トランプ新大統領は就任演説で「私たちは古くからの同盟を強化し、新たな同盟を構築する」と述べた。そして、安倍首相はトランプ大統領への祝辞メッセージの中で、「日本とアメリカの同盟の絆をいっそう強化していきたい」と伝えた。

 トランプ大統領も安倍首相も「同盟を強化する」と述べている。だが、両者が口にした「同盟を強化する」という表現の内容が果たして似通ったものなのか、それとも似て非なるものなのかは大きな問題である。

同盟はギブ・アンド・テイクの契約

 いかなる国家間の軍事同盟においても、当事国は同盟を結ぶことが自国の国益、とりわけ国防戦略上の利益になることを期待して同盟関係を構築する。

 それぞれの同盟国は、自国の国防戦略に必要な国防システムの弱点あるいは強化したい点を補強するために、同盟相手国が提供する条件を期待するのである。この事情は相手国にとっても変わらない。その意味で、それぞれの同盟国は相手国とギブ・アンド・テイクの関係に立脚しているわけである。

 日米同盟に即していうならば、日本は世界最大の軍事大国であるアメリカから核抑止力の提供を受けるとともに、有事の際には、敵地を攻撃したり遠洋でのシーレーンを防衛したり水陸両用作戦を実施したりするといった自衛隊に不足している各種戦闘力を提供してもらう権利を有している。そして、その対価として在日米軍に土地やインフラサービスそれに諸必要経費などを提供する義務を負う。

 反対にアメリカは、日本から在日米軍に対する土地やインフラサービスそれに諸必要経費などの提供を受ける権利を有し、その対価として核抑止力ならびに各種戦闘力を提供する義務を負っている。

 日本もアメリカも、そのような同盟条約という契約上のギブ・アンド・テイクから互いになんらかの国益を手にしているのである。

日米同盟の構造


水陸両用戦力の配備、日米にとってのメリットは

 具体的な例を挙げよう。

 日本にアメリカの水陸両用戦力(アメリカ海兵隊第3海兵遠征軍ならびにアメリカ海軍第11水陸両用戦隊)が配備されていることによって、日本は自衛隊が保持していない本格的な水陸両用戦能力を有事の際には提供してもらえることを期待できる。その見返りとして、日本は沖縄や岩国の基地や沖縄や富士山麓の演習場などを海兵隊に提供し、佐世保軍港や沖縄ホワイトビーチなどを米海軍に提供している。

 一方のアメリカは、有事の際にそれらの戦力を日本に展開し、各種防衛作戦に従事したり、大規模災害の際にはトモダチ作戦に見られるように水陸両用戦力を展開して日本を支援する。その見返りとして、アメリカ側は水陸両用戦力をアメリカ本土から太平洋を隔てた日本各地に安心して前方展開させておくことができるのである。

 アメリカはこうして水陸両用戦力の前方展開態勢を確保することにより、東北アジア、東南アジア、南アジアから中東地域での戦闘から人道支援・災害救援活動まで、幅広い各種軍事行動に迅速に対応することができる。ひいてはこれらの地域に対するアメリカの国益の維持・伸長を図ることができるというわけだ。

損得勘定を弾くビジネスマンのトランプ氏

 ここで問題となるのが、「アメリカが水陸両用戦力を日本に常駐させていることは日米どちらにとってメリットが大きいのか?」という条約上の損得勘定である。

(もちろん、日米安保条約によって日本に展開しているのは水陸両用戦力だけではなく、空母打撃群やその他の艦艇それに空軍戦闘機部隊や各種補給航空部隊など枚挙にいとまがない。したがって、水陸両用戦力だけで条約上の損得勘定はできず、以下はきわめて部分的な比較に過ぎない。)

 大統領選挙期間中、トランプ大統領は「日本は米軍駐留費を全額負担すべきだ」と口にした。その論理は、アメリカが提供している水陸両用戦力の評価額に比べると、日本が提供している基地・訓練場をはじめとする土地、電気ガスなどのインフラ設備やその費用、基地内の従業員の人件費をはじめとする各種経費などを総合した評価額のほうが安い、という判断に基づいている。

 日米同盟における基地問題に関して、ビジネスマンのトランプ大統領にペンタゴン側がブリーフィングする際、最も説得力があるのはこの種の同盟上のバランスシートの論法であろう。

莫大な金銭的利益を得ているアメリカ

 アメリカから「我々(アメリカ側)の負担の方がはるかに大きい」という主張が飛び出してくるのも、うなずけなくはない。

 少なからぬ米海軍や海兵隊関係者たちから、「もし日本が自分たちで第3海兵遠征軍ならびに第11水陸両用戦隊に相当する水陸両用戦力を自ら保持することになった場合、どれほどの国防予算が必要になるのか日本側は認識しているのだろうか?」という声をしばしば聞くことがある。

 確かにその場合、主要な装備だけを考えても、自衛隊は最低でも強襲揚陸艦1隻、揚陸輸送艦2隻、揚陸指揮艦1隻、強襲揚陸艦に搭載する各種戦闘攻撃機60機以上、オスプレイ20機以上、重輸送ヘリコプター20機以上、攻撃ヘリコプター20機以上、水陸両用強襲車60輛以上、軽装甲車両60輛以上・・・と莫大な国防予算を投じる必要が生じる。それらの維持修理にも、やはり巨額の国防予算が必要になる。加えて、2万名以上にのぼる海兵隊員と海軍将兵も必要になる。このように、アメリカは水陸両用戦力の構築と維持に莫大な費用をかけているのだ。

 ただし、アメリカにとってのメリットも巨大と言ってよい。水陸両用戦力(海軍・海兵隊)に限らず、空母打撃群(海軍)や戦略輸送軍(空軍)などにとっては、アメリカ西海岸から8000〜10000キロメートルも隔たった日本各地に前方展開拠点を確保できる戦略価値は莫大である。

 また、多くの海兵隊や海軍将校たちが「文化水準が高い日本への駐留は、軍人にとっても家族にとっても最高」と語っているように、アメリカ軍が日本駐留によって得られる恩恵を金銭価値に評価すると、極めて巨額にのぼるものと考えられる。

 軍事戦略面からみても、アメリカは日本に各種基地を確保することで莫大な金銭的利益を得ている。もし、日本に海兵隊基地、空軍基地、軍港を確保できない場合、アメリカ軍が東アジアから南アジアに前方展開態勢を維持するには、空母打撃群を少なくとも2セットは増加させなければならない。強襲揚陸艦を中心とする水陸両用即応部隊も2セットは増加させる必要がある。また、大型輸送機や爆撃機の運用にも深刻な支障が生ずることになる。日米同盟のおかげで、アメリカは空母打撃群や水陸両用即応部隊の建造費・維持費を節約することができているのだ。

日本からもバランスシートを提示せよ

 トランプ政権は「日米同盟強化」の施策として、上記の強襲揚陸艦や戦闘攻撃機など金銭価値で評価しやすいアメリカ軍の戦力が日本の提供している“負担”よりも高額であると言い立てて、日本側にさらなる資金提供を迫るであろう。

 日本政府は、そのような要求に唯々諾々と従う必要はない。アメリカ側が日本駐留から得ている戦略的価値を金銭的に見積もり、双方のバランスシートをトランプ大統領に示すところから、日米同盟強化に関する交渉をスタートさせるべきである。そうでないと、「日米同盟の強化」の名の下に日本国民の血税をアメリカに吸い上げられてしまうことになりかねない。

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筆者:北村 淳