患者の負担軽減が期待される(写真:アフロ)

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 日本の再生医療ベンチャー、サンバイオが開発する再生細胞薬「SB623」は、一度損なわれた脳機能は回復しないとする定説を覆す「夢の新薬」である。昨年から日本で治験がスタートした。

 製造過程は以下の通り。まず一人の健康なドナーの骨髄液から、多様な細胞に分化する能力を持つ「間葉系幹細胞」を採取する。これを加工・培養して製品化し、脳内に生じた患部の周辺に直接注射すると、脳の「再生」が見込める。

 夢の再生細胞薬には様々な魅力がある。

 まずコスト面。細胞移植には、患者本人の細胞を利用する「自家移植」と、他人の細胞を移植する「他家移植」があるが、SB623を用いた移植は後者だ。

「自家移植は細胞の処理に時間がかかり、費用が高額になります。一方、他家移植は量産化できるので製造コストが下がり、価格が安くなります」(東京大学医学部附属病院脳神経外科の今井英明特任教授)

 副作用の懸念も少ない。通常、他家移植では免疫系による拒絶反応を防ぐため、免疫抑制剤を使用する。これにより、体内の抵抗力が弱まり感染症などを引き起こすリスクが増すが、「SB623は自ら免疫応答を抑制する働きがあり、免疫抑制剤は不要」(今井氏)という。

 脳の神経細胞を活性化するため、対象疾患は脳梗塞に限らず、“応用範囲”が広くなる可能性もある。

「将来的にはパーキンソン病やアルツハイマー病など、認知症関連の疾患にも適用が期待できます」(今井氏)

 また、凍結して病院に保存すれば、急患が運ばれてきた場合に融解してすぐ使用できる。再生細胞薬の注入には安全性の確立した「定位脳手術」(*)を行うため身体への負担が少なく、米国の治験では手術翌日に退院する患者もいた。

【*頭蓋骨に直径1冂度の穴を開け、脳の深い場所にある目的部位の手術・治療を行う方法】

 最大の魅力は、脳梗塞で苦しむ患者や家族の負担軽減が期待できることだ。脳梗塞は後遺症が残りやすく、介護が必要になるケースもある。

「この治療の最大の目的は、患者の運動機能の回復です。完治できなくても、例えば車椅子の患者が杖で歩けるようになれば、患者や家族にとって大きな喜びです。再生細胞薬で患者のQOL(生活の質)は格段に上がるはずです」(今井氏)

 2016年10月からは、交通事故などで脳が傷つき、手足の麻痺や言語障害がある「外傷性脳損傷」を対象に、国内5か所の医療機関で新薬承認の治験が開始。

 今井氏は東大病院での治験を担当している。今井氏が言う。

「まずは脳梗塞と症状が似ている脳外傷患者で治験を先行し、“本丸”である脳梗塞治療への適用を見据えています」

 政府の成長戦略のもと、2014年11月に施行された医薬品医療機器等法(旧薬事法)はSB623などの「再生医療等製品」について、製造・販売の承認手続きを簡素化した。治験の結果次第だが、早ければ2019年中にも「夢の新薬」が実用化される見通しだ。

※SAPIO2017年2月号