出光興産・月岡隆社長(ロイター/アフロ)

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 出光興産(月岡隆社長)の“お家騒動”は、ますますドロ沼化している。昭和シェル石油(亀岡剛・社長グループCEO=最高経営責任者)との合併をめぐって、反対の立場の出光昭介名誉会長と、合併を推進する経営陣の対立は解決の糸口が見えないまま越年した。

 2016年12月19日、公正取引委員会(杉本和行委員長)は、両社の合併を正式に承認した。出光は公取委の正式承認を受けて同日、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)から議決権ベースで31.2%の昭和シェル株を取得した。取得するのに要した金額は1589億7800万円である。

 一方、出光創業家は、出光と昭和シェルの合併に断固反対している。創業家の代理人の浜田卓二郎弁護士は、「現時点で合併に賛成は100パーセントない」との姿勢を崩していない。

 16年7月に昭介氏が昭和シェルの株式を40万株(0.1%)取得し、出光がRDSから相対で昭和シェル株を取得すれば金融商品取引法に抵触すると主張。出光が昭和シェル株を取得した場合には、証券取引等監視委員会(長谷川充弘委員長)など関係当局に異議を申し立てるとしている。

 出光が昭和シェル株を取得した後、両社は合併することを目指している。これに対し、出光の大株主でもある創業家が反対を表明したため、臨時株主総会を開き、合併に必要な3分の2以上の賛成を得るのが難しい状況が続いている。

 そこで、合併の前段階として、互いに株式を20%程度持ち合う資本・業務提携を結ぶ案を検討した。合併は、株主総会において出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得なければならないため、3分の1を超える出光株式を持つ創業家が反対すれば、否決される公算が大きい。だが、資本・業務提携は総会承認案件ではないため、両社が合意すれば実現する。

 出光創業家は声明で「出光が自社株を昭和シェルに持たせる第三者割当増資を行う場合は、発行差し止めのための法的措置を講じる」と表明した。声明は昭介氏と浜田弁護士らの連名で、昭和シェルに対して出光株式を譲渡することは「創業家が反対する合併議案を通すことが狙いだ」と述べ、「到底承服できない」と強く反発した。

 創業家が法的措置に踏み切れば、全面戦争に突入する。そこで創業家との協議を優先して相互の株式持ち合いを16年末に断念した。

 浜田弁護士は「今回の事態を招いたのは、会社と大株主である創業家の意思疎通が欠けていたことが原因のひとつだ」と述べ、新たな出光をつくっていくうえで当然出てくるテーマとして、創業家出身者の経営参加に言及している。

 月岡隆社長が辞表を懐に入れて、代理人抜きで創業家を直接説得し、昭介氏二男の正道氏を役員(それも常務以上)に就ける妥協案を早急に示すしかない、との声が社内外から出ているが、月岡社長の決断が注目される。

 かつて7代目社長の出光昭氏(創業者・出光佐三氏の末弟で2代目社長の計助氏の二男、持ち株ゼロ)は、生き残りを賭け外部資本の受け入れと株式上場を決断した。当時会長だった昭介氏(佐三氏の長男で、創業家の直系)は、この時も猛反対したが、第8代社長になった天坊昭彦氏が昭氏を強力にサポート。住友銀行、東海銀行、住友信託銀行(いずれも当時)など金融機関の後押しを受けて、株式公開を実現させた。この当時、昭介氏は出光株を40%支配する、唯一の個人大株主だった。現在より持ち株は多かったが、会長を辞任した。

 株式公開後、出光一族の役員は一人もいなくなり、創業家が経営に口を挟むことはなかった。そのため「創業家の影響力はほとんどない」と月岡社長が判断したことで、昭介氏とボタンの掛け違いを起こし、感情的な反発を招いてしまったのだ。

「月岡社長に天坊氏の半分の経営力(経営者の器)があれば、事態はここまでドロ沼状態にならなかっただろう」(出光興産の関係者)との声も聞こえる。二重三重の意味で、月岡社長は人間力が試されている。

●サウジアラムコにのみ込まれることを恐れる出光創業家

 サウジアラムコはサウジアラビア国営石油会社である。サウジアラムコは株式の5%未満を17年中に上場する計画だ。サウジ国内の証券取引所のほか米ニューヨーク市場への上場が有力視されている。日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)はサウジを訪れ、サウジアラムコの東京証券取引所への上場を働きかけている。

 サウジアラムコが上場すれば、時価総額は2兆ドル(約230兆円)を超えるとみられている。時価総額トップの米アップルを大きく上回り、世界最大のエネルギー会社となる。サウジアラムコはアラムコ・オーバーシーズ・カンパニー・ビー・ヴィ名義で昭和シェル石油株式を14.96%保有している。

 出光創業家が昭和シェルとの合併に反対する最大の理由は、サウジアラムコにのみ込まれて出光が消滅することを恐れているからだと指摘するエネルギー業界の首脳もいる。

 昭介氏が16年9月23日付で販売店の出光会会員に宛てた書簡に、次の一文が記載されている。

「韓国のS-Oil社の場合、かつては35%程度の株主であったサウジアラムコ社が、64%の株主となり社長も送り込まれ、タンカーがサウジアラビアとS-Oil社の間でしか往復しなくなっています。このような轍を踏まないようにしなければなりません」

 合併によってサウジアラムコが出光の大株主として入り込むことは、断固阻止したいと考えていることがわかる。いったん、大株主として橋頭堡を確保されれば、早晩、サウジアラムコにのみ込まれる可能性が高い。

 意思が乖離している経営陣と創業家の妥協点は見つかるのだろうか。
(文=編集部)