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トランプ米大統領が20日に就任しました。新大統領はさっそくTPP(環太平洋経済連携協定)離脱などの大統領令に署名したのに続き、NAFTA(北米自由貿易協定)見直しを表明するなど、スタートからパワー全開です。

○日本批判がヒートアップ

トランプ大統領の前途には多くの懸念が指摘されていますが、中でも気がかりなのが、日本への批判を強め始めたことです。昨年11月の当選後しばらくは目立った日本批判は見られませんでしたが、年明け後にトヨタ批判をツイッターに投稿したのに続いて、就任直前の記者会見で「中国、日本、メキシコなどとの貿易不均衡」と日本を名指しして批判、就任後の23日には「日米の自動車貿易は不公平だ」と発言しました。日を追って日本批判がヒートアップしている印象があります。

問題は、その多くが事実でない、または事実をゆがめていることです。まずトヨタ批判ですが、これは本連載の前号で指摘した通り、トヨタのメキシコ工場建設はカナダで生産しているカローラを移管するもので、米国工場の生産も雇用も減らすものではないのです。さらにツイッターでは同社のメキシコ工場の地名を間違えていました。

次に貿易不均衡について。かつては米国の貿易赤字のうち対日赤字が最も多かったことは事実ですが、それは1980年代〜90年代前半の話。現在では対日赤字額は貿易赤字全体の10%に過ぎません(2015年)。ちなみに米国の貿易相手国で最大の貿易赤字国は中国で、貿易赤字全体の62%を占めています。

したがってその対中国と対日本の貿易赤字額には大きな開きがあるわけで、それを同列に置いて批判するのはやや的外れと言えるでしょう。

しかしそれ以上に「中国、日本、メキシコ」と名指しした発言には重要な"間違い"があります。米国にとって貿易赤字の多い国は前述のように1位が中国ですが、2位はドイツなのです。次いで3位がメキシコ、そして4位が日本です。

しかも上位4カ国のうち中国、ドイツ、メキシコ向けの赤字額が増えているのに対し、日本向けの赤字額は減っています。

しかしトランプ大統領はこれまでのところ、貿易不均衡の相手国としてドイツの名前を挙げていません(少なくとのそのような報道には目にしていません)。

トランプ氏がその事実を知らないのか、あるには先入観で発言しているのか、理由はわかりません。うがった見方をすれば、トランプ大統領の祖父がドイツからの移民だったためドイツ批判を避けているとの解釈も成り立ちます。もしそうだとすれば、恣意的に事実をゆがめていると言わざるを得ません。

そして飛び出したのが「日米の自動車貿易は不公平」との発言です。報道によるとトランプ大統領は「日本は我々が自動車を日本市場で売ることを困難にしている」「米国では日本車ばかり目につく。日本は、これまで目にした中で最も大きい貨物船で自動車を米国に運んでいる」などと発言したそうです。

しかしこれも、すべてが事実誤認と言っていいでしょう。日本は自動車の輸入関税をゼロにしており、そのほかの規制についても輸入車について国産車と同じ扱いです。制度的にはなんら障壁も設けていないのです。米国車が日本であまり売れていないのは事実ですが、それは日本市場が閉鎖的なことが原因ではなく、米国車が日本の消費者のニーズをつかめていないからです。同じ輸入車でもドイツ車の人気が高いことと対照的です。

その一方で、米国は日本車に2.5%の関税をかけています。つまり関税だけの比較で見れば、米国の方が輸入に障壁を設けているのです。それにもかかわらず日本車が米国で多く売れているのは、米国の消費者のニーズをつかんでいるからです。

またトランプ大統領の発言はあたかも「日本車メーカーが米国に大量に輸出していることがけしからん」と言わんばかりですが、トランプ大統領が米国内で見かけた日本車の70%以上は米国で生産されたものです。日本の自動車各社は米国での現地生産を増やしており、雇用の増加にも大きく貢献しています。

こうしてみると、トランプ大統領の日本批判は1980年代の貿易摩擦の時代の感覚で発言しているように思えます。他のテーマでも事実誤認や事実に基づかない発言が目立つトランプ大統領ですが、今後もこの調子で日本に対して圧力をかけてくるとしたら、やや厄介なことになりそうです。

標的にされそうな自動車業界はもちろんのこと、自動車に部品や素材を供給する関連業界、また米国やメキシコに進出している企業、両国と取引のある日本企業など影響は広がることが懸念されます。

○日本経済への影響は?

日本経済全体にも影響が出そうです。まず心配なのが円高と株価下落のおそれです。実際、トランプ大統領の日本批判発言が出始めた今年に入って円高傾向となり、日経平均株価も軟調となっています。今後も円高が進むようなら景気にも悪影響を及ぼしかねませんし、株価もさらに下落に転じるリスクがあるでしょう。総合的に見れば、今年の日本経済はトランプ大統領に振り回される1年になる可能性が高く、要注意といわざるを得ないようです。

しかしそれでも今後の日本経済が悪化に向かうとは見ていません。もちろんトランプ大統領の言動や政策によっては一時的なショックや動揺が起きる可能性は十分ありますが、それらにある程度は耐えられる自力がついてきていると分析しています。ここ数年のアベノミクス効果で経済活動の水準はかなり向上しており、日本企業は構造改革を進めてきたことによって基礎体力が上がっていることが、その理由です。

過度に悲観論に陥ることなく、日本経済の自力にもっと自信を持ってもよいのではないかと思います。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」
オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」

(岡田晃)