「Thinkstock」より

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 かつて社会問題にもなった耐震偽装問題や、最近でも横浜傾斜マンション事件が起きたように、マイホームをめぐるトラブルはあとを絶ちません。

 そして実は私も、現在住んでいる自宅兼賃貸マンション(賃貸併用住宅)を建てている最中に工務店が民事再生法の適用を受け、工事がストップしてしまったことがあります。

 最終的にはスポンサーが現れてその親会社の下で工事が引き継がれ、予定よりも半年近く遅れての完成となりました。

 完全な倒産ではなかったため私はラッキーなほうだったのかもしれませんが、とはいえ残工事代金の支払いをめぐってトラブルとなったり、賃貸部分の入居開始が遅れたことによる損害賠償請求で何度も折衝することになったりなど、あまり愉快なことではありませんでした。

 しかしこの経験から、いくつかの反省と教訓を得ました。

 私の場合はすでに多額のローンを抱えていることに加えて、自営業という、いわゆる「属性」が低いため、ローンが組めるかどうかに不安がありました。また、賃料収入で住宅ローンの返済額をカバーするため、コストを抑えた建築は欠かせません。

 さらに集合住宅の設計にはノウハウが必要で、一般住宅よりも厳しい規制をクリアしなければならず、ここに詳しい業者はそう多くありません。一般の戸建ては建てられても、集合住宅は建てられない、あるいは建築床面積が大きく削られる、建築費が高騰する、というケースはよくあります。私も土地選びではかなり苦労しました。

●安さ重視の盲点

 そのため、ローンを通す力がある、建築コストが安い、賃貸併用住宅の設計施工のノウハウがある、という視点で業者を選びました。もちろん、担当者の力量や相性も良かったこともあります。つまり私の場合、工務店そのものの信頼度や健全性は考えずに業者を選んだことになります。

 確かに値段の安さでいえば、地場の小さな工務店です。大手住宅メーカーでは、彼らの分のマージンが上乗せされるため、どうしても高価格になります。通常は直接大工を抱えておらず、提携の工務店に発注します。そのため仮に2000万円の建築工事を受注したら、地元の工務店にはたとえば1600万円で発注し、差額400万円を利益として持っていく、などという仕組みになっています。もっとも、部材コストは仕入量がまとまる大手のほうが安いため、価格競争力が強い企業もありますが、一般には中小業者のほうがリーズナブルです。

 私の自宅も小規模な工務店に発注して重量鉄骨で建てましたが、大手の木造と同等の金額で収まりました。

 しかし、この値段の安さが業者の首を絞める一因だったのかもしれません。あとから聞いた話ですが、この業者の利益率は業界平均と比べてかなり低かったようです。顧客にとっては嬉しいことですが、過度な値引き要求には注意が必要だということがわかります。業者側は利益を出さないといけないので、値引きした分はどこかで帳尻を合わせないといけない。すると、設計した時の仕様と違ったり、手抜き工事につながる、ということが起こりやすいわけです。

 そのため、相見積もりや値引き交渉は必要だとしても、根拠のない値引きの要求ではなく、「ここをこう変えよう」「これはやめよう」といった打ち合わせのほうが、無理がないと考えられます。

●工務店選びの基準

 次に、どういう基準で工務店を選ぶのかについて、考えてみます。ひとつは、地元で長くやっている小さな工務店に直接発注することが考えられます。地元に根付いて長くやっている工務店は、悪い評判が立つと経営が成り立ちませんから、誠実に施工しようとするでしょう。もちろん上場している大手企業はコンプライアンスには厳しく、その点では同じですが、地場業者の場合、ひとつのクレームが死活問題になるからです。

 また、お互い地元ということで顔が見え意思疎通もできますし、大手のように営業担当者が異動などで変わることも少ないので、話が通じなくなったりすることも避けられます。

 軽微な修理なども、いちいち発注して見積書を取ったりすることもなく、電話一本で、「あ、それなら○○円くらいでできますよ」とすぐ対応してくれる、といった業者もあるでしょう。

