第14回開高健ノンフィクション賞のジャーナリスト・工藤律子氏が講演。トランプ米大統領の唱える自国第一主義と多くの国々が推進するグローバル主義について、格差をさらに拡大すると強調。「このままでは極貧の子どもたちの苦しみは永遠に変わらない」と警告した。

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2017年1月24日、『マラス暴力に支配される少年たち』で第14回開高健ノンフィクション賞(2016年)を受賞したジャーナリスト・工藤律子氏が、日本記者クラブで講演した。受賞作は、若者ギャング団・マラスがはびこるホンジョラスの首都テグシガルパと、世界一危険な町といわれるサン・ペドロ・スーラで、元マラスや現役マラスメンバー、軍警察、そして牧師など若者ギャングの人生を変えようと奮闘する人々を追ったもの。

トランプ大統領の唱える保護主義と日中はじめ多くの国々が推進するグローバル主義について、「どちらもエゴを通しているだけにすぎず、格差をさらに拡大する」と強調。このままでは極貧の子どもたちの苦しみは永遠に変わらないと警告した。

同氏は26年間にわたるメキシコ・ストリートチルドレン取材で知られ、「仲間と誇りと夢と―メキシコの貧困層に学ぶ」「ストリートチルドレン―メキシコシティの路上に生きる」などの著作がある。

なぜ、少年たちは、凶悪で殺人も厭わないマラスに入るのか。殺人命令から逃れるためにメキシコへの決死の逃避行を果たした少年。マラスから抜けギャング以外の道を若者に訴えるヒップホップ歌手(ラッパー)。そして刑務所で囚人に語りかける元大物ギャングリーダーの牧師。開高健ノンフィクション賞受賞作『マラス暴力に支配される少年たち』では、知られざるマラスの衝撃的な現実が描かれている。講演要旨は次の通り。

中米に位置するホンジュラスは2010年以降、5年連続で殺人事件発生率世界一の国である。そこでは麻薬密売をはじめとした犯罪を繰り返す凶悪な若者ギャング団「マラス」が、組織間の抗争を繰り返し、軍警察とも激しく衝突している。マラスのメンバーになる条件は、誰か人を殺すこと。組織に入れば、仲間として受け入れられるが、そこから抜けるときは、死を覚悟しなければならない。

極度の「貧困」故に子どもたちには就学、就職のチャンスがほとんどなく、苦境から逃れるために「暴力ギャング団」ハマスに走る。2014年のホンジュラスにおける殺人発生率は10万人あたり74.55に対し、日本では0.31。若者の多くが、10歳前後からギャングに取り込まれてしまう。

想像を絶する貧困ゆえに、愛情を注がれることがない子どもたちの、感情の向かう先に“ギャング”という組織がある。想像以上の危険がわが身に降りかかったため、故郷や家族を捨てて決死の逃避行に挑んだ少年もいる。貧困に追い詰められている子どもたちは未来に夢を描くことができない。

トランプ米大統領に代表される自国さえ良ければいいという「一国第一主義」が蔓延しつつある。カベをつくりメキシコなど中南米人は来るなというのは世界中の格差を拡大する動きである。

一方で、「グローバル主義」も大きな格差を生むことが分かっている。労働力が安いところに工場をつくって儲けられればいいということ。超低賃金で働く貧困層が存在するからこそ、あり得る話である。

トランプ大統領の唱える保護主義とグローバル主義も対極にあるようだが、どちらもエゴを通しているだけにすぎず、格差をさらに拡大する。その意味でホンジョラスでの厳しい現実を踏まえると、世界全体で政治経済を考えなければならない。

どちらの考え方もエゴを通すだけで、経済発展から取り残された子どもたちや若者を救うことはできず、このままでは子どもたちの苦しみは変わらない。

「分断」を放置するのではなく、違いは違いとして認め合い、世界全体で見て感じ考えなければならない。中南米の国々の若者が大好きなサッカーで言えば、違う者同士がコミュニケーションを取り、連携していかなければならない。(八牧浩行)