大前研一氏が提言する働き方改革

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 欧米の一流企業では、産休・育休期間は給与全額支給が当たり前となっているといい、最近はらさにその制度が拡充されつつある。一方、日本の場合は、産休・育休の期間がとても短いばかりか、大半の企業は産休・育休期間に給与を支給しない例が多い。経営コンサルタントの大前研一氏は、この格差を問題視しつつも、理想の働き方については、さらに先があると指摘する。

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 私に言わせれば、好きなだけ育休が取得できるという制度も、まだ古い。そもそも「育休」という概念自体が間違いで、企業は育休を増やすよりも子育てをしながら「在宅勤務」ができる制度とシステムを整備すべきだと思うのである。

 なぜなら、インターネット&スマホ革命によって、今や大半のホワイトカラーは、場所を選ばずに仕事ができるようになっているからだ。実際、私自身、インターネットにさえつながっていれば、世界中どこにいても仕事ができている。

 工場のラインや、ホワイトカラーでも営業・販売など顧客・取引先を回ったり現場に常駐していたりしなければ仕事ができない職種に就いている社員が出産・子育てを計画している場合は、1〜2年前から在宅勤務ができる職種に配置転換してもらえばよい。たとえば、営業部門には営業支援という職種がある。営業が受注してきた時に書類作成をサポートする仕事で、これは自宅にいてもできる。

 在宅勤務の最大の問題はセキュリティだ。しかし、営業の内勤業務や総務、経理の売掛金督促など、ホワイトカラーの半分くらいの仕事はそれほど高度なセキュリティが要求されないので、在宅勤務が可能である。

 ちなみに、私が経営しているBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング/企業の業務プロセスを外部の専門企業に委託すること)の受託企業では、子育てをしながら在宅勤務をしている社員のために、家事が一段落して子供が寝ている間だけスイッチをオンにしておくと仕事が入ってくる、というシステムを開発して導入した。

 入ってきた仕事は会社にいる時と同じようにこなし、然るべきタイミングで返さなければならないので、スイッチをオンにした時間によって給与が決まる(時間給はフルタイムで働いていた時と同じ)という仕組みである。これなら職場に復帰した時も、休む前と同じように違和感なく仕事ができる。

 会議や打ち合わせも、パソコンやスマホでスカイプやフェイスタイムなどのソフトを使えば、どれだけ離れた場所にいても、お互いに顔を見ながらリアルタイムで話し合うことができる。さらに最近は、リアルタイムで参加できなかったら後でその映像を見てキャッチアップすることもできるため、その場にいる必然性も少なくなっている。

 在宅勤務を選ぶかどうかは本人の問題である。在宅勤務が嫌なら育休を取ればよいし、育休を取ってから在宅勤務をするという選択肢もある。これから労働力人口が減少し続ける日本では、給与全額支給の育休や在宅勤務の制度とシステムを整備することが急務であり、おのずとその方向に進まざるを得ないが、私は育休という概念よりも在宅勤務という概念のほうが、何事もスムーズに運ぶのではないかと思う。

 安倍晋三首相は「1億総活躍社会」の実現に向けた「働き方改革」として「同一労働同一賃金」「非正規という言葉をこの国から一掃する」と叫んでいるが、そういう概念は私には理解不能だ。仕事の質や成果、地域差に関係なく「同一労働同一賃金」と言われたら企業は賃金が安い国に出て行くしかないので、国内雇用が減るだけである。「雇用創出」どころか「雇用喪失」「雇用消失」につながる愚策だ。

 本当に1億総活躍社会を目指すなら、育休や在宅勤務の拡充を推し進めると同時に、正規であれ非正規であれ「同一生産性同一賃金」にすべきである。

 現在、日本企業の間接業務の生産性はアメリカ企業の半分ほどでしかない。もし、その程度の「働き方改革」ができないようであれば、日本企業はますます衰退するしかないだろう。

※週刊ポスト2017年2月3日号