 私はこうした点をほとんど考慮せず、会社ができてから10年に満たない業者と契約しました。もちろん担当者は経験豊富で、フットワークも軽く信頼できる人だったので、気にすることもなかろうと思っていました。が、会社としての経営基盤は盤石ではなかったようです。

 長年の実績があれば、平成不況やリーマンショックなどさまざまな経営危機を乗り越えているということですから、そうした判断材料も必要だったのかもしれません。心配な場合は帝国データバンクや東京商工リサーチなどで財務状況に関する情報を入手するという方法もあります。

 ただ、資金繰りが厳しいかどうかは、外からは簡単にはわかりません。たとえば契約や入金をせかす業者は危ないなどといわれますが、末端の従業員には倒産は最後まで知らされないものです。業者の評判はネットで検索することもできますが、元従業員や同業者の嫌がらせの書き込みもあるので、あくまで参考程度でしょう。

 それよりも担当者の当たりはずれのほうが影響は大きい、というのが私の実感です。そして、打ち合わせ内容は毎回必ず書面で残し、双方のサインをして証拠を残しておくことです。私の場合も、「あれ、ここはこうしてと伝えたはずなのに」「見積もりに入っている設備と違う」ということがよくあり、これも完成後にモメる一因となりました。

 また、モデルハウス以外に実際に建てた家を見せてもらう、業者が主催する見学ツアーに参加するとかで、自分の目で確認できる方法もあります。幸い地元には、その工務店が建てた家のリアルなサンプルがたくさんありますから、可能であればそこに住んでいる人たちにも聞いておきたいものです。

 工務店の倒産リスクを低くするには、建築代金を一括先払いしないことです。これはもちろん一般的なことで、通常は完成度に応じて何度かに分割して払います。しかし私の場合、完成度ではなく、単に業者が指定した分割スケジュールで支払っていました。そのスケジュールで銀行からの融資承認を得ていることもあり、何の疑問も持たなかったのです。

 そのため自分が払い込んだ建築資金は業者の運転資金に消え、残代金だけではとても完成には足りないという状況だったようです。

 もし今回が完全な倒産で、工事を別の業者に引き継いでもらったとしたら(そもそも引き受けてくれる業者が見つかる可能性も低い)、予定よりも1,500万円ほど追加でかかっていたことになります。この額の資金調達ができなければ完成させられずアウトです。そういう意味では、いろいろ悶着はあったものの、不幸中の幸いだったというわけです。

●大手を利用するメリット

 反対に大手ハウスメーカーは、中小零細企業よりもこうした倒産リスクが小さく、長くアフターサービスを受けられるという安心感があります。どんなに保障が充実していても、会社がなくなってしまえば意味がありませんから。

 私の場合も、当該の工務店はいまだ再建途上でバタバタしているようで、問い合わせしても反応がない、あっても非常に遅く、おそらくアフターサービスは望めないと半分諦めています。ただしアフターサービスの対応については、業者というよりも担当者個人の問題のほうが大きいかもしれません。

 もちろん、横浜の傾斜マンション問題のように、必ずしも大手なら安心だと断言できるわけではありません。しかしそれでも、この事件では慰謝料が一戸当たり300万円、仮住まい費用の全額負担、全棟建て替えで新築に入居できるなど、破格の条件が出せたのは、やはり大手だからこそでしょう。報道によると、総額300億円以上かかるそうです。

 これはレアケースかもしれませんが、中小にはそんな負担に耐えられるはずもなく、問題が起きた場合の多くは、購入者の泣き寝入りが多いようです。零細企業なら会社をたたんで逃げることもあり得ますが、上場大手はそう簡単に逃げることはできません。その分の安心料が上乗せされているという見方になるでしょうか。

 どちらを取るか判断は難しいですが、私の経験が少しでも参考になれば幸いです。
(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)