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●6部屋で四季を再現した最先端の施設での果樹生産
東京都府中市に位置する東京農工大学の府中キャンパスでは、2011年3月に開設した「先進植物工場研究施設」でブルーベリーなどを対象に高収量健康果樹管理技術の研究開発を行っている。

「果樹は、季節もののため年間を通じた生産を達成することや、収量を増やすためには年間で複数回の収穫ができるような栽培システムの構築に取り組んでいる。一般的に春夏秋冬を体験しなければ、果樹は開花や実をつけない」。そう語るのは、研究の中心的な役割を務める東京農工大学大学院 農学部長・農学府長・農学研究院長 農学博士の荻原勲氏だ。

葉物やトマトなどの栽培は環境設定などが比較的容易にできるが、果樹の場合は種類によって異なり、周年で萌芽から開花、受粉、着果、果実成熟、休眠と循環するため温湿度や日長など季節ごとの環境変化が複雑だという。研究施設では、この複雑な環境変化をITを活用し、いかにして制御するかということにチャレンジしている。

そこで、同大では年間を通した作物のライフサイクルを短くすることを目的に地上1階、地下1階の2層構造の研究施設に早春室(休眠した芽が萌芽する部屋)、春室(開花し受粉する部屋)、夏室(果実が成長し成熟する部屋)、秋室(来年度の花芽を形成し養分を蓄積する部屋)、晩秋室(葉が紅葉・落葉して休眠を誘導する部屋)、冬室(低温で休眠させる部屋)の6つの季節の環境を再現した部屋を整備した。

各季節ごとの温湿度や光、CO2、風量など最適な環境条件を設定した部屋をブルーベリーをはじめとした果樹のポット(鉢)が移動し、生育させることで本来3カ月を要する期間を1カ月に短縮するなど、ライフサイクルを早める取り組みを実施している。温度が暖かい部屋(春、夏、秋の環境)は地上の太陽光型、温度が低い部屋(早春、晩秋、冬)は地下室の人工光型となっている。

ITの活用としては、従来から温湿度やCO2などはITにより制御していたが、光合成の促進や揮発性の物質を排除するために風量の調節も行っているほか、将来的にはポットの自動化なども想定している。

○年間で複数回の収穫を可能にする栽培技術

最近では、ブルーベリーやミカンなどの果樹を年2〜3回収穫できるようになっており、最終的には1つの苗木で年間を通して連続で収穫を可能とする四季成り化を目指している。四季成り化を目指すうえで、肝となるのが作物を休眠させるのではなく、半休眠状態にする「連続開花結実法」と呼ばれる方式での栽培だ。

同方式は、夏の環境下で花芽の形成を誘導して果実の成熟を促進した後に、温度を下げ、明期(昼の長さ)を短縮し、また新たに開花を誘導することにより、周年での収穫を可能としている。

連続開花結実法を採用した一例として、農林水産省の福島県復興プロジェクトの一環で「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の「先進果樹苗生産工場との連携によるブルーベリーのオフシーズン出荷技術の実証研究」(2013〜2015年度)がある。同研究は福島ブルーベリープロジェクトとして、同大と第一実業、テヌート、東日本地所が主体となり、福島県川内村で実証を行った。

これは、民間の植物工場で開花させたポットを農業者が既存のハウスにレンタルポットとして秋に導入し、オフシーズンの冬に果実の収穫だけを行うことにより、収益をもたらす新たな果樹生産のビジネスモデル。結果として、10カ月連続で果実の収穫が可能となり、品種にもよるが収量は最大7倍に増加したという。

また、同大では1月17日に福島県郡山市と廃校予定の小学校の利活用を検討するとともに、子供たちに将来の科学に対する興味、若手農家の教育支援を行うことで同市の農業・農村を活性化させることを目的に地域連携に関する協定を締結しており、今後も福島県における動向が注目される。

●就農者の増加につながるビジネスモデルの確立
○労力、コスト低減などの課題も

一方で課題も存在する。従来は半休眠状態にすることから温度と一般的な光源で調節していたが、労力とコストがかかるという。そのため、現在は青色(半休眠状態を誘導)、赤色(成長を誘導)、紫色(青、赤の中間の状態)のLED光の活用に可能性を見出している。荻原氏は「花芽のマーカーの遺伝子を用いて、どの色がその時の作物の状態に適しているかをITで制御できれば青・赤・紫色の使い分けが容易になるが、現状ではその解明に取り組んでいる」と現在の状況について説明した。

同氏は「世界の状況を見れば、作物の収量を増やしていく動きにシフトしており、例えばイタリアではリンゴの栽培方法として、従来は4〜5年を要していたものを2年で着果する苗木を開発し、密殖することで全体の収量を高めている。一方、日本は品質が良く、高級ブランドを生産する栽培方法が確立しているものの、高級化による消費量の減少といった現状もある。そのため、ある程度の品質かつ安価で、年間を通じて消費できることが今後は望まれるのではないか。現在、農林水産省では、収量を高める遺伝子やマーカーを開発する動きもあるが、収量を高める品種を開発するには10年以上を要するため、われわれは栽培方法で収量を高めることに取り組んでいる」と説く。

将来的には、連続開花結実法はミカンやイチゴ、サクラボ、ブドウなど、そのほかの果樹にも応用展開が期待されているという。

○未来の農業に期待するもの

今後、取り組む内容として荻原氏は「現在の植物工場では高価なため普及が難しい状況を踏まえ、簡易的な冷蔵庫の中でも環境設定さえ行えば環境を構築できる状況とし、ハウスでの果樹栽培を普及させていきたい」と意気込む。

そして同氏は「近い将来で実現可能なビジネスモデルは福島県川内村の実証実験を例に、対象となる作物の閑散期に企業が半休眠状態の苗木を農業者に貸し出し、年間を通じて同じ作物を生産することで、苗木を生産する企業と農業者双方とも収益の確保が狙えるだろう。また、果樹の生産をスタートさせて軌道に乗せるまでは5年程度要するため、果樹生産に意欲がある若い就農者に対しても有効ではないかと考えており、収量と品質を高めることはもちろんのこと、安定した収益の確保が可能なシステムの構築が急がれる」とも語る。

最後に「農業のIT化により、過疎化など地域のコミュニティが疲弊することも避けられる。農業は複合的に経営を成立させる産業のため、一元化・大規模化するとほころびがでてくる可能性もあり、規模に応じた栽培を可能とするシステムの登場が望まれる。そして、新たなビジネスモデルを構築し、就農人口の向上させることで若者が就農しても収益を確保できる魅力あるものに転換していかなければならない。企業が本格的に農業をはじめるのであれば、自社だけでなく若い就農者でも収益を確保できるモデルを提案していくことも重要なのではないか」と同氏は将来的な国内農業の展開に期待を込めた。

(岩井 健太)