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by Bart

「宿主」である生き物に寄生する寄生虫にはさまざまなタイプが存在しますが、本来であれば「寄生する」側である寄生虫に寄生して思考をコントロールし、最終的には自分のエサになるよう行動させてしまう「Euderus set (エンデラス・セト)」と呼ばれる昆虫の行動が報告されています。

Insidious wasp gets ahead by tunneling through host’s head

http://news.rice.edu/2017/01/24/insidious-wasp-gets-ahead-by-tunneling-through-hosts-head-2/

Tales from the crypt: a parasitoid manipulates the behaviour of its parasite host | Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences

http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/284/1847/20162365

タマバチと呼ばれる小型のハチは虫こぶと呼ばれる「うろ」を木に作り、タマバチの幼虫はこの虫こぶの内部を食べながら育ちます。そして成虫になると、タマバチは木の組織をかじることで道を作って虫こぶの外に出て行きます。



タマバチが作る虫こぶはこんな感じ。



しかし、2017年1月25日に発表された研究結果によると、タマバチを観察した結果、自ら虫こぶの穴を塞いで閉じこもり、死を迎える個体が存在することが判明。これはなぜかというと、「Crypt keeper wasp/Euderus set」という別の寄生虫がタマバチに寄生して行動を操作するため。Euderus setの「set」はエジプト神話に登場する、暗黒を人格化した破壊の神セトから取られました。



Euderus setが取る行動がどういうものなのかは、以下のイラストを見るとよく分かります。通常、虫こぶの中で成長したタマバチは木の組織をかじって外の世界に出ていきますが、Euderus setに寄生されているタマバチは、木をかじって道を作ったところで行動をやめ、ちょうど頭で穴にフタをする形で止まります。その後、Euderus setの幼虫は虫こぶの中で成長し、外界に出て行くことになりますが、この時、Euderus setがトンネルを作るためにかじるのは樹皮ではなく、タマバチの体になります。木にできた穴をタマバチでふたすることによって、硬い樹皮をかみ砕かなくてもEuderus setは外界に出られるようになるわけです。



試しに研究者らがタマバチの頭でふたされた木の穴を樹皮で覆ってみたところ、樹皮で覆われなかった場合の3倍の数のEuderus setが穴から出られずに死んでしまったとのこと。

研究を行ったライス大学のKelly Weinersmith氏は「このことから、Euderus setがタマバチの行動を操作する目的はEuderus setが外に出るためだと考えられます。Euderus setはタマバチよりも力が弱いのです」と語りました

ただし、Euderus setが虫こぶの中で成長するタマバチにどのように狙いをつけて寄生するのかは、記事作成時点では不明。研究者らがタマバチの頭でふさがれた木の穴を分解してみたところ、宿主であるタマバチの体の一部からEuderus setのさなぎが見つかったそうです。このとき、タマバチの内臓は既に消え去っており、宿主であるタマバチの体に生み付けられたEuderus setが内臓を食べたのか、それとも宿主とは別に生み付けられたEuderus setが外に出るためにタマバチの体を食べて進んでいたのかは分からなかったそうです。

なお、頭で木の穴にフタをしたタマバチ168体を調べたところ、体内にEuderus setがいなかったのはわずか4体だったことから、外に出る際に偶然タマバチが穴に詰まってしまった、という可能性は否定されています。