佐々木蔵之介がやくざ役に初挑戦

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 スマートな出で立ちに反して、怒りの沸点は極めて低く、素手喧嘩(すてごろ)はお手のもの。「破門 ふたりのヤクビョーガミ」で横山裕(関ジャニ∞)とともにダブル主演を務めた佐々木蔵之介が挑んだ役どころは、関わる者全てに災厄をもたらす、まさに“疫病神”のようなイケイケやくざ。「役に対するアプローチというのは変わらない」としながらも、小林聖太郎監督と綿密なディスカッションを経て生み出されたキャラクターは、佐々木以外の演者では考えられないほどの完成度だ。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)

 原作は、黒川博行氏の第151回直木賞受賞小説。キレやすいやくざの桑原保彦(佐々木)と、弁は立つがぐうたらで貧乏な建設コンサルタント・二宮啓之(横山)の凸凹コンビが、関西とマカオで大追走劇を繰り広げるさまを描いている。ハードボイルドな内容ながらも、決して互いを信用せず、時には平然と裏切り行為に走る桑原と二宮の関係性が独特のユーモアを生んでいる。

 内田けんじ監督作「アフタースクール」(2007)で裏社会と通じる男を演じたものの、やくざ役は初めての挑戦。だが「真新しい役だと言っていただけるんですが…」と前置きして、かつて所属していた劇団「惑星ピスタチオ」では「実は悪役ばかり」だったと振り返る。「ただ、桑原という人物は悪役だとは思っていないんです。やくざという職業をやっているという意識が常にありました。アクションも含め、地上波ではなかなか成立できない内容で演じられたことが非常に楽しかったですね」

 「小説を音読してしまうほど」と黒川氏の原作への愛をにじませ、関西出身の役者としては「声に出して読んでみたいセリフばかり」だと嬉々として明かす。「ひとつの会話の中にも、フリと落ちがあって、練りに練られたものばかりです。黒川さんが原作で紡いだセリフを全部言いたいなという思いもありましたよ。映画のシナリオをいただいた時『あれ、あのセリフはないのか』『あのセリフも入れてほしい』と考えてしまったほどなんです」

 原作「破門」は、桑原と二宮の活躍を描く“疫病神シリーズ”の第5作。通巻ものの中盤の物語を映画化するとなると、キャラクターたちの関係性をどう処理するのかが気になるところ。本作では桑原と二宮はすでに出会いを果たし、旧知の存在としてストーリーが始まる。「(小林監督は)すごくその点を考えていらっしゃった。2人が出会ってコンビになったという流れではなく、さらに言えば、互いを“疫病神”だと思っているから、コンビ感は見せたくない。掛け合いの間合いが良すぎてもよくないので、微妙に間を置いてからセリフを入れるといった工夫をしていましたね。上手くいけば笑いが起こる場面で、笑いが起こらないようにするといったように」

 「アドリブは一切なかったんです。セリフの音の高さ、間合いも、クランクインして1週間くらいは打ち合わせしていました」と明かし、撮影現場は「とても安心感がありました」と述懐する。「(小林監督は)キャスト、スタッフの質問に対して、それぞれにわかる“言語”で不安を与えないように答えていました。様々な現場で助監督を務めてきた経験からか、現場をどのように滑らかに回すかを考えている。また関西出身の方なので、笑いを交えて撮影を円滑に進行してらっしゃいましたよ」

 そして二転三転する展開はもとより、桑原という男を形成するファッションも本作の魅力のひとつだ。「衣装は黒川さんが原作でも気をつかっている部分」として、大阪のやくざでありながらイタリアンマフィア風なルックスを、小林監督とともに意識したという。さらに桑原の存在感を強調させるフチなし眼鏡の着脱によって、キャラクターの心情を表現するこだわりも見せる。「格闘する場面では眼鏡は外した方がいいですし。眼鏡がないの時の方が、気持ちと表情がしっかり伝わる。要所要所でとったり外したりというのは少し意識していましたね」

 静かな口調ながらも「なかなかこんな役には巡り合えない」と新味あるキャラクターへの深い愛を感じさせた佐々木。今後も“疫病神シリーズ”の実写映画化に期待感を寄せたくなるほど、佐々木=桑原という強烈なイメージは、見る者の脳裏にしっかりと刻みつけられるだろう。