<リベラル派からの視点で捉えた映画『スノーデン』は、彼の複雑な人間性を浮かび上がらせる>(写真:ゴードン・レビット〔左〕の演技は見事で、恐怖感がじわじわと伝わる)

 国家安全保障局(NSA)の職員は恋人にしないほうがいい――それがオリバー・ストーン監督の政治スリラー『スノーデン』の最も確かな教訓かもしれない。

 恋人にすれば苦労が絶えない。映画ではエドワード・スノーデン(ジョゼフ・ゴードン・レビット)と彼の長年の恋人リンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)が、東京やハワイで口論を繰り返す。

 彼女が欲求不満を募らせるのも無理はない。スノーデンは不機嫌でよそよそしく、国家機密について日夜考え込んでいる。彼女がパソコンに入れた自分のヌード写真を見せると、「消去しろ」とそっけない。むっとした彼女は言う。「私のおっぱいが国家安全保障上の重大事と見なされるなら光栄だわ」

 だが自分の私生活を国家にのぞかれて光栄だと思う人はいないだろう。だからこそNSAが何百万ものアメリカ人の個人的な通信を傍受していたと知って、全米中が怒った。

 スノーデンの私生活はどうか。

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 2013年に内部告発に踏み切るまで、彼はほぼ無名だった。私生活もほとんど知られていないが、この映画ではたっぷり描かれている。負傷によって04年に特殊部隊を除隊になったこと。「コンピューターの天才」としてCIAに入ったこと。持病のてんかんの苦しみ。そして元気のいいダンサー、ミルズとの関係。

 スノーデンはストーン作品のヒーローの典型だ。2時間余りのドラマで彼の愛国心はパラノイアへと変わる。この映画はストーンが06年の『ワールド・トレード・センター』、08年の『ブッシュ』に続き、9・11テロとその余波をテーマにした作品だ。しかし物語のパターンは89年の『7月4日に生まれて』で使ったもの。理想に燃えた若者が政府機関か軍隊に入り、腐敗に幻滅し、反逆者になっていく。

『7月4日』には戦闘場面があったが、『スノーデン』にあるのはデータのみ。それで観客の目をクギ付けにするのは難しい。ストーンは91年の『JFK』と同様、本物のニュース映像を挿入し、大量の情報が渦巻く現代社会を表現する。ロマンスにはあまり関心がないようで、数少ないセックスシーンでは恋人たちではなく、ウェブカメラの監視の「目」にズームインする。

 ゴードン・レビット演じるスノーデンは物静かで内向的。そのため演技の素晴らしさが見逃されかねないが、巨大な監視システムを前にした彼の恐怖がさりげないしぐさでじわじわ伝わってくる。

[2017.1.31号掲載]

ザック・ションフェルド