川崎フロンターレに加入した家長昭博【写真:藤江直人】

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「移籍するときは、馴染めるかいつも心配」

 元日本代表のMF家長昭博が、大黒柱としての居場所を築きあげた大宮アルディージャから川崎フロンターレへ新天地を求めた。ガンバ大阪ユース時代から「天才」と称されてきたレフティーにとって、14年間のプロサッカー人生で延べ9つ目のチーム。何が彼を駆り立て、30歳にして新たなチャレンジを決意させたのか。いま現在の思いだけでなく、これまでの語録も踏まえながら、家長が追い求めているものを探った。(取材・文・藤江直人)

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 高校卒業を待たずにユースからトップチームへ昇格し、ガンバ大阪でプロとしての第一歩を踏み出したのが2004年7月。新たにユニフォームに袖を通した川崎フロンターレが、14年間で延べ9つ目のチームとなる。もっとも、移籍を決断するたびに家長昭博は一抹の不安を抱いてきた。

「移籍するときには、(新しいチームに)馴染めるかどうかいつも心配なんですけど」

 今回は杞憂に終わる。始動を目前に控えた今月14日。フロンターレの公式ツイッターが、バナナのかぶり物をした姿で、笑顔を浮かべながらバナナをほおばろうとしている家長の画像を公開した。

 大黒柱の中村憲剛であれ誰であれ、フロンターレにはスポンサーの食品大手ドールとのコラボレーションで、バナナをかぶる伝統がある。クールで寡黙なイメージが強い家長がさっそく実践している姿は、ファンやサポーターの反響を呼んだ。

 キャンプ中の22日午後に宮崎県から一時帰京して、他の新加入選手とともに臨んだ2017シーズンの新体制発表記者会見では、挨拶の順番が回ってきたときに「パーソナルな紹介を自分でしようと思います」とおもむろに切り出した。

「サポーターの方々からは、よく『あまりしゃべらへん、笑わへん』と思われますが、茶目っ気たっぷりのよく話す関西人なので、気軽に話しかけてください。ちなみに、好きな食べ物はバナナです」

 ここでもバナナを強調。軽妙なトークとともに、会場となった川崎市内の昭和音楽大学に集まったファンやサポーターの爆笑と拍手を誘った。会見終了後には、ツイッターの件も含めてこんな言葉を残してもいる。

「フロンターレは馴染みやすくて、自分でもびっくりしています。このクラブは、以前からPR活動とかがすごいじゃないですか。来てみて実際にすごいと思いました。性格ですか? あまり変わっていないですよ。内々ではいつもこんな感じでしたので」

「パス回しやボールをもらう動きではもっともっと成長できる」

 昨シーズンまで3年間プレーした大宮アルディージャでは、群を抜く存在感を放った。特に2016シーズンは11ゴールと自身初、アルディージャの日本人選手としてもクラブ史上初の2桁得点をマーク。年間総合順位で5位に押し上げる原動力になった。

 移籍を繰り返してきたなかで、ようやく絶対的な居場所を築きあげた。周囲の誰もがそう思っていたなかで、昨年6月に30歳を迎えていた家長は、公式戦で3度対戦したフロンターレに特別な思いを抱くようになった。

「フロンターレの選手のパス回しやトラップ、ポジショニングというのは、試合で対戦していても細かくて正確で、ボールを奪おうと思ってもまったくできなかった。僕自身は30歳になって、身体能力といったものはもう伸びないと思うけど、パス回しやボールをもらう動きではもっともっと成長できる。30歳になって再び挑戦したいと思ったんです。フロンターレには昨シーズン、36歳でMVPを獲得した(中村)憲剛さんをはじめとして、見習うべき選手が大勢いるので」

 稲本潤一(現北海道コンサドーレ札幌)や宮本恒靖(現ガンバ大阪U‐23監督)といったワールドカップ代表選手、最近では宇佐美貴史(現アウグスブルク)や昨シーズンのJリーグベストヤングプレーヤー賞を獲得した井手口陽介を輩出してきたガンバの育成組織の歴史で、家長は異質な輝きを放っている。

 育成組織の基盤を築きあげ、指導・統括してきた上野山信行氏(現ガンバ大阪アカデミー本部・強化本部担当顧問)に、ガンバ大阪ユースの最高傑作といえば誰か、という質問を投げかけたことがある。

「一番は、やっぱり家長でしょう」

 もっとも、返ってきた言葉には、こんな但し書きがつけられてもいた。

「ポテンシャルでは、ね」

 長くガンバの屋台骨を背負っている遠藤保仁からも、サッカー人生のなかで衝撃を受けた選手の一人として、家長の名前を挙げたことがある。

「彼がガンバのユースにいるときから『すごい選手がいる』と聞かされてきたし、実際にトップチームに昇格してきたときにはそう思いました。すぐにでもA代表に入ってくるんじゃないかと」

自問自答を繰り返し、移籍を繰り返す

 恩師から但し書きをつけられ、先輩選手からは過去形で語られていた点が、プロになった家長が抱いた苦悩が象徴されている。若いゆえに好不調の波が激しく、選手層が厚いガンバではなかなかプレー機会を得られなかった。

