大前氏が産休・育休制度について語る

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 働く人々に対し、子育て支援の拡充が叫ばれているが、現実にはなかなか普及しない。経営コンサルタントの大前研一氏が、欧米の一流企業の子育て支援制度を例にとり、そもそも人材について日本と欧米にはどのような考え方の違いがあるかについて解説する。

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 アメリカでは子育て支援制度を拡充する企業が相次いでいる。

 CNNによると、クレジットカード大手のアメリカン・エキスプレスは今年1月から、勤続年数1年以上のフルタイムとパートタイムの男女従業員を対象とした給与全額支給の育休期間を、主に子育てを担う親の場合は従来の6週間から20週間に延長した。出産に伴う療養が必要な女性従業員は、さらに6〜8週間の給与全額支給の産休を取得できる。

 保険・金融大手のアクサは、勤続年数1年以上のフルタイムとパートタイムの従業員が主に子育てを担う場合、給与全額支給の育休を16週間まで取得できる。家具大手のイケアは、アメリカ国内のパートタイムも含めた従業員を対象に6〜8週間の育休期間は給与全額を支給し、さらに6〜8週間は半額を支給するという。

 一方、日本の場合は法律上、産休を14週間、育休を最長で子供が1歳6か月になるまで取得できるが、産休・育休中は健康保険から出産手当金、雇用保険から育児休業給付金がもらえるため、大半の企業は給与を全く支給していない。

 だが、これは世界の先進国の常識から大きく遅れている。欧米の一流企業は前述のアメリカン・エキスプレスやアクサ、イケアのように規定の産休・育休期間は給与全額支給が当たり前で、それを超えて休む場合は給与が減額されたりボーナスや昇進・昇給がなかったりするが、復帰はいつでもできる、という制度が一般的だ。

 なぜ、そういう制度になっているのか? 苦労して探し出して採用した社員は、余人をもって代えがたい人材だからだ。優秀な人材は採用が難しい上、会社になじむために最初の数年は大きな投資が必要であり、そうした多大な初期投資をした優秀で貴重な若い人材が出産や子育てのために辞めてしまったら、会社にとって非常に大きな損失となる。

 たとえ途中で2〜3年休んだとしても、30〜40年の勤務スパンで考えれば、女性も男性も好きなだけ育休が取得できて自由に復帰もできるという制度にしたほうが、社員にも会社にもインセンティブがあるのだ。

 日本企業の場合、能力のない人間や生産性の低い人間に長い有給休暇を取られたら会社も周囲の社員も納得できないという問題が出てくるかもしれないが、それは入社試験の時に毎年決まった人数を、優秀な人材かどうかを厳しく見定めず、出身校の知名度や偏差値だけで目をつぶって十把一絡げで採用しているからだ。

 かたや欧米企業の場合は1人ずつ時間をかけて面接し、経営陣が本当に優秀だと判断した人材しか採用しない。しかも、採用後の社員教育に売上高の10%前後を使っている企業が少なくない。だから、そういう大きな初期投資をした貴重な人材を引き留めるため、懸命に努力しているのだ。

※週刊ポスト2017年2月3日号