10度は当たり前で、耐えきれないような寒さの日もあったけどね。

-今回が初来日とのことですが、東京の印象はいかがですか?

とにかく人が多いね!


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-ニューヨークも多いですよね?(笑)

ニューヨークにはさまざまな人種がいるけど、東京はかなり独特だよね。それにすごく静か。ニューヨークを走ってる車は、クラクションを鳴らしまくるのがもはや義務みたいなものだからね(笑)。つい先日、都内の小さな通りを歩いていたら、僕の背後に一台の車がいたんだけど、あまりにも静かで僕は気づかなかったんだ。クラクションを鳴らせばいいのにって思ったけど、郷に入れば郷に従えだよね。

東京はファッション的にも面白いよ。特に若い女性のファッションは変わってるね。ニューヨークの知人女性に東京の服を買っていこうかなと思ってるんだ。アニメのコスプレ衣装じゃなくてね(笑)。

-日本滞在、楽しまれているみたいで何よりです。

でも時差ボケには苦しんでる。こないだも朝の4時に目が覚めて、コーヒーを求めて街をブラブラしていたら、僕みたいに時差ボケで眠れない欧米人の男たちがたくさん街をさまよっていて異様な光景だったよ(笑)。逆に平日の昼間とかだったら、僕みたいな白髪のゴジラみたいに大きな男は日本人の群衆の中で浮くんだろうけど。

-街を歩いていて、日本のホームレスの方々を見かけましたか?

一人だけ、『ビッグイシュー』を道で売ってる人を見かけたよ。僕は、ロンドンの『ビッグイシュー』のインタヴューを受けて、カバーに載ったことがあるんだ。僕は彼から『ビッグイシュー』を買って、その後に僕がカバーの『ビッグイシュー』を見せて、一緒にセルフィを撮ったよ(笑)。

僕も家がなかったという意味では彼らと同じ状況にいたけど、僕はホームレスのシェルターに行って、彼らと問題を話し合うなんてことはしないね。「どこかのビルの屋上で生活してる」と言うと、「ああ、ホームレスなんだ」って思われるけど、僕自身は自分のことをホームレスだなんて思ったことはないし、名乗ったこともない。僕はフォトグラファーであり、俳優であり、モデルなんだ。ただ、寝る場所がなかっただけ。あのビルの屋上以外にね。

それに、路上で暮らすというのはとても危険な生活だよね。僕の場合は屋上というある意味プライバシーが確保された空間だったし、そこに住んでること自体誰にも気づかれていなかった。人の目につく公園なんて、僕なら絶対に選ばないよ。


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-プライバシーは大切ですよね。それではなぜ、友人でもあるトーマス・ヴィルテンゾーン監督が、「あなたの生活を映画にしたい」と持ちかけてきた時、承諾されたのでしょうか? 

確かに、僕がさっき言ったことと矛盾してるよね(笑)。

映画出演を承諾した理由は、フォトグラファーとして、映画業界に身を置く者として、物語の語り手として、作家として、僕の物語が面白いものになるという確信があったからなんだ。以前トムに会った時にも、「僕の今の暮らしはきっといつか面白い物語になる」と話していたんだよね。映画監督としては正直わからないけど、トムのことを友人としてすごく信頼していたから、彼と一緒にやってみよう思ったんだ。

-映画が公開された瞬間、あなたの生活も世間に晒されました。あなたの住処もばれて寝床を失ってしまうのではと、ちょっと心配でした。

心配してくれてありがとう(笑)。

映画を公開すれば、僕のライフスタイルが変わってしまうことはわかっていた。信じてもらえるかどうかわからないけど、僕も一生屋上で暮らそうとは思っていなかったんだ。正直、あの生活に疲れてもいた。映画を通じて自分の状況をさらけ出すことで、僕の人生も変わるかもしれないという希望もあった。そして、僕の生活は実際に変わったんだ。

もちろん躊躇もあったし、恥ずかしい気持ちがないと言えば嘘になる。昨晩外に出かけた時も、会う人会う人に「どんな映画なの?」って聞かれて、「僕の人生についてだよ。大都市に暮らすことの苦労、自分らしく生きることへのもがきさ」って説明したんだけど、映画を語る上でやっぱりホームレスだったってことも説明しなくちゃならなくて。それはやっぱりちょっと後ろめたいんだ。まあ、良いこともあれば悪いこともあるのが人生だよね。

-映画の出演には後悔はないですか?

