「編集長、産むことのメリットとデメリットをわかりやすく教えてください」今年33歳になるワーカホリックなプロデューサーが、ワーママ編集長に詰め寄ったことからスタートした本企画。第2回のテーマは「仕事におけるデメリット」です。

仕事中の私(奥)と海野P(手前)

メリットよりデメリットが知りたい

前回「産んだら、「迷い」は消える。」の原稿を読んだ海野Pからこう言われました。

「編集長のコラム、メリットばっかりじゃないですか。メリットよりデメリットが知りたいんです。つまり“何を犠牲にしたか”ってことです」

なるほど、確かに、これから何かを決断しようとしている人が知りたいのは、メリットよりデメリットですよね。そりゃそうです。メリットなんかいくらわかったところで、正直決断には大きく影響しません。決断を左右するのは、やっぱりデメリットの方です。

ということで、今回は「仕事」に関して、考えうる限りのデメリットを書いてみることにしました。

デメリットは3つに分けられる

うーん、仕事に関するデメリットねえ……。とはいえ、パッとは思いつかないので、ここに順番に挙げてみることにしました。

・仕事仲間と時間が合わない
・メールの返信など、レスが遅れることが多い
・実労働時間がどうしても短くなる
・それを補うために土日とか早朝に仕事をしなきゃいけない
・預け先がなくて職場に連れて行くと、どうしても迷惑をかけてしまう
・企画を考える時に「ママ目線」になってしまうことがある
・目的なく「とりあえずMTGしましょう」みたいな姿勢が許せなくなる
・仕事仲間と気軽に飲み会に行けなくなる
・仕事中の移動経路を常に保育園との位置関係で考えなくてはいけない
・献本された本を読む時間がない
・本屋をぶらついてネタを仕入れる時間がない
・話題になっている映画やテレビを観る時間がない
・(アンパンマンとジブリ以外の)音楽を聴く時間がない
・ネットの記事を読む(ライバル媒体をチェックする)時間がない
・つまり有益・無益の別なく、インプットをする時間がない

と、ここまで瑣末なものを含めて、考えつく限りの仕事のデメリットを挙げてみると、大きく次の3つに分けられるような気がしてきました。つまり、

【1】常に時間に追われるようになる
【2】「申し訳ない」と心の中で謝ることが増える
【3】インプットの時間が取れなくなる

と、中盤まできてようやく今回のテーマが見えてきました。

悩む時間さえない

確かに、【1】の「常に時間に追われるようになる」に関しては、産んでから圧倒的にそうなりました。例えば、今朝6時に起きてからの私の頭の中を振り返ってみると、

「あ、6時だ、寝過ごした。5時に起きて原稿の戻しをやろうと思ってたのに。あ、今日は保育園の送りは誰がやるんだっけ? 私だっけ? だったら、やばい。あ、姑がやるって言ってくれてたんだった。よかった。ってことは、9時までに夕飯の下準備をして、9時15分までに寒中見舞いを5枚書いて、10時までに原稿の戻しや写真のサムネチェックをして、10時45分までに税理士さんに渡す書類をまとめて、15分で着替えと化粧をして、11時にはオフィスに向けて出発しなければ。あ、やば、昨夜、Aちゃんお風呂に入らずに寝ちゃったんだった……体を拭いてあげる時間あるかな」

みたいな感じ(海野Pが麻雀で負けている明け方、私はこんなことを考えているんですよ)。これが月曜日から金曜日まで平日は毎日続きます。土日もここまで張り詰めてはいないものの、「仕事をする時間を2時間くらいは確保しなきゃ」と頭の片隅で計算していたり。まさか自分が1分を争うような生活をすることになろうとは、想像さえしていませんでした。

去年の夏、夫が娘を連れて一週間ほど帰省したことがありました。その時、ひとり自宅に残された私は、突然、あり余る時間を与えられて途方に暮れたのでした。ぶっ通しで仕事をしても、飲みに出かけても、ドライブしても、ショッピングしても、ジムで泳いでも、まだ時間がある。挙句の果てに「私って、10年後どうなってるんだろう……」と悩み始めてみたり。と、その時思い出しました。「あ、この自分についてあれこれ思い悩む感じ、すっごい懐かしいな」と。

そう、産むと時間に追われすぎて、何かに思い悩む時間さえなくなるのでした(あれ?デメリットを語ってるつもりが、いつの間にかメリットになってる?)。

メディア人として致命的なデメリット

二番目の「『申し訳ない』と心の中で謝ることが増える」に関しては、世のワーママがすでにたくさん発言してくださっているので、割愛してもいいと思います。「仕事の言い訳に絶対子どもを持ち出さない」という勇ましいワーママもいらっしゃいますが、私には到底できません。「遅れる」「騒がしい」「休む」「汚れる」「臭い」……何かと謝り続ける毎日です。

私が書きたいのは、三番目の「インプットの時間が取れなくなる」。これこそ、メディアで食っている人間にとっては圧倒的に致命的なデメリットです(よし!やっと海野Pが喜びそうなネタが出てきた!)。

ニュースサイトの編集長をやっている以上、毎日できるだけネットの記事はチェックしておきたい。話題のドラマや映画も押さえておきたい。書店も定期的にパトロールしてネタ探しをしておきたい。ところが、これが全然できない。移動中の空き時間はメールの返信や電話のコールバックで消えてしまうし、録画しておいた番組を1.5倍速でなんとか見ようとしても、だいたい途中でアンパンマンかジブリに切り替えられてしまう。他の空き時間も、より緊急度の高い仕事(クライアントへの提案書、見積書の作成、今週アップの原稿の整理などなど)に回されてしまう。インプットに回す時間なんて、もう残っていないのです。

業界の事情にさとい海野Pをはじめ、優秀な情報網がいろいろ教えてくれるから、どうにかこうにかやっていけるものの、それがなかったら、とてもじゃないけど、こんな目まぐるしい業界でやっていけないと思います。

だから、海野Pには、産むなら、自動的に必要な情報が集まってくるような人的ネットワークをつくっとけよ、とアドバイスすることにいたします。

次回は、「育児は本当に仕事に役立つか?」について書いてみようと思います。

(ウートピ編集長・鈴木円香)