新たなスタイルの構築に挑む新生・ヴェルディ。中盤の中軸を担うのが、この19歳の技巧派MF井上だ。(C)SOCCER DIGEST

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 1月25日、東京ヴェルディは今季初のテストマッチに臨んだ。
 
 平日午前のキックオフにも関わらず、味の素スタジアム西競技場には400人近いファンがスタンドに陣取り、通常の5倍近い数のメディアが訪れた。スペイン人の新指揮官、ミゲル・アンヘル・ロティーナの下、スタイリッシュに生まれ変わろうとしている新生ヴェルディ。そのお披露目に注目が集まった。
 
 しかし──。J3のSC相模原を相手に、いいところなく0-1の敗戦。しかも相模原はブラジル人選手ら複数の練習生を含むメンバー構成だ。東京Vは前後半で20人がピッチに登場したが、選手の右往左往ぶりが顕著だった。
 
 それでも、試合後のロティーナ監督はニコヤカにこう話してくれた。
 
「まだ始動して2週間だよ。新しいスタイルの構築に取り組むなかで、なにができてできないのかを確認するための試合だ。その意味ではとても実り多き90分だった。一番気になったのはボールを下げ過ぎていた点。あれでは攻撃の形は作れないからね」

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 システムは一貫して3-4-3だった。3バックの前に2ボランチを置き、両ウイングバックには激しいアップダウンが要求される。前後半で異なったのは、3トップの形だ。前半はドウグラス・ヴィエイラをCFに据え、その両脇に二川孝広と梶川諒太をシャドーのように従わせた。一方で後半は、両ウイングをサイドに張らせた3枚。登録選手たちの個性を見極めながら試行錯誤を続けている印象で、今後は、バルセロナ型の4-3-3にもトライする予定だという。
 
 戦術の肝となるのは、やはり2ボランチだろう。なかでも新スタイルはパスサッカーを基本軸とし、緩急の付いた攻撃が理想となるだけに、司令塔は重責を担うこととなる。ここにきて俄然期待値を高めているのが、2年目の井上潮音(しおん)だ。昨春にとある会社が行なった「Jリーガー・イケメン選手権」で、ルーキーながら堂々9位に食い込んだ、かなりのイケメンである。
 
 2002-03シーズンのリーガ・エスパニョーラでセルタを4位に押し上げ、チャンピオンズ・リーグ出場に導いたロティーナ監督。当時のチームにはロシア代表のプレーメーカー、アレクサンドル・モストボイがいた。攻守の繋ぎを高質にこなし、つねにチームの中心軸となって躍進を支えた名手だ。指揮官が井上に期待するのは、まさにこのモストボイがこなした役回りだろう。サイズ的には167臓60舛叛が細く、経験値もまだ乏しいが、ロティーナ監督は「ひと目見て大好きになった。間違いなく能力が高い。すべての面で優れている」と称える。
 
 さらに、攻撃のコンビネーション熟成に深く関わっているスペイン人コーチ、イバン・パランコ・サンチアゴも激賞する。バルセロナの育成部門で研鑽を積んだロティーナの腹心は、「ポテンシャルとプレービジョンが素晴らしい。守備やポジショニングなどこれから学ぶべき点は多々あるが、言い換えればそれは伸びしろ。試合をこなすなかでどんどん成長していくはずだ」と太鼓判を押した。
 
 昨季からがらりと変わったスタイルの下で、井上はもがきながらも必死に食らいついている。
 
「僕だけじゃなくてボランチ全員が言われてるのは、後ろと前をしっかり繋げということです。センターバックからフォワードに直接入るのはこのチームではあり得ない。去年とはまるで違うし、かなり細かいですね。センターバックまで落ちてボールを受けて、そこから自分のリズムを出していくのが僕の癖だったんですけど、『そこじゃない! もっと前で受けろ!』と。難しい。苦労してる感じです」
 
 小5で東京Vジュニアの門を叩き、以降はよみうりランドを根城に、持ち前の創造性と攻撃性能に磨きをかけてきた。選手個人の自由な発想を重視する育成メソッドは昔もいまも変わらず、昨季までトップチームの監督を務めた冨樫剛一氏もアカデミー出身者で、井上は昇格1年目から伸び伸びとプレーしていた。初めての外国籍監督、そして戦術面で徹底管理されるカルチャーショック。この劇的な変化を、19歳の天才肌は楽しんでいる。
 
「いまは本当に、考えてサッカーをやるのが楽しくてしょうがないんですよ。自由にやるのも楽しかったけど、細かい動きの修正とか、監督が求めているのがなんなのかを考えながらプレーするのが楽しい。すごく充実してます」
 
 ただ、ひたすら指示を待つロボットになるつもりはない。ルーキーイヤーの昨季はセンセーショナルな活躍を見せた一方で、二度の負傷離脱を余儀なくされた。今季は主軸のひとりとしてシーズンを通しチームをリードする、その気概が垣間見える。
 
「ルールはルールとして守るのが第一ですけど、自分の良さも出していかないと成長できない。どんどん前に飛び出していくのが自分のスタイルだし、横パスやバックパスも交えていかないと、効果的はクサビのパスは入りませんから。1トップの下にボールがちゃんと入ればもっとボールが回る。そんな手応えは掴めてます」
 
 
 J2の中位が定位置となって久しい。負の歴史にピリオドを打つべく、クラブは12年ぶりに外国籍監督を招聘し、ともに元日本代表のDF永田充、MF橋本英郎らを獲得。勝負のビッグシーズンと位置付けた。
 
 10年ぶりのJ1昇格に向け、意識を高めているのが生え抜きのアカデミー出身者たちだ。その数は今季の登録全27名中、およそ半分の13名を数える。彼らの奮起なくして、名門復活は望めない。
 
 井上は、ひとりのレジェンドとの出会いで意識が大きく変わったという。
 
「去年一年、永井(秀樹)さんに可愛がってもらって、一緒に過ごす時間が長かったんです。本当にいろんな話をしてもらった。それこそヴェルディが一番強かった時代にプレーしていた方ですから、たくさん貴重な話をしてもらいました。正直話を聞くまではそこまでじゃなかったんですけど、一気に変わりましたね。ヴェルディはここ(J2)にいちゃダメなんだって心底思うようになりましたし、それを実現できるのは僕たちしかない。強い気持ちを持って闘います」
 
 ポジションを争う中盤には、橋本をはじめ二川孝広、中後雅喜と歴戦の勇士が顔を揃えており、井上はみずから率先して彼らとコミュニケーションを取っているという。「ポジショニングとかプレッシャーのタイミングとか、なにを訊いてもすごくプラスになる答がかえってくる。ありがたいです」と、貪欲に吸収している。
 
 1997年8月3日生まれ。3年後の東京オリンピックを目指す世代だ。これまでは怪我などもあって招集されてこなかったが、5月のU-20ワールドカップを目指すU-20日本代表に抜擢されても、なんら不思議ではない。大ベテランの橋本は「潮音はホンマに巧いですよ。東京五輪を目指せると思うし、頑張ってほしいですね」とエールを贈る。
 
 クラブにとっても自身にとっても、勝負の2017年シーズンの幕が上がった。
 
「試合を勝たせられる選手になりたい」
 
 力強い言葉で、その決意表明を締めた。
 
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)