後悔もたまにするよ。プライバシーを捨て去ることは別に誇らしいことじゃない。でも一方で、この物語を芸術的な側面で描けたことには誇りもある。それに、屋上で寒い夜に耐え、誰にも見つからずに朝目が覚めると、達成感みたいなものを感じるんだよ。


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-なぜそういったライフスタイルを選んだのか、映画の中ではっきりと言及していませんよね。

経済的な理由だった。2008年9月、アメリカ経済が崩壊した(リーマン・ショック)時、たくさんの雇用が失われた。ニューヨークの半数の人々が、今の仕事を続けられるのか、収入がなくなるんじゃないか、このまま今のアパートに住み続けられるのだろうかって心配していたよ。

-ドナルド・トランプが、第45代米国大統領となりましたね。

胸クソ悪いよ。彼は本当にひどい人間だ。この結果が、今のアメリカを映し出していると思うととても悲しいよ。過激主義が主流になっているんだ。国民がトランプを選んだという事実は、アメリカの汚いダークサイドが露呈された結果だね。でも、僕の親戚でもトランプに投票した人はいるよ。

-彼らはトランプのどんなところを支持したのでしょう?

典型だけど、あの経済危機によって打撃を受けたことは大きいと思う。僕のその親戚の人もきちんと教育を受けているけど、失業して5〜6年経つ。彼は僕より年上なんだけど、同性婚にも反対してる。彼は今の生活に不満があるし、怒りを抱えている。それは今の社会のシステムが悪いせいだと批判してるんだ。

僕は自分の暮らしを、社会のシステムや経済状況のせいにしたことはないよ。あくまで僕の個人的な責任だからね。僕が屋上暮らしなのは、僕の選択であり、僕の決断なんだ。

日本に来る飛行機の上で、大統領選の情勢を聞いていたけど、正直驚いたよ。悪夢みたいだった。少しの間だけでもアメリカを脱出できたことはよかったね。君みたいなジャーナリストが僕にトランプの質問をするまでは、気にしなくてよかったから(笑)。

-すみません(笑)。この大統領選の結果は、今後のマークさんの生活にも大きく影響を及ぼすと思いますか?

もちろん。日本の人にだってかなりの悪影響を及ぼすと思うよ。

共和党のジョージ・W・ブッシュは、バカバカしいイラク戦争を始めたし、その結果数え切れない人々を殺し、傷つけた。世界中にテロを生み、難民を生んだ。人類の悲劇そのものだ。あれは彼の責任だし、アメリカ合衆国の責任でもあると思う。

イラク戦争のせいでヨーロッパの人々も大勢苦しんだね。トランプ、つまりアメリカ大統領というのは世界を揺るがす力を持っているんだ。トランプはとても愚かだし、政治的ポリシーもひどいし、性格も最悪だ。人種差別主義者で、ファシストだよ。由々しき事態だよ、まったく。

-リベラル派のニューヨークの人々は、この結果に不満な人が多いのでは?

そうだね。でも、ニューヨークには、マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタテン・アイランドという5つのエリアがある。スタテン・アイランドはトランプを支持したよ。ハンプトンがあるロングアイランドでもそうだった。

-一様には語れませんね。

ところで、マムフォード・アンド・サンズっていう、2013年のグラミー賞で最優秀アルバムを獲ったイギリスのバンドを知ってる? 彼らはこの映画を見て感銘を受けたらしく、映画の映像を新曲『トンプキンス・スクウェア・パーク』のプロモーションに使いたいとオファーがあったんだ。彼らのYoutubeには1000万人くらい視聴者がいるんだよ。ローリングストーンの取材だから音楽の話もしなきゃと思ってね(笑)。

-すごいですね。映画はヨーロッパでも成功したのですか?

大成功とまで言えるかわからないけど、反響は良かった。ロンドンで2週間公開された時は、ガーディアンから良いレヴューが出たよ。小規模な公開だったけど、映画祭などで国際的にも認知されたと思う。それに映画を見た人からたくさん手紙が届いて、「勇気づけられた」「感銘を受けた」「インスパイアされた」とか、さまざまな意見や感想をもらえたことは素晴らしい体験だったよ。

-この映画は日本でも広く受け入れられるような気がします。東京はニューヨークのように家賃が高く、最近はシングル(独身)の人も多く、見えない社会的格差もあり、とても親和性があると思います。

若者からお年寄りまで、どんな人生のステージにおいても見て損はない作品さ。学生たちが映画について議論しても面白いと思うし、若者がどんな反応をするのか僕も知りたい。家族に同じような状況の人もいるかもしれないし、見た人それぞれが何か共通項を見つけられると思う。

-映画の中で、マークさんが「愛していると言ったことがないんだ」と語るシーンが印象に残っています。

ああ、僕の恋愛スタイルの問題だね。僕は、恋人と真剣な関係を長く築けたことがないんだよ。過去20年を振り返れば、最長でも1ヶ月半から2ヶ月しか続いたことがない。でもそれが僕の人生では当たり前になってるんだ。僕は引越しも多いからね、それも原因かもしれない。だけどサンフランシスコには5年は住んでたな。その時は1年くらい続いた恋人がいたけど、振り返れば1ヶ月でやめておくべきのような関係だった。そんな感じで、恋人はまともにいたことがないね。