 2008シーズンから大分トリニータ、2010シーズンにはセレッソ大阪へ期限付き移籍。ピッチ上における時間を増やしながら、自問自答を繰り返していた。特に2010年6月には岡田武史監督に率いられる日本代表が、ワールドカップ南アフリカ大会で決勝トーナメントに進出。下馬評を覆す快進撃で、日本中を熱狂させていた。

 その中心を担った本田圭佑(当時CSKAモスクワ)は同じ1986年6月13日生まれで、ガンバのジュニアユースの同期生でもあった。家長がユースへの昇格を果たした一方で本田は逃し、捲土重来を期して石川県の星稜高校へ進学。名古屋グランパス、VVVフェンロー(オランダ)をへて、日本代表で絶対的なポジションをつかみ取っていた。

 南アフリカ大会の余韻が色濃く残っていた2010年の夏に、本田に対する思いも含めて、家長の心境を聞いたことがある。選手ならば誰でも憧れるワールドカップを見すえながら、こんな言葉が返ってきた。

「自分のストロングポイントを磨いていかないと、ワールドカップは見えてこない。これだ、という武器がないと、ああいう舞台では活躍できないと思っているので。自分の武器ですか? 模索中です。とにかく、いまは力をつけていきたい」

 リーガエスパニョーラのマジョルカへ完全移籍を果たし、ガンバと決別したのは2010年12月。韓国Kリーグの蔚山現代、古巣ガンバへ期限付き移籍を繰り返し、再びマジョルカでプレーした後の2014年1月に、完全移籍でアルディージャに加わった。

「常に成長したいと思って、実際に歩んできた」

 特にJ1への残留争いを余儀なくされていたガンバのラブコールを受けて戻り、実際に降格した後のJ2での戦いを含めて、2012年7月から約1年間プレーしたときにはこんな言葉を残してもいる。

「上手い選手、強い選手は世界中になんぼでもる。そのなかで、自分はどのようにして生き抜いていけばいいのか。海外の高いレベルでもまれないとわからないことだし、だからこそ体で感じられた部分は大きかったと思う」

 公式ブログのタイトルを「拝啓 自分不器用デスカラ。」としていたように、愚直に自分自身と向き合ってきた結果が、移籍の回数にも反映されているのかもしれない。だとすれば、30歳にして決断したフロンターレへの移籍も、かつて抱いていた「模索中」の一環、終わりなき旅の途中となる。

「チームを変えることが必ずしも成長にはつながらないと思いますけど、それでも常に成長したいと思って、実際に歩んできたので。これから先、引退するまでもそうだと思いますし、そういう部分は若いときと変わらないですね」

 昨シーズンまで指揮を執った風間八宏前監督のもと、フロンターレは独特の攻撃サッカーを確立した。フリーの定義ひとつをとっても、中村をして「たとえ味方に相手のマークがついていても、パスの出し手と受け手がフリーだと思えばフリーなんです」と言わしめるなど、斬新な考え方はときに新加入選手を困惑させてきた。

開幕戦の相手は古巣・大宮

 ピッチ上のすべての選手が、絶え間なくボールに関与していくことで、常に数的優位の状況を作り出す。そのうえで「ボールを止めて、蹴る」というサッカーの基本をひたすら反復していく。コーチから昇格した鬼木達新監督のもとでも継続されるスタイルは、家長の目をまるでサッカー少年のそれのように輝かせている。

「いまは本当にすべてが新しいことばかりなので。よくわからないときは(森谷)賢太郎や(谷口)彰悟あたりに聞いていますし、ポジションが近い憲剛さんや(大島)僚太のプレーを見ながら、ああいうときにはこうすればいいんだ、というのも学んでいるし、盗んでもいる。もともとゴールを求められてきたタイプではないので、具体的な数字の目標はないんですけど、鬼木さんからは『もっと貪欲にプレーしないといけないぞ』とは言われています」

 ポジションはまだ決まっていない。長く務めてきたトップ下を含めて、42歳の青年指揮官も「前線であることは間違いないんですけど」と言及するにとどめている。3年連続得点王を獲得した大久保嘉人(現FC東京)が抜けたなかで、家長をはじめとする新戦力と既存の選手たちの理想的な組み合わせが、競争を大前提としたなかで日々構築されている状況だ。

「アルディージャを含めて、どこのチームにいってもレギュラー争いというものはありました。いつでも、どこでもそれに勝って、試合で活躍できるように。パスをしながら、ドリブルをしながら、周囲とのコンビネーションを使いながら、フロンターレの攻撃的なスタイルに絡んでいけたら、と思っています」

 家長もゼロからのスタートに、むしろ心を躍らせている。天才と呼ばれ続けたレフティーが、中村を中心とする超攻撃的なポゼッションスタイルのなかでどのような化学反応を引き起こすのか。くしくも古巣アルディージャのホーム、NACK5スタジアムに乗り込む2月25日のJ1開幕戦で、誰もが期待したくなる答えの一端が明らかになる。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人