金正恩氏

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北朝鮮の二大治安機関である人民保安省(警察)と秘密警察である国家保衛省(前国家安全保衛部、以下:保衛省)の要員は、それぞれ保安員、保衛員と呼ばれる。治安維持を名目に、強権を振りかざしながら、北朝鮮の庶民に横暴の限りを尽くしてきた。ところが、最近は風向きが変わりつつあるようだ。

口に砂利を詰め

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、以前ならどんな不当な要求でもおとなしく従っていた北朝鮮の人々が最近、抵抗するようになってきたと報じる。以下は、北朝鮮の市や郡の境界線など、道路の至るところにある検問所でのエピソードだ。検問所では通行証を見せて、荷物検査を受けて、時にはワイロを渡してようやく通過が許される。異常なほど多い検問所は、移動の自由が保障されていないことの象徴だ。

しかし保衛省管轄の10号哨所(検問所)で係員に抵抗する人が増えていると、最近中国を訪れた平壌の情報筋が打ち明ける。

「10号哨所でしつこい荷物検査をされれば『こんな検査をするんだったら、全部持っていけ!』と荷物を投げつけてわめきちらす人もいる。数年前では決して見られなかった光景だ。朝鮮の人々はもはやおとなしく黙っていない」 (情報筋)

保衛省は、秘密警察として住民を監視し統治する。摘発する場合、取り調べの過程では拷問も厭わない。そればかりか、彼らの持つ独自の権力と暴力を活用して北朝鮮の富裕層や庶民から収奪し、金儲けを目的とするケースも少なくない。

(参考記事:口に砂利を詰め顔面を串刺し…金正恩「拷問部隊」の恐喝ビジネス

どんな形であれ北朝鮮の庶民らが、横暴で恐れられていた保衛員に抵抗しはじめたということは、国家保衛省の権威が以前より落ちていることを物語っている。さらに、一般警察である保安員の権威は、より落ちているという。

妻子まで惨殺

北東部の羅先(ラソン)を頻繁に訪れる中国のビジネスマンによると、道端に立って交通取締りを行っている保安員は、バイクが接近すれば違反の有無を問わず笛を吹いて停止を命じるが、半分以上が停まらずに逃げてしまう。おそらく、いちゃもんを付けてワイロをむしり取ろうとする保安員の魂胆が丸見えだからだろう。

また、このビジネスマンがある馴染みのタクシーに乗って田舎に向かっていたところ、保安員に停止を命じられた。「乗せてほしい」という保安員に対しドライバーは「外国人のお客さんを乗せているからダメだ」と断ったという。

いずれのケースも以前ではあり得なかったことで、このビジネスマンは「非常に驚いた」と語った。とはいえ、保安員の横暴に対する報復とみられる事件は、数年前から頻発している。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は2015年8月、悪徳保安員や保衛指導員に対する報復事件が全国各地で頻発していると伝えている。羅先(ラソン)では、評判が極めて悪かった税関の元職員(北朝鮮では警察と同じ扱い)が、外貨稼ぎ業者に囲まれ、激しく暴行された上に、衣服をすべて剥ぎとられて人通りの多い交差点に晒される事件が起きた。これ以外にも、残忍な方法による報復事件も起きているが、それだけ庶民の治安機関に対する恨みは大きいようだ。

驚くべき事に、ここ最近は「法治」「人権」などと言った概念を使い、治安機関に抵抗する庶民が増えつつあるということだ。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の別の情報筋によると、不当な取り締まりを行う保安員に対して、「それは人権違反だ!」と言って反抗する人が現れたというのだ。どうやら「人権侵害」のニュアンスで発した言葉のようだ。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、人々の間で人権意識が芽生えつつあることに対して、「韓国のラジオが情報源になっている」と説明する。

世界最悪の人権侵害国家と言われる北朝鮮に対して、国際社会の批判の声が以前にも増して高まりつつあるが、それに対して北朝鮮の国営メディアは「人権謀略劇」などと激しく批判する。人権という言葉はこのような時に使われるだけで、学校や社会で人権教育が行われるようなことはない。

北朝鮮の人々も人権の意味や概念を理解しているわけではないだろう。しかし、こうした風潮が広がることによって、庶民の間に人権意識が広がることは非常に喜ばしい。