でも、愛を感じないわけじゃないんだ。「愛してる」と言えないわけでもない。でも、いつも孤独なんだ。性格はオープンだし、誰とでも気軽に話せるんだけどね。僕が思うに、これは現代の大都市にありがちな現象だよ。みんな自分のことで忙しくて、他人に構ってる暇がない。愛を育てるには時間がかかるし、それを愛と認めるには少なくとも数ヶ月はかかるものだからね。


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-それは、あなたの屋上暮らしというライフスタイルと関係があったのでしょうか?

どうだろう、わからないな。この世界には、彼女を殺した罪で牢獄にいる男に、ラブレターを書く女もいるんだよ。一方、僕みたいな平凡な男がまともにデートもできない。不思議だけど、本当の話なんだ。

-でも映画の中で、フランス人の女の子とデートしてましたよね?(笑)

ああ、ジャスティーンね(笑)。彼女とはあの時初めて会って、3日後にはフランスに帰っちゃったよ。面白い出会いだったね。

-マークさんは、もう屋上暮らしではないんですよね?

僕の屋上暮らしは、2014年に終わったよ。ビルのドアの鍵を変えられちゃったからね(笑)。

-それがやめた理由ですか? それともその暮らしに疲れていたから?

やめたのは、その建物に侵入できなくなったことが理由かな。やめざるを得なかったんだ。今は、映画を見て全てを知った知人から連絡をもらい、いくらか家賃を払うことでルームシェアをすることになった。映画の中で僕が寝ていたビルはイーストビレッジの建物なんだけど、今はアッパーウエストサイドに住んでるよ。

-今の暮らしはどうですか?

今なら、なぜ人類に屋根が必要なのかわかるよ(笑)。トイレにキッチンにテレビにエアコンに暖房、最高だよ。

でも僕の中にあった、屋上暮らしというちょっと変わったものを求める欲求というものがゼロになったわけじゃないんだ。あの生活には、ある種の自由があった。家賃を払わないという自由もね。でも、あれはやっぱりクレイジーだよね。好きな時に忍び込めるとはいえ、ちょっと疲れたから昼寝しようというわけにはいかなかった。真夜中に寝るために忍び込むだけ。朝には起きてその場を去らないといけない。

でも毎朝、「サバイバルしたぞ」という達成感があったのも事実なんだ。屋上で空を見上げて、空気を感じて、冬の冷たい雨が降っても、タープを張って小さなねぐらを作って潜り込んでさ。寝袋が濡れていないかなって心配になるけど、暖かいとうれしかった。

-今幸せそうで何よりです。

そうだね。心配してほしくなかったから、家族にも言ってなかった。だって僕は、ニューヨークという大都会でちゃんと生きているし、友達もいるし、精神病でもないし、ドラッグ中毒でもないし、うまくやっていた。ただ、ちょっと変なところで寝ることを選んだだけなんだ。

それは僕にとっての冒険でもあった。きっといつか面白い物語にできると思うこと、それが心の支えでもあった。そう思うことで、自分を受け入れられたんだ。この映画を見た人が、うまくいかないことに直面した時、深く考え込まないで「いつかいいことがあるさ」って思ってくれたらうれしいよ。その人が教師でも、タクシー・ドライバーでも、専業主婦でも、ビジネスマンでも、「この経験を活かして、いつか自分のドキュメンタリーを作るぞ」ってね。

-あなたの物語は、たくさんの人々を勇気づけると思います。

うん。お金がなくても冒険はできるんだってことさ。お金はあるに越したことはないけどね(笑)。


MARK REAY
マーク・レイ 1959年生まれ、ニュージャージー州出身。サウスカロライナのチャールストン大学の経営学部で教養課程の学位を取って卒業。ニュージャージーの輸入業者で働いた後、4年間ヨーロッパでモデルとして活動。1994年、演技に学校へ通い、写真家としても活動を始める。2007年にアメリカに戻り、ファッション・ウィークの撮影中、デイズド・アンド・コンフューズド誌の写真を撮影した。ニューヨークでホームレス生活を送りながら、ファッションモデル兼フォトグラファーとして働き始める。
http://www.markreay.net/

マーク・レイ支援サイト
https://www.gofundme.com/markreay

日本での就職応援サイト
https://motion-gallery.net/projects/hommeless

『ホームレス ニューヨークと寝た男』
監督:トーマス・ビルテンゾーン
音楽:カイル・イーストウッド、マット・マクガイア
出演:マーク・レイほか
http://homme-less.jp/